転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ

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24・初心者殺しの詐称曲

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 討伐の目的地は、昨日言われた通り王都の裏路地だった。そびえる城の影になって、日の当たらない狭い道だ。道端には悪臭を放つゴミ置き場が点在していて、敷かれた石畳もどこか薄汚れている。じめじめして、暗くて、ここから闇が生まれるのだと言われたら納得するしかないそんな場所。

 そんな場所で、俺は。

「ミマ! 来るぞ、気をつけろ!」
「わかってます! 大丈夫、任せてくださいっ!」
「ははっ、余裕だな、ミマ! オレも負けてられないぞっ!」
「……」

 影から湧き出た黒いスキアに、剣を構えて立ち向かう騎士サマと、余裕の表情を浮かべながら中央で愛らしく拳を握るミマ。
 彼らの作る輪を横目に見ながら、隅っこでひとりぽつんと立ち尽くしていた。

(なんで? なんでこんな無視されてんの、俺?)

 移動がまたワープだったせいで、状況を呑み込む時間もなかった。混乱が収まらない。一応手を前に出して構えてはいるものの、心は完全に上の空だ。確かなことは騎士サマたちが、ほとんど関わりもなかった人たちも含めて、なぜか異様に俺に冷たくなっているということだけ。


*+:。.。 Sorrowful night 。.。:+*
             歌:耀燈騎士団


 タイトルが空に浮かび、お約束的に曲が流れ始める。今度の曲は前回のアイドルポップ系とは違う、バラード調のしっとりしたやつだ。ある意味、今の俺の心境には合ってるけど。


♪消えないで 砕けないでって
♪祈るほど 溶けていく
♪朝陽に駆け出す君は
♪星を忘れてしまうね


 しんみりとそこまで聞き入ったところで、ふと気づいた。ビッツが来ねえ。Aメロの半分くらいまで終わってるのに、リズムに合わせて弾くべき黒い炎が、俺の元に一つたりとも飛んでこねえ。

「あの、俺……」
「邪魔だ、チュー太郎! どいていろ!」
「あうっ」

 剣を振るうルビーノの腕が、俺の眼前すれすれをかすめる。ひやりと血の気が引いた。辺りを見回せば、もちろん戦闘は既に始まっている。だけど全てのビッツを迅速に、的確に弾き返しているのは──俺じゃなく、ミマだ。


♪いつだって 信じてた
♪幻も 遠い月も
♪儚い夢のありかは
♪消えかけた夜のなかさ


「サフィール様! 気をつけて!」
「くっ、すまない! 恩に着る、ミマ!!」
「アメティスタ様、受け取って、僕の力っ……!!」
「わぁい。美味しく頂いちゃうよぉ、くふふぅ♪」

 ミマが灯士サマに手を向けるたび、ビッツは吸い寄せられるようにその方向へと飛んでいく。色とりどりのバリアにぶつかって、しゃん、とビッツが砕け飛ぶ。攻撃の途切れるわずかな一瞬、灯士サマたちはふっと微笑んで、再びスキアに立ち向かっていく。
 最初の演習で見たのと同じ光景だ。違うのはただ一つ、その笑顔が向けられている先が、俺じゃなくミマだってことだけ。


♪ねえ どうしてって
♪何度問いかけても
♪自分じゃどうにもならない
♪心模様…恋模様…


 このままじゃ駄目だ、俺も、俺もなんかやんなきゃ。焦りながらビッツを探しても、そもそも騎士サマたちが俺の周りにいないんじゃどうしようもない。どうにか輪の中に入りたくても、俺なんか眼中にないまま、ミマを護るように戦う騎士サマの元に、俺がたどり着けるすべはなかった。


♪君に笑ってほしい
♪たとえ 僕ら遠く離れても
♪嘘じゃない 本当さ


「ジルコン様! スマラクト様のカバーをお願いします!!」
「仰せのままに、ミマ様。スマラクト、こちらに」
「も、申し訳ありません……!」
「よし、もう少しだな。ミマ、最後の一撃だ、援護頼む!」
「はいっ!」
「はは、いい返事だ! 強くなったな、ミマ……行くぜ、ブルート・レネンッ!!」


 赤い閃光が燃え上がり、路地裏を覆う闇の塊に突き刺さる。傷つき、刻まれ、光を浴びて極限まで縮小した闇は、もはや見る影もなく弱っているのが明白だ。
 唐突に、嫌な記憶が脳裏をかすめた。バイト先で、飲み会で、他人との会話の中で、大小さまざまな失敗をやらかすたびに、胸の中に浮かんで消しきれなくなる感情。

 ──俺、いなくてもよくね?


♪でも僕はきっといつか
♪願うだろう 闇の中で
♪もう一度 君の夜空に
♪哀しい星よ どうか 満ちて…


 ばっさりと切り落とされたようなカットアウトで、最後のワンフレーズが終わる。
 すぐにスコア表示が目の前に浮かぶ。ミス0、バッド0、グッド0……総ビッツ数、ゼロ。

「よくやった、ミマ。やはり貴方は……俺の光だ」

 サフィールが、慈しむような瞳で放った褒め言葉は──言うまでもなく、ミマひとりだけに向けられていた。
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