8 / 21
8
しおりを挟む
「それより、これ。俺のサポートに入るんだったら、最低でも目は通しておけ」
そう言って、鐘ヶ江先輩が私のパソコンの上にファイルを雑に放り投げてきた。
「何ですか? これ」
「今回、担当する依頼の資料だ。それぐらい、聞かなくても分かるだろ」
言い方に棘があるが、確かに聞かなくても分かるようなことだった。でも、もう少し優しい言い方をしてほしい。もちろん、甘やかして欲しいわけではないのだが、誰のせいでこの私の机が散らかっていたのか考えて欲しい。お礼の一言だってあってもいいと思うのだ。
そんな愚痴を心の中に留めながら、私はファイルを開いた。
資料の枚数は、およそ20枚ほど。びっしりと文字がプリントされているが、これぐらいなら大学の課題でよく読まされていたので楽勝だ。
「これ全部お一人で?」
資料というのは、読むよりも作る方が大変だ。いい加減な先輩なので、こういう面倒な作業はしないのではないのかと思っていた。
「いいや。この資料なら暇そうにしていた朝比奈に作らせた」
尊敬の気持ちが再び沸き上がってきたのに、一気に流れ出てしまった。どうやら、鐘ヶ江先輩の器には穴があいているらいしい。事務所のエースだとか、刑事事件を任される凄腕探偵なのだろうが、残念な人というのはどこまで行っても残念なのだろう。
「それじゃあ、10分な」
「え? 何の時間ですか?」
「資料を読む時間だ。俺はタバコを一服して来るから、それまでは時間をやる。」
「えっ……えぇ!」
「吸い終わったら出かけるから準備しておけよ」
「出かけるって……いや、それより10分!?」
突然の時間指定。それもたった10分。先ほど、大学で読んでいたから楽勝だと思っていたが、前言撤回だ。大学でも1時間は貰えていた。それをたった10分しか貰えないなんて、無茶がすぎる。
しかし、鐘ヶ江先輩は考えを変えてはくれないようだ。
「それじゃあ、頑張れよ」
「えっ……ちょっ……」
抗議を申し立てることも引き留めることも出来ずに先輩はタバコを吸いに行ってしまった。
「えぇ……あぁ……もう!」
こうなっては仕方ない。刑事事件のしかも殺人事件なので、1時間と言わず、2時間3時間と読み漁っていたいのだが、10分という時間制限があるのでしっかりと目を通すことは出来ない。
それなら、せめて要点だけでも見ておかなければ。
愚痴はいくらでもあるし、無理だと泣き叫びたい気持ちもあるのだが、今はやれることをひたすらにやるだけ。
無茶は言うけどお礼は言わず、資料は他の人に頼むくせに散らかして、言葉に刺があって礼儀知らずな人だけれど、それでも、探偵としてはエリート。ついてきたいのなら、これぐらいのことは出来て当然ということか。
そう言って、鐘ヶ江先輩が私のパソコンの上にファイルを雑に放り投げてきた。
「何ですか? これ」
「今回、担当する依頼の資料だ。それぐらい、聞かなくても分かるだろ」
言い方に棘があるが、確かに聞かなくても分かるようなことだった。でも、もう少し優しい言い方をしてほしい。もちろん、甘やかして欲しいわけではないのだが、誰のせいでこの私の机が散らかっていたのか考えて欲しい。お礼の一言だってあってもいいと思うのだ。
そんな愚痴を心の中に留めながら、私はファイルを開いた。
資料の枚数は、およそ20枚ほど。びっしりと文字がプリントされているが、これぐらいなら大学の課題でよく読まされていたので楽勝だ。
「これ全部お一人で?」
資料というのは、読むよりも作る方が大変だ。いい加減な先輩なので、こういう面倒な作業はしないのではないのかと思っていた。
「いいや。この資料なら暇そうにしていた朝比奈に作らせた」
尊敬の気持ちが再び沸き上がってきたのに、一気に流れ出てしまった。どうやら、鐘ヶ江先輩の器には穴があいているらいしい。事務所のエースだとか、刑事事件を任される凄腕探偵なのだろうが、残念な人というのはどこまで行っても残念なのだろう。
「それじゃあ、10分な」
「え? 何の時間ですか?」
「資料を読む時間だ。俺はタバコを一服して来るから、それまでは時間をやる。」
「えっ……えぇ!」
「吸い終わったら出かけるから準備しておけよ」
「出かけるって……いや、それより10分!?」
突然の時間指定。それもたった10分。先ほど、大学で読んでいたから楽勝だと思っていたが、前言撤回だ。大学でも1時間は貰えていた。それをたった10分しか貰えないなんて、無茶がすぎる。
しかし、鐘ヶ江先輩は考えを変えてはくれないようだ。
「それじゃあ、頑張れよ」
「えっ……ちょっ……」
抗議を申し立てることも引き留めることも出来ずに先輩はタバコを吸いに行ってしまった。
「えぇ……あぁ……もう!」
こうなっては仕方ない。刑事事件のしかも殺人事件なので、1時間と言わず、2時間3時間と読み漁っていたいのだが、10分という時間制限があるのでしっかりと目を通すことは出来ない。
それなら、せめて要点だけでも見ておかなければ。
愚痴はいくらでもあるし、無理だと泣き叫びたい気持ちもあるのだが、今はやれることをひたすらにやるだけ。
無茶は言うけどお礼は言わず、資料は他の人に頼むくせに散らかして、言葉に刺があって礼儀知らずな人だけれど、それでも、探偵としてはエリート。ついてきたいのなら、これぐらいのことは出来て当然ということか。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる