アイリス未来探偵事務所

小森 輝

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 殺害現場となったのは、2階建ての木造アパート。今にも幽霊が出そうな見た目だけれど、実際に殺人事件が起きているので冗談にもならない。
「結構、古いドアだな。あれじゃ、ピッキングしたら簡単に開きそうだ」
 私が建物の全体像を見ているとき、鐘ヶ江さんは部屋のドアに注目していた。感性が違うというのは、視点が違うと言うこと。普通の人が気づかないようなことに鐘ヶ江さんは気づくのだろう。
「しかし、こんな場所で女性が一人暮らしか……。ちょうどいい。お前、どう思う?」
「えっ? どう思うって言われても……」
 急に話を振られても何を聞かれているのか分からない。そんな察しの悪い私に鐘ヶ江さんは苛ついているようだ。
「お前がこのアパートに住みたいかどうかだよ。俺にはどうも女心ってのが分からなくてよ」
 でしょうねという言葉は飲み込んだ。女心が分かっていたら、おそらく今頃、この人の左手薬指には結婚指輪がはまっていただろう。
「それで、どうなんだ? お前はこのアパートに住みたいか?」
「それは……」
 この2階建てアパートは、築年数もそれなりにありそうだし、セキュリティーもかなり低そうだ。
 私は実習をするにあたって一人暮らしを始めたのだが、正直、こういう感じのアパートは候補にすら上がらなかった。
「ちょっと……」
「嫌かどうかで言うなら嫌っていうのは分かってんだよ。もし、ここに住むしかないような金銭的状況だとして、ここにそのまま住むのかどうかってことだよ」
 それならそうと最初から言ってほしいのだけれど、これからも鐘ヶ江さんについて行くのならこれぐらいは察することができるようにならなければならないのだろう。
 一流の探偵になるためにも今は我慢して勉強させてもらおう。
「一人で住むのなら……せめて鍵だけでも変えますかね……」
 部屋の善し悪しはどうあれ、とりあえずセキュリティーが強固であれば安心して眠れる。
「なるほど。つまり、鍵を変えれるだけの金がなかったとしたら一人では住まないと。友人か、もしくは恋人か……」
「恋人……」
 それは資料で見た気がする。
 慌てて資料を取り出し確認する私とは違い、鐘ヶ江さんは何も見ることなく資料に書いてある事実を語った。
「隣の部屋の住人によれば、被害者の部屋には頻繁に男性が出入りしていたそうだ。古いアパートだ。壁が薄くて隣の部屋からの声も聞こえていたんだろうよ」
 このままでは負けた気分になるので、少しだけ不足している部分を付け加えておこう。
「ですけど、日頃から喧嘩をしているような声は聞こえてなかったみたいですね」
「あぁ。事件当日も騒いでいる音は聞こえなかったみたいだしな。まあ、現場で争った様子もないし、当然だろう」
「現場で争わなかったということは、殺害現場は別ってことですかね?」
「いや、それはない。被害者の職場から車を防犯カメラで追ったが、外部で殺された可能性は低いそうだ」
 確かに、資料にはそう書いてある。そして、そこには妙なことも書いてあった。
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