転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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5・プリンセスを育成していたはずの俺がプリンセス扱いされてる件

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「……さて。灯士様、準備はいいか? 演習を開始するぜ」
「え? お、おお」

 名前入力の失敗を教訓に、しっかり準備を確認してから答えを返す。っつっても何をするかもよくわかってないから、準備も何もないんだけど。まあパターン的に言えば、恐らく今回の演習とやらは一種のチュートリアル。間違ったって死ぬこたないだろう。……たぶん。

「OK。それじゃ、トパシオ」
「はいよ、っと。今回は初めてだから、これくらいがいいよな」

 この中ではわりと年少っぽい、黄色のトパシオが手にしているのは、鳥かごに似た小さなカンテラだ。鉄製らしきそれはぱっと見普通だが、よく見ると何かがおかしい。日の差し込む明るい中庭なのに、カンテラの周りだけが妙に薄暗い。目を凝らせばシェードの奥に、黒い炎のようなわだかまりが見える。

「これが、『魔のもの』スキア。オレたちと灯士サマが、この先討伐していくことになる相手だね」
「闇……って、本物!? ガチ敵!?」
「ガチ敵だよぉ。ぼーっとしてたらかじられちゃうよ、ガブーって」
「アメティスタ、あまり灯士さんを脅かさないでください。大丈夫ですよ、私たちがサポートしますから」

 イケメンどもが呑気に冗談なんぞ飛ばしているが、俺に笑ってられる余裕なんてない。死ぬじゃん、ガチで!

「灯士さまはスキアが飛ばしてくるビッツを弾き返してください。灯士さまのお力があれば、簡単なはずですよ!」
「よし、始めるぞ。灯士、俺たちの後ろに」
「ちょっ……!」

 待ってくれ、と止める暇もあらばこそ。カンテラの蓋が開けられた瞬間、ぶわっと広がる暗黒に思わず目をつぶる。おい模擬戦じゃねえのかよ! 聞いてねえぞ!

「おいちょっと待って、ビッツって何!? 弾き返すってなに!?」
「来るぞ、灯士様!」
「ちょおおおお!!」

 パニックになる俺を置き去りに、トパシオはカンテラを庭の真ん中、これも多分宝石の原石で作られているとおぼしきオブジェの隣に置いた。開いた蓋から粒のような黒い炎が飛び出し、俺めがけて突き進んできている。ビッツってあれ!? 弾き返すったって、俺素手だよ!?

「わかんないわかんない、俺どうすればいい!? 俺どうすんの!?」
「灯士さま、落ち着い……うぁっ!」
「おわぁっ!?」

 俺をかばった水色イケメンの、肩のあたりに炎が当たる。ジュッと布が焦げる音がして、女の子みたいに可愛らしい顔が苦痛に歪んだ。

「ごめんっ、ごめんごめんごめんっ! ごめんなさいっ! 俺ほんと何やっても使えないやつですいませんしたぁっ!」
「だ……大丈夫です、このくらい、ぜんぜん。おれだって騎士のはしくれですよ。それに」

 反射的に土下座を繰り返す俺に、水色ことランジンは無理を押したような表情で微笑んでみせる。

「この身をもって灯士さまを守れたんだ。嬉しいくらいですよ」
「イケメン……ッ!」

 思わず口元を両手で覆った。明らか俺のミスでの失敗なのに、怒鳴られないどころかこの文字通りのイケメンムーブ。なにこれ、ここ天国!? 俺なんかがこんな優しくされていいの!? 後で料金請求されたりしない!?

「灯士。手を」
「エッ……」

 地に着いた俺の右手を、サフィールが両手でうやうやしく包み込んだ。ド、ドキーン! やだ紳士! お姫様になった気分で、手を引かれながら立ち上がる。

「見えるか? 二時の方向から、ビッツが旋回してきているだろう」
「ヒッ」
「慌てることはない。速度も威力も微弱なものだ」
「あ、ほ、ほんとだ……」

 よく見れば黒い炎ことビッツの速度は、ひらひらと舞う蝶と同じ程度の、ごくゆっくりしたものだった。これなら子供だって簡単に避けられるだろう。テンパりすぎか、俺。無意味にヘラヘラ笑う俺の手に、サフィールが再びぎゅっと力を込めた。

「な、なに!?」
「手をかざせ」
「え? こ、こう?」
「そうだ」

 言われた通りに手を前に突き出した。すると呼応するかのように、青い光がサフィールの全身を包み込んだ。おお、男の子の夢バリアじゃん!

「この状態ならば、ビッツは容易く弾き返せる。スキアの攻撃は俺たちに任せて、貴方はこの援護に専念してほしい」
「あ、そういうことね」

 なんだ。いや、なんだってなんだ。だってしょうがないじゃない、イケメンなんだもの! 俺みたいな陰キャがこんな顔のいい人類に優しくされたら、性別とか関係なくどぎまぎしちゃうのはもう抵抗不可能な重力みたいなもんじゃない!?

「あー、サフィール、抜け駆けだぁー。ずるーい」
「抜け駆け? 何の話だ」
「もー、とぼけちゃってぇ。じゃあ、僕も」
「へぁ、あぇえっ!?」

 軍服を謎の黒い布でゆったりとアレンジしている、長い紫の髪をしたアメティスタが、俺の肩を包み込むみたいに手をかける。距離、距離が近い! 男女問わず俺が他人とこんなに接近するなんて、バイト中酔っ払いのおっさんに絡まれる以外なかったのに!

「ふ、二人とも、演習中ですよ」
「だから、何の話だと聞いている」
「スマちゃん、羨ましいのぉ? ほらほら、髪の毛ぴろーん」
「はひゃっ」
「アメティスタ、そのくらいにしておけ。ここからが本番だぞ」

 水を差すルビーノの声を救いと感じてしまったのは、俺の対人経験値が低すぎるせいだ。こんな逆(って言っていいんだろうか。今の俺を乙女として扱ってもかまわないのならそういうことになるが、まあとにかく)ハーレム状態の真ん中で、薄ら笑いを浮かべて立っていることしかできない俺こと煤ヶ谷鍮太郎……もとい、チュー太郎=ブラスワークスちゃんなのでした。くそぅ、なんかこういうとき用のコミュ力大幅アップ的なスキルが俺にあれば! ていうか人生二周めなのに引き継ぎ特典とかなんもねえのかよ! 引き継いだところで詰みセーブみたいなもんだけど!!

「灯士さま。やり方はわかりましたか?」
「おう、大丈夫……たぶん……きっと」
「よし、それじゃ……ミュージック、スタート!」
「……みゅ?」

 トパシオが、号令をかけるように片手を上げた。同時に中庭全体に、どこからか軽快な音楽が鳴り響き始める。……いや、なにこれ。
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