アイリス未来探偵事務所

小森 輝

文字の大きさ
18 / 21

18

しおりを挟む
「周辺にある防犯カメラには犯人らしき人が映っていなかったとありますけど、これは一体……」
「そのままの意味だろ。この周辺の防犯カメラには犯人と思われるような人物は映っていなかった。だから俺たち探偵に依頼が回ってきた訳だしな。見た感じ、抜け道なんかもなさそうだし、おそらく、防犯カメラの録画履歴に残らない日数、だいたい2週間ほど前から被害者の自宅に住んでいたんじゃないのか?」
「なるほど……では、その同棲相手が犯人と言うことですか」
 被害者は同棲していたということだろう。しかし、2週間も外に出ないようなヒモ男を養っていたのに殺されるなんて、被害者の苦労が報われない。
「おそらくな。被害者を殺害した後、そのまま被害者の車で逃走。近くの空き地に乗り捨てられていたそうだ」
「じゃあ、その車から犯人の指紋とかが出たんじゃ?」
「あぁ。ただし、3人分の指紋がな」
「そうですよね……」
 鐘ヶ江さんが言っていたように、特定できれば私たちに依頼は来ていなかった。
「3人とも被害者とは接点があり、恋人関係だったが同棲はしていないと供述している。そして、3人とも犯行時刻のアリバイはない」
 どうやら手詰まりといった様子だ。
「あとは自供するのを待つしかなさそうですね……」
 そう思っていた私だったが、鐘ヶ江さんは違った。
「そうでもないさ。この周辺を見て確信したよ」
 どうやら、鐘ヶ江さんには犯人が見えているようだ。
「この周辺は防犯カメラで囲われていて、映らずに被害者宅へ行くのは、ほぼ不可能。なら、防犯カメラの記録が残っている間のアリバイを調べればいい。2週間ほどはあるんだ。その期間でどこかの防犯カメラに映っていればいいだけだ。後は警察が調べたら解決するだろう」
 突飛な思考ではなく、ちょっとした見落としが捜査を難航させていたようだ。
「とりあえず、これで事件は解決するだろう。あとは警察から事件の背景なんかの事後報告を待つだけだ。帰るぞ」
「は、はい!」
 殺人現場を見ることもなく、事件は解決してしまった。
 そう言えば、今回の事件では防犯カメラが重要になっていたが、もしかすると、それを確認するためにわざとこの周辺を回っていたのだろうか。道に迷ってはいたけれど、やっぱり事務所でトップと言われるだけの実力は持っているのだろう。
 私もいつかは……でも、社会人として、こんないい加減でいいのだろうか。
 そんな葛藤を抱きながら、私は車へと戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...