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40・蟻の巣は意外と広い
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さて。
いろいろあった夜が明け。疲労と精神的ショックで寝過ごした日曜の、その翌日。
料理は愛情、真心がスパイス、なんて言葉、俺は嘘だと思うね。それが正しかったら今朝俺が食った野菜たっぷりベーグルサンドは紙粘土の味がしたはずだ。でも現実は、こんな冷血王子が作ったもんでも美味いもんは美味い。悔しい、けど感じちゃう(味覚で)。
「時間だぞ。さっさと支度を済ませろ」
「へーへー。てかお前、この先ずっとそのキャラなの? せめて昼間のうちはキャラ作るとかしないの」
「お前相手に取り繕ってなんの得がある」
「損得で考えんなよ、ケチくせえなー王子様がよー」
陰湿な言い合いを重ねつつ、ぼちぼち演習場へ向かう。中庭に待機していたスマラクトは、俺の顔を見るなりメガネの奥の瞳を曇らせた。わかっちゃいたけど、やっぱりへこむ。知らず歩みが遅れる俺の背を、ジルコンが軽く叩く。
「気後れするな。いずれ一泡吹かせてやるとでもと思え」
「お、おう……そうなりゃいいけど」
「そうなりゃ、じゃない。そうするんだ」
まったく根拠のない励ましに、それでもちょっとだけ心が軽くなる。なんだよ。こいつもちょっとはいいとこあんじゃん。
「……どうも。来てしまいましたか、チュー太郎」
「お、おう。来たよ。よろしくだよ」
あからさまに嫌そうなジルコンの態度に、それでも精一杯胸を張る。そうじゃん。いずれはこいつも俺のハーレムの一員になるんじゃん。ツンとデレとのギャップは大きけりゃ大きいほど快感ってもんじゃん。虚勢丸出しの俺の前に、ジルコンがすっと歩み出る。
「頼むぞ、スマラクト。こいつもこいつなりに頑張ってはいるからな」
「おや、『こいつ』? ……ははあ、なるほど。早くも尻尾を出してしまいましたか、『ジルコン』」
スマラクトは苦笑いをしながらメガネを上げる。なんだよ、こいつも知ってたのかよ、ジルコンの本性。当のジルコンは不服そうに眉を寄せている。
「人を狐か何かのように言うんじゃない。ともかく、頼んだぞ」
「ふふ、了解致しました。私ごときの講義がどこまで役に立つかはわかりませんが」
スマラクトと軽口を叩いてから、ジルコンは寮に帰っていった。遠目にも眩しいキラキラが、植栽の角を曲がって消える。
「……なんか、意外」
「え?」
「あ、いや。ルビーノたちが幼なじみってのは聞いてたけどさ、あんたらも仲いいんだなと思って」
「私と殿下……じゃなく、ジルコンがですか? それはつまり、私ごときが舐めた口を利くなどおこがましい真似をしやがってという話ですか?」
「ち、ちげーよ!」
「いえ、事実です。身の程を知らない屑で申し訳ございません。蟻と仲良くしますね」
スマラクトは生垣の陰にしゃがみこみ、地面にのの字を書き始めてしまった。め、めんどくせえ、こいつ。
「ああもう、そうじゃなくて! あのクソ王子が意外と気さくなんだなって、そっちにびっくりしただけだよ!」
「そうですか?」
俺が言葉を継いだとたん、スマラクトはすっと立ち上がってメガネを直す。案外立ち直りはえーなこいつ。延々引きずられるよりはマシだけど。
「ただ……言い訳に聞こえるかもしれませんが、あの方はああ見えて誰にでも気安く接してくださる方ですよ。そもそも……あ、いえ」
「ん?」
「いえ。私の口から無断で吹聴するのは憚られる話ですので。尋ねれば教えてくれるでしょうから、本人に聞いてみてください」
「……おー」
なんだろう。気になるけどそれよりスマラクト、こいつはプライバシーとかデリカシーって概念を知ってやがんな。えらい。じゃあなおさらなんなんだよあの王子。あんたが配慮したあいつの方は、俺の前で勝手にあんたの日記大上映してましたよ?
