15 / 200
13・え、俺、何かやっちゃいました?
しおりを挟む
「……ジルコン?」
「はい」
彼の名乗りに、俺は軽く眉をひそめた。さっき聞いた管理人とやらの名前だよな。それは正しい。それはいいのだが。
ポーチの端を回り込み、短い階段を降りてきたジルコンに、ミマが小走りで寄っていく。彼持ち前の人懐っこさをさっそく発揮しようとしてるみたいだが、それより先に俺の声がぽろりと漏れた。
「っていうか、王子よな?」
瞬間。
ミマが、王子が、凍りついたように動きを止めた。小鳥の声すらも静まり返る。時間が止まったみたいな静寂。あれ、俺、なんかやっちゃいました?
長すぎる沈黙のあと。
「………………何故……そう思われるのですか?」
「声」
即答した俺に、ジルコンこと王子の口元がひくりと歪む。ミマに至っては俺に背を向けたまま、駆け出しかけた姿勢を維持して微動だにしない。体幹できてんなこいつ。
「声……と、言われましても。世の中には似た声の方も大勢いらっしゃいますし」
「あっはは、ないない。俺のダメ絶対音感を舐めんなよ」
「ダメぜったい……?」
いぶかしげなジルコンを放置して、ひとりうんうんと頷く。うん、絶対そうだ。メタ的な話になってしまうが、こんな近い位置のキャラをこんな似た声にする理由もないだろう。あ、それとも、まさかの双子って線もある? いや、ならあそこで王子の顔見せしとくのがセオリーだろ。それに昨今のコンテンツなら、双子でも声優別々なのがデフォじゃない?
あー、なんか楽しくなってきちゃった。オタク類キャラ萌え目考察厨科の生物として、先の展開をあれこれ想像するほど面白い遊びはない。好奇心のおもむくまま物理的にジルコンに歩み寄り、じろじろと舐め回すように観察してみる。しかし改めて見ても超絶的なイケメンだなあ。二次元なんだから当たり前っちゃ当たり前だけど。
「あ、てか、やっぱよく見たらタイトル画面にいた顔じゃんこいつ! しかもど真ん中に!」
「……こいつ……」
「あーはいはい、なるほど、そういうキャラね。あそっか、ジルコンって確かあれだよな、ダイヤの偽物的なやつだよな? ってことはワンチャン本物の王子じゃないとか、実は王家の血が流れてないとか、そういう展開もあったり~?」
「おま……っ、チュー君ッ!」
「うわっ」
いつの間にか硬直から脱していたらしいミマが、俺の肩をわしっと掴んだ。そのままずるずると引きずられるように、手近な木陰へ連れ込まれる。なんだこいつ、見た目に反して意外とパワー系?
「痛い、痛いってミマ、ギブギブ!」
肩を掴む手をタップすると、ミマは手を離して振り返る。目が合って、ドキッとした。柔らかいクリーム色の彼の目が、あんまりにも忌々しげに俺を睨み上げていたからだ。
「あ、え、あの、ミマ……怒ってる?」
「……どうして僕が怒ってるか、わかる?」
「え……あっ、もしかして俺ネタバレした!? いやあれは俺の勝手な予想で、合ってるかどうかはまだ」
「ちっげーよ!!!」
張り上げられた声の鋭さに、びくりとすくみ上がる。ミマはハッとしたように口をつぐんで、それから深く息を吐いた。
「……チュー君。さすがにあれは失礼すぎるよ。いくら僕たちが灯士とは言え、本当に殿下相手なら懲罰ものの言動だ」
「え? だって……あ、いや」
ミリしらみたいなもんじゃん、と言いかけて飲み込んだ。そうか。いかに二次元キャラとは言え、今は俺も同じ世界で生きている人間だ。直接声の届くところ、ましてや目の前でやるにふさわしくない言動だったのは否定できない。個人の好き勝手な妄想は、公式に届かないとこでやるのがオタクのたしなみ。またしても俺の駄目なとこが出てしまった。
「ごめん、ミマ」
「うん。気をつけて」
「そうだな。王子……じゃない、ジルコンにも謝んなきゃな」
「え」
何か言いたげなミマを通り越し、しゅんと木陰から顔を出す。ジルコンは相変わらず、胸に手を当てた執事ポーズのまま俺たちを待っていた。異世界に来て早々リアルに謝りを発生させる大人、それが俺です。つらい。
「はい」
彼の名乗りに、俺は軽く眉をひそめた。さっき聞いた管理人とやらの名前だよな。それは正しい。それはいいのだが。
ポーチの端を回り込み、短い階段を降りてきたジルコンに、ミマが小走りで寄っていく。彼持ち前の人懐っこさをさっそく発揮しようとしてるみたいだが、それより先に俺の声がぽろりと漏れた。
「っていうか、王子よな?」
瞬間。
ミマが、王子が、凍りついたように動きを止めた。小鳥の声すらも静まり返る。時間が止まったみたいな静寂。あれ、俺、なんかやっちゃいました?
