まさか魔王が異世界で

小森 輝

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6 アペルピシアという魔王

まさか魔王が異世界で 29

 いつもと変わらない様子で、あの大量の料理を体のどこかに納め宿のベッドで寝たところで、その日の俺の記憶は途絶えてしまった。
 次に意識を取り戻した原因は、宿にいても聞こえる外の騒ぎだった。
「何だ? こんな朝っぱらから……」
 騒音で起こされるなんて、とても不機嫌な寝覚めだ。しかも、それが人間の声だと思うと余計に腹が立つ。
「何だってこんなに騒いでいるんだ」
 窓から外を眺めると、忙しなく人間が行き来している。朝の喧噪と言ってしまえばそれまでなのだが、昨日と比べると騒がしいし人も多い。
「何か祭りの準備でもしているのか?」
 不覚にも、昨日ミラが言っていたことと同じ言葉を呟いていた。
「人間の体になることで精神でも汚染されているのか」
 それもミラに汚染されているというのは、かなりの屈辱だ。
「よりによって、こんな人間に似るとはな……」
 ミラはまだベッドの上で寝ている。
「いや、それはないな」
 こんな騒がしいのに熟睡していて、さらにあれだけの暴食なんて、俺とは全く似ていない。心配するような問題でもなさそうだ。
 そんなことよりも、この騒ぎの原因を突き止めなければ。
 そのためには、まずこの大口を開けて寝ている小娘を起こすところから始めなければならない。
「おい、いつまで寝ているんだ。さっさと起きろ」
「…………zzZ」
 問いかけてもイビキしか帰ってこない。
 昨日は自然と起きていたのだが、疲れていたのか、今日は全く起きる気配がない。
 仕方がない。ならば、次の手段だ。
「いい加減に起きろ!」
 そんな怒号と共にカーテンを開けた。気持ちのいい朝日がミラの顔を直撃した。
「ん…………」
 この攻撃には流石に起きるだろうと思っていたのだが、寝返りを打つだけで終わってしまった。
 魔王を召還するほどの図々しさは健在のようだ。
「いっそ片腕を切り落とすか」
 流石の魔王も人を起こすために片腕を切り落とすほど残酷ではない。
「いつまでも毛布にくるまっていないで、さっさと起きるんだ!」
 思いっきり毛布を引っ張ると、一緒にミラまで付いてきた。
 流石は魔王を召還するだけのずる賢さを持つ小娘。ベッドから落とされても眠り続け、何があっても毛布を放さないほどの執念深さ。
 これには、魔王の俺も完敗だ。
「暴食だけではなく怠惰まで貪る気か」
 この様子なら、七つの大罪を全てコンプリートしているのではないのだろうか。
「まあ、いい。そのうち起きるだろう」
「え? 起きるって?」
 俺が諦めた瞬間に起きやがった。
「今日は早いんだね……」
「お前が遅いんだ」
「……? 昨日と同じ時間に起きたんだけどな……」
 俺には体内時計もなければ、魔力で時間を計ることもできないので今の時間は分からないが、ミラは魔力で時間でも計っていたのだろうか。
 いや、今、それはどうでもいい。
「それより、外の様子を見に行くぞ! 早く準備しろ!」
 体内時計なんて今はどうでもいい。それよりも外の騒ぎの方が気になる。
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