勇者が魔王を倒しに行く話

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旅立ち2

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 生まれ育った村を出発し、街へと続く幅八メートル程の街道を進む。
 坂道を海の方へとしばらく下るとT字路へと出るので、そこから左に折れ北を目指す、このまま街道を進んでいけば、自分の最初の目的である街へと出る予定だ。
「ふぅ、多少肌寒いけど、日差しは暖かいし、風も穏やかで歩くにはちょうどいいな」
 時折右手の木々の隙間から見える海の方から、冷たい風が吹くものの、風はそれほど強くないし、空も雲がほとんどない。
 畑と林に挟まれた真っすぐに伸びる街道を左手側の畑を眺めつつ歩く、しばらくすると道はうねうねとカーブや上り下りが多くなってきた。
「う~ん、海から山までなだらかに続いていて平地が少ないから、こんな風にしか道を通せなかったのかな?」
「まぁ、そんなこと考えてもしょうがないか」
「はぁ、一人で旅すると独り言は増えるし、寂しいな・・・」
「よし、街についたら一緒に旅してくれる仲間を探そう!」
 
 川の上に架かるそこそこの高さの橋を、おっかなびっくりと二つほど超え、さらに進むと左手側は森と言っていいほど木々が多くなってきた。
 右手側はちょっとした崖のようになっており、木々の頭の上から海が見える、緩やかな潮風が運ぶ潮のにおいが心地よい。
 そんな穏やかな気分で歩いていると、突然、森から何かが飛び出してきた。
「ウギィギィ!」
 そいつは醜悪な顔の、緑色の肌をした人間の子どものようで、こちらに気づくと右手に持った棍棒を高々と上げ、奇声を発し、涎を垂らしながらこちらへと襲い掛かってきた。
 ヤバイ!危険を感じ咄嗟に腰のショートソードを抜き、振り下ろしてきた棍棒を剣先に左手を添え受け止める。
 何とか受け止めたものの、咄嗟のことだったため、バランスを崩した自分は尻餅をついてしまう。
「クソッ!やめろ!!」
「グギャギャギャガ」
 言葉は通じそうにない。こいつはひたすら涎をまき散らし笑いながら、棍棒を叩き付けてくる。
 こいつは確か、家にある本で昔見たことある気が・・・確か「ゴブリン」って言ったかな、それほど強い魔物では無い筈だけど、このままじゃ・・・どうにか体勢を変えないとまずい・・・
 棍棒が叩き付けられる度に、手や尻に痛みが走る。何とかしないと・・・そうだ!
 軽く息を吐き集中し、叩き付けてくる棍棒がショートソードに当たる瞬間、左手を少し引き、右手に力を込めて棍棒を滑らせる。
「ウガッ!?」
 よし!前のめりになっていたゴブリンは、そのまま自分の左側へとよろける。その隙に勢いをつけて立ち上がり距離を空けた。
「ふぅ・・・」
 『冷静になれ』と自分に言い聞かせる。相手の動きをよく見る、周りの音にも気を配らないと、他にもこいつの仲間が潜んでるかもしれない。

 ゴブリンと見詰め合ったまま時間が流れる。すごく長い時間に感じていたが、実際はそれ程長い時間ではないのだろうが・・・。
「グギャギャギャギャ!!」
 しびれを切らしたのか棍棒を頭上に掲げ、ゴブリンがこちらへと突っ込んできた。
「今だ!」
 ショートソードを左手に持ち替えて、振り下ろしてきた棍棒を外へと弾き出す様に叩き付ける。左手を振りぬく勢いで体を回転させ右手でゴブリンの頭をつかむと勢いをつけさせる。そのままバランスを崩したゴブリンの顔を地面にたたきつけた。
「ブグギャ!グギャギャ!!」
 倒れたゴブリンの背に圧し掛かるようにして抑え込むと、ショートソードの柄を後頭部へと何度も叩き付け、動かなくなったところで背から心臓を狙いショートソードを押し込む。
「グボギョバ・・・」
 何度か痙攣し、そのままゴブリンは動かなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・ふぅ・・・」
 自分の手を見つめると微かに震えている。
「猪狩のような恐怖とはまた違う、命のやり取りの恐怖なのかな?良く判らないけど、完全に恐怖に呑まれなくてよかった」
 
「しかし、母さんに剣の腕や体裁き等々、色々と鍛えられてなかったら危なかったな・・・」
 息を整え落ち着いてくると、周りを見渡して音や気配を探る。
「他にゴブリンなんかはいないかな・・・大丈夫そうか」
 落ち着いてくると、血の匂いが気になってくる。
「はぁ、このまま死体を道に放置するのは不味いよな、崖下に放っておくかな」
 ゴブリンの死体の足を持ち、引きずって道の端に持って行き、そのまま崖下に放る。
「きっと野犬あたりが処理してくれるだろう」
 軽く息を吐き空を仰ぐ、日は大分高くなりつつあるな。
「さて、行こうかな、はぁ、途中にある川で剣や服に付いた血を落とそう」
 そう呟いた自分は、街道を街へ向けてまた歩きはじめた。
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