いろいろあった夜が明け。疲労と精神的ショックで寝過ごした日曜の、その翌日。
料理は愛情、真心がスパイス、なんて言葉、俺は嘘だと思うね。それが正しかったら今朝俺が食った野菜たっぷりベーグルサンドは紙粘土の味がしたはずだ。でも現実は、こんな冷血王子が作ったもんでも美味いもんは美味い。悔しい、けど感じちゃう(味覚で)。
「時間だぞ。さっさと支度を済ませろ」
「へーへー。てかお前、この先ずっとそのキャラなの? せめて昼間のうちはキャラ作るとかしないの」
「お前相手に取り繕ってなんの得がある」
「損得で考えんなよ、ケチくせえなー王子様がよー」
陰湿な言い合いを重ねつつ、ぼちぼち演習場へ向かう。中庭に待機していたスマラクトは、俺の顔を見るなりメガネの奥の瞳を曇らせた。わかっちゃいたけど、やっぱりへこむ。知らず歩みが遅れる俺の背を、ジルコンが軽く叩く。
「気後れするな。いずれ一泡吹かせてやるとでもと思え」
「お、おう……そうなりゃいいけど」
「そうなりゃ、じゃない。そうするんだ」
まったく根拠のない励ましに、それでもちょっとだけ心が軽くなる。なんだよ。こいつもちょっとはいいとこあんじゃん。
「……どうも。来てしまいましたか、チュー太郎」
「お、おう。来たよ。よろしくだよ」
あからさまに嫌そうなジルコンの態度に、それでも精一杯胸を張る。そうじゃん。いずれはこいつも俺のハーレムの一員になるんじゃん。ツンとデレとのギャップは大きけりゃ大きいほど快感ってもんじゃん。虚勢丸出しの俺の前に、ジルコンがすっと歩み出る。
「頼むぞ、スマラクト。こいつもこいつなりに頑張ってはいるからな」
「おや、『こいつ』? ……ははあ、なるほど。早くも尻尾を出してしまいましたか、『ジルコン』」
スマラクトは苦笑いをしながらメガネを上げる。なんだよ、こいつも知ってたのかよ、ジルコンの本性。当のジルコンは不服そうに眉を寄せている。
「人を狐か何かのように言うんじゃない。ともかく、頼んだぞ」
「ふふ、了解致しました。私ごときの講義がどこまで役に立つかはわかりませんが」
スマラクトと軽口を叩いてから、ジルコンは寮に帰っていった。遠目にも眩しいキラキラが、植栽の角を曲がって消える。
「……なんか、意外」
「え?」
「あ、いや。ルビーノたちが幼なじみってのは聞いてたけどさ、あんたらも仲いいんだなと思って」
「私と殿下……じゃなく、ジルコンがですか? それはつまり、私ごときが舐めた口を利くなどおこがましい真似をしやがってという話ですか?」
「ち、ちげーよ!」
「いえ、事実です。身の程を知らない屑で申し訳ございません。蟻と仲良くしますね」
スマラクトは生垣の陰にしゃがみこみ、地面にのの字を書き始めてしまった。め、めんどくせえ、こいつ。
「ああもう、そうじゃなくて! あのクソ王子が意外と気さくなんだなって、そっちにびっくりしただけだよ!」
「そうですか?」
俺が言葉を継いだとたん、スマラクトはすっと立ち上がってメガネを直す。案外立ち直りはえーなこいつ。延々引きずられるよりはマシだけど。
「ただ……言い訳に聞こえるかもしれませんが、あの方はああ見えて誰にでも気安く接してくださる方ですよ。そもそも……あ、いえ」
「ん?」
「いえ。私の口から無断で吹聴するのは憚られる話ですので。尋ねれば教えてくれるでしょうから、本人に聞いてみてください」
「……おー」
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