勇者が魔王を倒しに行く話

H

文字の大きさ
1 / 4

旅立ち

しおりを挟む
なんでこんなことに・・・
 醜悪な顔の子どものような緑色のそいつは棍棒を思い切り振りおろしてきた。
 棍棒を右手に持ったショートソードで受け止めつつ思い出す。

 
 いい匂いだ、木製のテーブルの上に用意された朝食を食べるため木の椅子に腰かける。「タケル、今日で十六歳ねおめでとう」
「ありがとう母さん」
 母も椅子に腰かけ自分ににこやかにお祝いの言葉をかけてくれる、 自分と同じ珍しい黒い髪に黒い瞳の母の目はいつも閉じているかのように細い。
「それじゃあ頂きましょうか」
 別段、誕生日だからと言って料理が特別豪華になるわけでもないが、固焼きパンとジャガイモのスープのほかに珍しくベーコンが二切れついていた。
「頂きます!」
 両の手を合わせ、食事ができることに感謝するいつもの儀式を済ませ朝食に手を付ける。
「頂きます!」
 母もこちらが食べ始めるのとほぼ同時に食事に手を付ける。
「十六歳、立派な成人ね」
「ん?まぁ立派かどうかは別としても、これで成人かと思うとうれしいよ、できればもっと身長が伸びてほしいものだけどね」
 成人すれば、一人前と認められるようなものだ、責任も大きくなるが、自分の裁量でいろいろと行動できる。
「あなたのお父さんもそんなに高い方ではなかったから・・・身長は諦めなさい」
 母がからかうように言ってくる。
「え?父さんそんなに低かったの」
 父は自分が生まれた時からいない、母も滅多に父のことを話さないのでどんな姿だったのかも、今生きているかもわからない。
 ただ、父のことを話すとき、遠くを見つめる母の微笑は父のことを深く愛しているのだろうということだけは伝わってくる。
「一六五センチ位だったかな、今のあなたと同じくらいよ。私より十五センチは高かったのよね」
「そうなんだ・・・」
 自分ががっかりしていると
「ふふふ、諦めなさいっていうのは冗談よ、両親より背の高くなる子どもなんて沢山いるわよ」
 母がこの村に越してきたのは、お腹が大きくなっている時だと聞いたことがある、その時父は一緒におらず、お腹の子、つまり自分と母一人でやって来たらしいことを村長が昔言っていた。
 この村の人口は百人にも満たないので、村に来る前に見てきたのかな?
 「沢山いる」と言う母の言葉は、どこか確信めいていたため、ふと、そう思ってしまった。
「ごちそうさまでした」
 食事を終え、食器の片づけをてつだう。
 ふと壁際においてある背負い袋が目に入った。
 背負い袋はパンパンに張っており、そこに自分がいつも狩の時に持ち歩いている鞘に入ったショートソードが立て掛けてあった。
 何故?不思議に思っていると。
「あなたも十六歳になって成人したのだし、あなたの秘密を話すわね」
 え?秘密?
 母が笑顔を浮かべつつ自分の頬へと手を伸ばしてきて優しくなでてくれる。
「あなたは勇者なの」
 へ?
 ・・・
 ・・・・
 ・・・・・
「これからあなたは魔王を倒すために旅に出ないといけないの」
 意味が分からない、今まで勇者だとか魔王だとか聞いたこともない、狩や畑仕事を手伝いつつ今まで生きてきた自分には母が何を言っているのか理解できなかった。
「母さん何を言っているの、勇者って、魔王って何」
「魔王っていううのは人々の敵よ、存在するだけで魔物を生み出し続けるの、そしてそれを倒せるのは勇者だけなのよ」
 自分の頬にあてられた母の手を軽く握り母を見つめる。
 冗談などではなく本気で言っているようだ。
「あなたには力があるわ、これを持っていきなさい」
 頬にあてられていた手が名残惜しそうに離れていくと、懐から透明な六角柱で中に火が灯っている幅一センチ長さ五センチくらいの棒のようなものを出し、自分の掌の上にそっと置いてくれた。。
「これは精霊石というのよ、精神を集中することによって石の中に秘められた力を使うことができるの、勇者であるあなたになら使いこなせるはずよ」
「本気・・・なんだね・・・」
 母の優しい微笑の中にある真剣さを感じ取り、あぁ、本気なんだな、本気で自分が勇者だと魔王を倒しに行かなくてはならないのだと理解してしまった。


「安心して母さん、自分が勇者なんて実感はまだないけど、必ず魔王を倒して戻ってくるから」
 母の用意していてくれた背負い袋を背負い、ショートソードを腰に下げ、村の端で母に笑顔で挨拶をした。
「いってらっしゃいタケル・・・」
「母さん、行ってきます」
 母が両手で優しく包みこんだ自分の右手を名残惜しそうに放し、何かをこらえるような笑顔で送り出してくれた。
 少し歩いては振り返り母に手を振る、手を振り返してくれる母が見えなくなるまで繰り返すと、真っすぐに街道の先を見つめ街を目指し歩いて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...