アイリス未来探偵事務所

小森 輝

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「それより、これ。俺のサポートに入るんだったら、最低でも目は通しておけ」
 そう言って、鐘ヶ江先輩が私のパソコンの上にファイルを雑に放り投げてきた。
「何ですか? これ」
「今回、担当する依頼の資料だ。それぐらい、聞かなくても分かるだろ」
 言い方に棘があるが、確かに聞かなくても分かるようなことだった。でも、もう少し優しい言い方をしてほしい。もちろん、甘やかして欲しいわけではないのだが、誰のせいでこの私の机が散らかっていたのか考えて欲しい。お礼の一言だってあってもいいと思うのだ。
 そんな愚痴を心の中に留めながら、私はファイルを開いた。
 資料の枚数は、およそ20枚ほど。びっしりと文字がプリントされているが、これぐらいなら大学の課題でよく読まされていたので楽勝だ。
「これ全部お一人で?」
 資料というのは、読むよりも作る方が大変だ。いい加減な先輩なので、こういう面倒な作業はしないのではないのかと思っていた。
「いいや。この資料なら暇そうにしていた朝比奈に作らせた」
 尊敬の気持ちが再び沸き上がってきたのに、一気に流れ出てしまった。どうやら、鐘ヶ江先輩の器には穴があいているらいしい。事務所のエースだとか、刑事事件を任される凄腕探偵なのだろうが、残念な人というのはどこまで行っても残念なのだろう。
「それじゃあ、10分な」
「え? 何の時間ですか?」
「資料を読む時間だ。俺はタバコを一服して来るから、それまでは時間をやる。」
「えっ……えぇ!」
「吸い終わったら出かけるから準備しておけよ」
「出かけるって……いや、それより10分!?」
 突然の時間指定。それもたった10分。先ほど、大学で読んでいたから楽勝だと思っていたが、前言撤回だ。大学でも1時間は貰えていた。それをたった10分しか貰えないなんて、無茶がすぎる。
 しかし、鐘ヶ江先輩は考えを変えてはくれないようだ。
「それじゃあ、頑張れよ」
「えっ……ちょっ……」
 抗議を申し立てることも引き留めることも出来ずに先輩はタバコを吸いに行ってしまった。
「えぇ……あぁ……もう!」
 こうなっては仕方ない。刑事事件のしかも殺人事件なので、1時間と言わず、2時間3時間と読み漁っていたいのだが、10分という時間制限があるのでしっかりと目を通すことは出来ない。
 それなら、せめて要点だけでも見ておかなければ。
 愚痴はいくらでもあるし、無理だと泣き叫びたい気持ちもあるのだが、今はやれることをひたすらにやるだけ。
 無茶は言うけどお礼は言わず、資料は他の人に頼むくせに散らかして、言葉に刺があって礼儀知らずな人だけれど、それでも、探偵としてはエリート。ついてきたいのなら、これぐらいのことは出来て当然ということか。
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