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74・林檎の頬と雫の睫毛
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次の日、いつもの演習場である中庭にて。
「はい、お疲れ様です。今日はこれくらいにしておきましょう」
「はふぃー……」
ランジンが両手を叩いたのを合図に、俺は組んだ足を崩してその場に倒れ込む。今週のパートナー、ランジンの担当能力は気力。精神力の修養が魔法の能力向上につながるとかで、主な内容は坐禅を組んだり絵を描いたりすることだ。これはこれでそれこそ気力を使うこともあるけれど、体を動かしたり暗記や計算をさせられるよりは結構楽しい。体力も、終わったあとに多少の雑談ができるくらいには残ってる。……とは言え親愛度は相変わらず最低ライン、会話が弾むかどうかはまた別の問題だけど。
とは言え、今日の俺は話を切り出す大義名分を持ってるぞ。中庭の芝生に大きく足を伸ばす。手入れの行き届いた芝の中心には大きな宝石製のオブジェ、そしてそれを取り巻く石のベンチには、監督のランジンが腰を下ろしている。
「なあ、ランジン。昨日トパシオとちょっと話したんだけどさ」
「え? あ、はい、なんでしょう」
「あのさ、えーっと。闘技場での賭け試合……のことなんだけど」
「あっ……」
ランジンは驚いたように目を丸くした。白い頬がぽっと朱に染まる。その女の子みたいな顔立ちもあいまって、なんだか悪いことを聞いてしまったような気分になってくる。
「知ってた……んですか」
「ああ、うん、まあ」
「あの……もしかして、呼び込みのとき、あの場所にいたり」
「いや、いたって言うかそのなんだ、……見ちゃったのはその、ごめん」
「ああ、いえ、いいんです。往来であんなことをしていたのは、おれたちの方ですから……」
ピンクに火照った彼のほっぺたを、意外にしっかり男っぽい手が隠す。う、うーん。気まずい。でも聞くべきことはしっかり聞いとかないと。下世話な話、親愛度アップのチャンスかもしれない。
「あのさ、あんま立ち入ったこと聞くのもあれだけど、その……ああいうの、トパシオに無理にやらされてたりすることない? なんつーかあの……犬の真似みたいのとか」
「……! い、いえ、そんなことないです!」
「ほんとに? マジであの銭ゲバに嫌なことされてない? 俺べつに告げ口したりしないよ」
「ぜ、銭ゲバだなんて……」
宝石のオブジェに手を当てて、ランジンは長いまつ毛を伏せる。少女漫画の登場人物みたいだ。それも、どっちかって言えばヒロインの方。
「本当に、感謝してるんです、おれ。そりゃ、トパシオはちょっと……ちょっとどころじゃないかもしれないくらい、悪辣外道で人の心がない奴だけど」
「あ、そこはちゃんと理解してるんだ」
「それでも、おれにはない発想や衆目の惹きつけ方、人やお金の動かし方をよくわかってる。それに彼は、多少強引なやり方を取ることはあっても、最低限……本当にギリギリの最低限ですけど……法で罰されるラインは絶対に超えません。まあ……法律さえ守ればそれでいいのか、って疑問は、当然のことだとは思いますけど……」
「う、うーん……?」
なんだか聞けば聞くほど、本気でそれでいいんかって気持ちが増してくる。擁護のつもりで言ってるんだろうけど、ランジン本人ですら時折首を傾げてるし。本当に、大丈夫なのか。なんか弱みでも握られてないか?
「はい、お疲れ様です。今日はこれくらいにしておきましょう」
「はふぃー……」
ランジンが両手を叩いたのを合図に、俺は組んだ足を崩してその場に倒れ込む。今週のパートナー、ランジンの担当能力は気力。精神力の修養が魔法の能力向上につながるとかで、主な内容は坐禅を組んだり絵を描いたりすることだ。これはこれでそれこそ気力を使うこともあるけれど、体を動かしたり暗記や計算をさせられるよりは結構楽しい。体力も、終わったあとに多少の雑談ができるくらいには残ってる。……とは言え親愛度は相変わらず最低ライン、会話が弾むかどうかはまた別の問題だけど。
とは言え、今日の俺は話を切り出す大義名分を持ってるぞ。中庭の芝生に大きく足を伸ばす。手入れの行き届いた芝の中心には大きな宝石製のオブジェ、そしてそれを取り巻く石のベンチには、監督のランジンが腰を下ろしている。
「なあ、ランジン。昨日トパシオとちょっと話したんだけどさ」
「え? あ、はい、なんでしょう」
「あのさ、えーっと。闘技場での賭け試合……のことなんだけど」
「あっ……」
ランジンは驚いたように目を丸くした。白い頬がぽっと朱に染まる。その女の子みたいな顔立ちもあいまって、なんだか悪いことを聞いてしまったような気分になってくる。
「知ってた……んですか」
「ああ、うん、まあ」
「あの……もしかして、呼び込みのとき、あの場所にいたり」
「いや、いたって言うかそのなんだ、……見ちゃったのはその、ごめん」
「ああ、いえ、いいんです。往来であんなことをしていたのは、おれたちの方ですから……」
ピンクに火照った彼のほっぺたを、意外にしっかり男っぽい手が隠す。う、うーん。気まずい。でも聞くべきことはしっかり聞いとかないと。下世話な話、親愛度アップのチャンスかもしれない。
「あのさ、あんま立ち入ったこと聞くのもあれだけど、その……ああいうの、トパシオに無理にやらされてたりすることない? なんつーかあの……犬の真似みたいのとか」
「……! い、いえ、そんなことないです!」
「ほんとに? マジであの銭ゲバに嫌なことされてない? 俺べつに告げ口したりしないよ」
「ぜ、銭ゲバだなんて……」
宝石のオブジェに手を当てて、ランジンは長いまつ毛を伏せる。少女漫画の登場人物みたいだ。それも、どっちかって言えばヒロインの方。
「本当に、感謝してるんです、おれ。そりゃ、トパシオはちょっと……ちょっとどころじゃないかもしれないくらい、悪辣外道で人の心がない奴だけど」
「あ、そこはちゃんと理解してるんだ」
「それでも、おれにはない発想や衆目の惹きつけ方、人やお金の動かし方をよくわかってる。それに彼は、多少強引なやり方を取ることはあっても、最低限……本当にギリギリの最低限ですけど……法で罰されるラインは絶対に超えません。まあ……法律さえ守ればそれでいいのか、って疑問は、当然のことだとは思いますけど……」
「う、うーん……?」
なんだか聞けば聞くほど、本気でそれでいいんかって気持ちが増してくる。擁護のつもりで言ってるんだろうけど、ランジン本人ですら時折首を傾げてるし。本当に、大丈夫なのか。なんか弱みでも握られてないか?
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