16 / 21
16
しおりを挟む
やはり、車酔いの原因は資料を読んでいたのではなく、このラベンダーの臭いではないのかと思い、車の窓を少し開けて少しでも外の空気を吸い込もうとしていたのだが、そこで少しおかしなことに気づいた。
「あれ……こっちは事務所に向かう道じゃないですよね?」
資料を読んでいたので、行きの道を覚えていたわけではない。ただ、この辺の地理については、ある程度頭に入れている。お茶請けのお使いなんかを頼まれたときにちゃんとこなせるようにと地図を見ておいたのが役に立った。
「あぁ、言ってなかったか。今から現場に向かうつもりだから」
現場、というのは、おそらく、今回の事件があった場所のことだろう。つまり、被害者が殺された殺害現場のこと。いい加減な先輩だと思っていたが、ちゃんと資料を読んで被害者の住所なんかは暗記しているのだろう。いいや、それどころか、この辺の地図も頭に入っていて、住所さえ分かれば最短距離で向かえるのかもしれない。
事務所のエース。刑事事件を任されるエリート。
そんな肩書きが、鐘ヶ江さんを過大評価してしまう。
「あれ……この辺だったような……」
完全に迷子になっていた。
「あっれ……どっから入ってきたっけな……」
しかも、迷子になっているのに地図すら開こうとせずに住宅街をぐるぐると回っている。
「あの……私、ナビしましょうか?」
「いや、大丈夫。きっと、この辺なんだ。前もこの辺に来たことはあるし……」
この謎の自信はどこから来るんだろうか。
仕方ないので、私は携帯のナビアプリを開いた。こんなこともあろうかとダウンロードしておいて正解だった。
「えっと……」
GPSはあらかじめついているので、アプリに住所を入力し、早速、ナビを開始しようとした。しかし、そのナビは早々に終わりを向かえた。
「あっ……」
もう目的地についていたのだ。
しかし、それに気づいていない鐘ヶ江さんは、殺害現場を素通りして、そのまま直進していく。
「ス、ストップ! ストップです鐘ヶ江さん!」
私は慌てて叫んだ。
「なんだ、急に……」
鐘ヶ江さんは急に叫んだ私を変な奴だと見ているが、鐘ヶ江さんのほうが変なので安心してほしい。
「さっき、現場を通り過ぎましたよ!」
「はぁ? お前、ナビしてんだからちゃんと止めろよな」
いやいや、ナビ始めたのはついさっきですから。逆に鐘ヶ江さんは何で気づかなかったんですか。殺害現場になった建物の写真は資料に載っていたはず。探していたのなら私より先に止まれていたはず。この人はどうやってたどり着こうとしていたのだろうか。
文句は尽きぬほどあるのだが、鐘ヶ江さんが車から出て行くので、ひとまず押さえて私も現場へと向かった。
「あれ……こっちは事務所に向かう道じゃないですよね?」
資料を読んでいたので、行きの道を覚えていたわけではない。ただ、この辺の地理については、ある程度頭に入れている。お茶請けのお使いなんかを頼まれたときにちゃんとこなせるようにと地図を見ておいたのが役に立った。
「あぁ、言ってなかったか。今から現場に向かうつもりだから」
現場、というのは、おそらく、今回の事件があった場所のことだろう。つまり、被害者が殺された殺害現場のこと。いい加減な先輩だと思っていたが、ちゃんと資料を読んで被害者の住所なんかは暗記しているのだろう。いいや、それどころか、この辺の地図も頭に入っていて、住所さえ分かれば最短距離で向かえるのかもしれない。
事務所のエース。刑事事件を任されるエリート。
そんな肩書きが、鐘ヶ江さんを過大評価してしまう。
「あれ……この辺だったような……」
完全に迷子になっていた。
「あっれ……どっから入ってきたっけな……」
しかも、迷子になっているのに地図すら開こうとせずに住宅街をぐるぐると回っている。
「あの……私、ナビしましょうか?」
「いや、大丈夫。きっと、この辺なんだ。前もこの辺に来たことはあるし……」
この謎の自信はどこから来るんだろうか。
仕方ないので、私は携帯のナビアプリを開いた。こんなこともあろうかとダウンロードしておいて正解だった。
「えっと……」
GPSはあらかじめついているので、アプリに住所を入力し、早速、ナビを開始しようとした。しかし、そのナビは早々に終わりを向かえた。
「あっ……」
もう目的地についていたのだ。
しかし、それに気づいていない鐘ヶ江さんは、殺害現場を素通りして、そのまま直進していく。
「ス、ストップ! ストップです鐘ヶ江さん!」
私は慌てて叫んだ。
「なんだ、急に……」
鐘ヶ江さんは急に叫んだ私を変な奴だと見ているが、鐘ヶ江さんのほうが変なので安心してほしい。
「さっき、現場を通り過ぎましたよ!」
「はぁ? お前、ナビしてんだからちゃんと止めろよな」
いやいや、ナビ始めたのはついさっきですから。逆に鐘ヶ江さんは何で気づかなかったんですか。殺害現場になった建物の写真は資料に載っていたはず。探していたのなら私より先に止まれていたはず。この人はどうやってたどり着こうとしていたのだろうか。
文句は尽きぬほどあるのだが、鐘ヶ江さんが車から出て行くので、ひとまず押さえて私も現場へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる