アイリス未来探偵事務所

小森 輝

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 意気込みを十分に身につけて、資料へと立ち向かった。
「えーっと……なになにぃ……」
 所要時間は10分。資料は20枚強。つまり、1枚あたり使える時間は30秒。全てを頭に入れることは諦めよう。とにかく、話に付いていけるように、要所を押さえる。分からないことがあってもすぐに調べることが出来る程度には頭に入れ込む。そのためには、できる限り集中しなければならない。
 「警察は殺人と断定」「背後から首筋を一突き」「被害者は女性」「仕事を無断欠勤」「自宅で発見」「鍵は開いていた」「荒らされてない」「強盗ではない」「暴れた様子はない」「自宅で凶器発見」「司法解剖」「角度から身長175cm以上」「椅子を使った可能性」「男性の可能性」「知人は多い」「目撃証言なし」「監視カメラなし」「聞き込み」
「おい! 新人!」
「ほへっ!」
 そう声をかけられ、一瞬にして現実に戻された。ついでに変な声も出てしまった。
「行くぞ」
 私に声をかけたのは鐘ヶ江先輩だった。
「えっ……もう10分経ったんですか?」
 まだ資料を最後まで読めていない。けれど、私の間隔では、まだ10分は経っていないような気がする。かなりいいペースで読み進めていたし、この調子なら2週できるんじゃないかと思っていたぐらいだ。
「10分? んなもん、計ってるわけないだろ」
「そんなぁ……」
 これは絶対に10分経っていない。そもそも、タバコを吸うだけの時間なのだから10分も必要なかっただろう。
 迂闊だったと自分を責めかけたが、そもそも10分でも厳しいのに、それをさらに短くされては資料を把握することなんて出来るわけがない。
「というか、まだ外に出る準備が出来てないのか? これ以上待つ気はないぞ」
 さらに外出の準備までしておけなんて、それは流石に人智を超越している。
 ただ、今の私は、机の整理をして、渡された資料を必死になって見ていただけなので、自分の鞄から物を出したりしていない。なので、すぐにでも外出する事ができる。
「大丈夫です! すぐに行きます!」
 自分のバッグと必死に要所を押さえようとした資料、そして、ついでにパソコンも持って鐘ヶ江先輩の後を追った。
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