おデブな私とドSな魔王さま♪

柳乃奈緒

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私…お母さんになります

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 魔王と結ばれてから3ヶ月が過ぎていた。精力旺盛な魔王に。少し恐怖を感じる今日この頃の私だった。そして、もうかれこれ…ふた月も月のものが来ていない。さすがに不安になった私は、魔王に頼んでエルザを城に呼んでもらった。

「フフフフフ。確かに。ご懐妊なされましたようで。おめでとうございます」
「や、やっぱり? 出来ちゃったんだ。赤ちゃん…」

エルザにハッキリと妊娠していると告げられて、私は少し戸惑っていた。

「私って身体は人間なんだよね?」
「そうでございます。奥さまは、魔力を持った人間というのが正しいでしょう」

 私の表情が少し青くなっていることに気付いたエルザが、クスクスと笑って私の手を取って励ましてくれていた。

「大丈夫でございますよ。奥さまは特別な魔力を持った人間なのです。だから、ちゃんと魔王さまのお子を無事に産むことは可能でございます。ご安心下さい」
「本当に? この子が私のお腹を突き破って出て来たりしない?」

 私が真剣にエルザに確認していると、ドアの向こうで隠れて聞いていたオースティンが我慢しきれずに吹き出して声を上げて笑っていた。

「確かに。あの魔王の子なら突き破って出てくるかもしれませんね。クククク」
「オースティンったらもぉ~! 盗み聞きなんて性格悪いよ~!」

ふくれっ面で怒っている私のことを優しくハグしてから、オースティンは冗談ですよと言ってまた笑っていた。

"バーーーン"

ドアが勢い良く開いて、息を切らして魔王が戻って来た。

「オイ! 本当か? この腹の中にオレ様のガキがいるのか?」
「はい。間違いなく奥さまはご懐妊されております。くれぐれもお身体を大切にして差し上げて下さいね。今が一番大事な時期でございますからね」

エルザに言われて魔王はわかった。と言って頷いて優しく私のお腹を触っていた。魔王がこんなに喜ぶと思っていなかったので、私は少し罪悪感でいっぱいだった。だって、私にはまだどうしても心の底から子供がお腹にいることを喜べずにいたから…。満面の笑みを浮かべて喜んでる魔王に私は何も言えなかった。

「大丈夫ですよ。そのうちに母性というものは湧いてくるものです。だから焦らずお待ちなさい」
「あ、うん。そうだよね。ありがとう~♪ ゆっくり待つよ」

 オースティンには何もかもお見通しのようで、私は自分を信じてゆっくりマタニティ生活をエンジョイすることに決めた。

***************

 次の日からは、ジョギングはやめて軽いウォーキングをして浴場でもあまり長湯はしないようにした。そして、午後は出来るだけのんびりと書庫で本を読んで過ごしていた。魔王は食事のことを一番気にしていたようで、私が太り過ぎないように規則正しく食事を取らせろと小さい魔物たちに命令していた。

「お前は油断したら、またデブに逆戻りだからな。子供が生まれるまで気を抜かねえように。オレ様の監視下で全て食事を取らせるから安心しろよな!」
「マジで? だってお腹に子供がいるんだよ? 絶対すごくお腹空いちゃうし、子供が生まれるまでは私の自由にさせてくれてもいいでしょ?」

私の言葉に魔王の眉がピクリと上がって、そのまま両頬をギュッと掴まれた。

「お前の好きになんてさせてたら、オレ様の今までの苦労が水の泡になるに決まってんだろうが!」
「いひゃい! ひょっと! ひゃめてよ~~~!!」

癇癪を起こした魔王は、グイグイ頬を思い切り引っ張ってから手を離した。

「もう~~~! エルザも言ってたでしょ! 今が一番大事なんだから乱暴するのはやめてよね!」
「うるせえ! お前が大人しくオレ様の言うことを聞かねえからこうなるんだろ? バ~カ!!」

ムカついたのでそのまま無視して部屋を出ようとしたら、魔王に腕を掴まれて止められてしまった。

「ちゃんとお腹のガキのことも考えて1日のメニュー考えさせてるから、心配すんなって!」
「ううう~。わかった。でも、乱暴はやめてよね」

本気で目に涙を溜めて訴えている私を見つめて、魔王は今度は優しく頷いて涙を拭って軽くキスをしてから私の耳元で×××のことを聞いてきた。

「子供がお腹にいるってことは…。しばらく×××は出来ないのか?」
「…………」

 魔王の質問に絶句している私をその場に置いて、魔王は何食わぬ顔で部屋を出て行ってしまった。


「もう~~~! 魔王の無神経さにはついていけない。なんであんなに口からポンポン恥ずかしげもなくピーーーーーーでピーーーーな言葉が出てくるんだろう?」
「魔王さまは、自由な方ですから幼少の頃から変わりませんな。(笑)それでも美乃里さまが魔界へいらしてから、何事にも真面目に取り組まれるようになられました。フフフ」

 魔物の先生の授業の日だったので、魔王が出て行った後でどうしても気持ちが治まらなくて、授業をそっちのけにして私は先生に溜まりたまっている日頃の愚痴を聞いてもらっていた。

「以前は何事にも無関心で、ベルゼブブ様が何もかも魔王さまの代わりに務めておいででしたし。何かあると癇癪を起こされる魔王さまに城の者はみんな怯えておりましたからね」
「そうそう。癇癪起こして魔力でまわりを吹き飛ばしてしまうんでしょ? 私は見たこと無いけど」

いつまでも子供みたいなのよね。と私が笑うと、先生もクスクスと一緒に笑っていた。その後は授業に戻って、資料を広げて魔界について色々と先生から面白い話を聞かせてもらった。

 授業の後…。少し疲れたので寝室へ戻って横になって休んでいると、急に部屋の外が騒がしくなって気になって起き上がってドアを開けると、そこには魔王と知らない悪魔が睨み合っている所だった。

「何しに来やがった? アザゼル!!」
「これはこれは魔王さま。ご機嫌麗しゅう……クククク」

魔王が珍しく翼を広げて構えている。アザゼルって何者なんだろう?

「お妃が御懐妊と耳にしたので、お祝いに伺っただけですよ。フフフ」
「祝いなんていらねえから! さっさとここから出て行きやがれ!!」

魔王は、そう叫ぶと同時に魔力を使ってアザゼルを吹き飛ばそうとしていた。

「怖い怖い。わかりました。今日の所は退散致しましょう。では、またの機会に。クククク」
「またなんてねえぞ! 2度と来んな! 今度来たらぶっ殺すぞ!!」

アザゼルは身の危険を感じたのか? それとも満足したのか? 気味の悪い笑い声を響かせて窓から飛び去った。

「あれは誰? なんで魔王はあんなに怒ってるの?」
「あああ。あれはアザゼル様でございます。魔王さまとは幼少の頃から、犬猿の仲で有名でございます」

犬猿の仲? そうなんだ。悪魔同士にも色々と事情があるのだろう。それにしても、アザゼルが帰っても魔王はまだ怒りが治まらないようで、魔王の目は吊り上がったままだった。

そして……。魔王とアザゼルの子供のようなバトルがこの後始まるなんて、この時の私は思ってもいなかった。
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