長すぎる沈黙のあと。
「………………何故……そう思われるのですか?」
「声」
即答した俺に、ジルコンこと王子の口元がひくりと歪む。ミマに至っては俺に背を向けたまま、駆け出しかけた姿勢を維持して微動だにしない。体幹できてんなこいつ。
「声……と、言われましても。世の中には似た声の方も大勢いらっしゃいますし」
「あっはは、ないない。俺のダメ絶対音感を舐めんなよ」
「ダメぜったい……?」
いぶかしげなジルコンを放置して、ひとりうんうんと頷く。うん、絶対そうだ。メタ的な話になってしまうが、こんな近い位置のキャラをこんな似た声にする理由もないだろう。あ、それとも、まさかの双子って線もある? いや、ならあそこで王子の顔見せしとくのがセオリーだろ。それに昨今のコンテンツなら、双子でも声優別々なのがデフォじゃない?
あー、なんか楽しくなってきちゃった。オタク類キャラ萌え目考察厨科の生物として、先の展開をあれこれ想像するほど面白い遊びはない。好奇心のおもむくまま物理的にジルコンに歩み寄り、じろじろと舐め回すように観察してみる。しかし改めて見ても超絶的なイケメンだなあ。二次元なんだから当たり前っちゃ当たり前だけど。
「あ、てか、やっぱよく見たらタイトル画面にいた顔じゃんこいつ! しかもど真ん中に!」
「……こいつ……」
「あーはいはい、なるほど、そういうキャラね。あそっか、ジルコンって確かあれだよな、ダイヤの偽物的なやつだよな? ってことはワンチャン本物の王子じゃないとか、実は王家の血が流れてないとか、そういう展開もあったり~?」
「おま……っ、チュー君ッ!」
「うわっ」
いつの間にか硬直から脱していたらしいミマが、俺の肩をわしっと掴んだ。そのままずるずると引きずられるように、手近な木陰へ連れ込まれる。なんだこいつ、見た目に反して意外とパワー系?
「痛い、痛いってミマ、ギブギブ!」
肩を掴む手をタップすると、ミマは手を離して振り返る。目が合って、ドキッとした。柔らかいクリーム色の彼の目が、あんまりにも忌々しげに俺を睨み上げていたからだ。
「あ、え、あの、ミマ……怒ってる?」
「……どうして僕が怒ってるか、わかる?」
「え……あっ、もしかして俺ネタバレした!? いやあれは俺の勝手な予想で、合ってるかどうかはまだ」
「ちっげーよ!!!」
張り上げられた声の鋭さに、びくりとすくみ上がる。ミマはハッとしたように口をつぐんで、それから深く息を吐いた。
「……チュー君。さすがにあれは失礼すぎるよ。いくら僕たちが灯士とは言え、本当に殿下相手なら懲罰ものの言動だ」
「え? だって……あ、いや」
ミリしらみたいなもんじゃん、と言いかけて飲み込んだ。そうか。いかに二次元キャラとは言え、今は俺も同じ世界で生きている人間だ。直接声の届くところ、ましてや目の前でやるにふさわしくない言動だったのは否定できない。個人の好き勝手な妄想は、公式に届かないとこでやるのがオタクのたしなみ。またしても俺の駄目なとこが出てしまった。
「ごめん、ミマ」
「うん。気をつけて」
「そうだな。王子……じゃない、ジルコンにも謝んなきゃな」
「え」
何か言いたげなミマを通り越し、しゅんと木陰から顔を出す。ジルコンは相変わらず、胸に手を当てた執事ポーズのまま俺たちを待っていた。異世界に来て早々リアルに謝りを発生させる大人、それが俺です。つらい。
3
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる