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191・ロウセツラバーズ
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本日二回目のお姫様抱っこで、ジルコンは俺をベッドまで運んだ。緊張で棒みたいになった俺をシーツの上に横たえ、覆い被さる位置から見下ろしながら。
「……滑稽だな」
「はあ!?」
ジルコンが放った第一声は、よりにもよってそんな一言だった。
「ちょっ……えぇ!? 待って、この状況でそのセリフはさすがの俺でも傷つくんですけど!?」
「は? ああ、違う、早合点するんじゃない」
切実この上ない抗議に、ジルコンは俺のシャツにかけていた手を止める。治療魔法をかけた手を目の高さまで引き上げて、彼はどこか自嘲めいた笑みを浮かべた。
「滑稽なのは、俺自身だ。お前、さっきの流れを不自然だとは思わなかったのか」
「え? だって、あの傷……」
「馬鹿か。口実に決まってるだろう」
「馬鹿って言われた……」
それはそれで傷つく俺を無視して、ジルコンはするすると俺の服を脱がせていく。わ、わあ、お上手。恥じらっている暇もあらばこそ、自分も上半身裸になったジルコンは、ほのかに熱の残る手のひらを俺の頬に当てる。
「スマラクトに頼んで、あれだけは残して貰った。不埒な考えを悟られたのか、彼には呆れられてしまったが」
「マ……マジすか」
「お前を相手にすると、俺はそういう……陋拙な真似に出てしまうような男なんだよ」
「ロウセツ?」
「……せせこましい真似、という意味だ」
「アッ……」
こんな場面でわざわざ解説を入れさせてしまった。うう。この時点でもうお互い様感があふれ出してるけど、まあ恥かきついでだ、言っちゃえ。
頬に添えられたジルコンの手に、俺の手を上から重ねた。ぴく、と反応する指を押さえつけ、すり、と頬を擦りつける。
「んじゃ、今それ聞いて、俺がどう思ったか教えてやろうか」
「……なんだ」
「うん……あのね」
我ながらどうかと思う感想を、ためらいがちにささやく。
「……そしたらこの傷、残った方がエモいな、って」
「……クッ」
意表を突かれたように目を丸くしたあと、ジルコンは軽く噴き出した。俺も釣られて笑ってしまう。ベッド際の窓から差し込む月が、素肌を晒した俺たちを控えめに照らし出している。
「つーことで俺らお互いどっちもどっちじゃね? レベルで言えば、お似合いじゃね? ってことで……どうでしょ」
「それはそれで遺憾の極みだ」
「なんでよ!? フォローしてやったんだから乗ってくれよ!!」
「ああ、煩い。雰囲気も何もあったもんじゃないな」
「おまっ、……んぐっ!?」
それ以上の反論は、彼の唇で塞がれた。初めて感じる他人の体温が、自分の柔らかい場所に染みていく。指先すらも動かせない。
永遠とも思えるほどの、たぶん実際にはそんな長くもない時間を置いて、ジルコンは離れていった。いつもの傲岸不遜キラキラ王子の顔で、わずかに濡れた唇をぺろりと舐める。緊張と恥ずかしさは、その瞬間ピークに達した。爆発寸前の俺の胸元を、ジルコンがそっと手の甲で撫でる。
「やっ……優しくしてね!? 優しくしてって言ったよね!?」
「保証はできない、とも言っただろう」
「……ッ!!」
その言葉通り、一切の遠慮なく蠢きはじめたジルコンの手に、俺はなすすべもなく黙り込むしかなかった。
「……滑稽だな」
「はあ!?」
ジルコンが放った第一声は、よりにもよってそんな一言だった。
「ちょっ……えぇ!? 待って、この状況でそのセリフはさすがの俺でも傷つくんですけど!?」
「は? ああ、違う、早合点するんじゃない」
切実この上ない抗議に、ジルコンは俺のシャツにかけていた手を止める。治療魔法をかけた手を目の高さまで引き上げて、彼はどこか自嘲めいた笑みを浮かべた。
「滑稽なのは、俺自身だ。お前、さっきの流れを不自然だとは思わなかったのか」
「え? だって、あの傷……」
「馬鹿か。口実に決まってるだろう」
「馬鹿って言われた……」
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「マ……マジすか」
「お前を相手にすると、俺はそういう……陋拙な真似に出てしまうような男なんだよ」
「ロウセツ?」
「……せせこましい真似、という意味だ」
「アッ……」
こんな場面でわざわざ解説を入れさせてしまった。うう。この時点でもうお互い様感があふれ出してるけど、まあ恥かきついでだ、言っちゃえ。
頬に添えられたジルコンの手に、俺の手を上から重ねた。ぴく、と反応する指を押さえつけ、すり、と頬を擦りつける。
「んじゃ、今それ聞いて、俺がどう思ったか教えてやろうか」
「……なんだ」
「うん……あのね」
我ながらどうかと思う感想を、ためらいがちにささやく。
「……そしたらこの傷、残った方がエモいな、って」
「……クッ」
意表を突かれたように目を丸くしたあと、ジルコンは軽く噴き出した。俺も釣られて笑ってしまう。ベッド際の窓から差し込む月が、素肌を晒した俺たちを控えめに照らし出している。
「つーことで俺らお互いどっちもどっちじゃね? レベルで言えば、お似合いじゃね? ってことで……どうでしょ」
「それはそれで遺憾の極みだ」
「なんでよ!? フォローしてやったんだから乗ってくれよ!!」
「ああ、煩い。雰囲気も何もあったもんじゃないな」
「おまっ、……んぐっ!?」
それ以上の反論は、彼の唇で塞がれた。初めて感じる他人の体温が、自分の柔らかい場所に染みていく。指先すらも動かせない。
永遠とも思えるほどの、たぶん実際にはそんな長くもない時間を置いて、ジルコンは離れていった。いつもの傲岸不遜キラキラ王子の顔で、わずかに濡れた唇をぺろりと舐める。緊張と恥ずかしさは、その瞬間ピークに達した。爆発寸前の俺の胸元を、ジルコンがそっと手の甲で撫でる。
「やっ……優しくしてね!? 優しくしてって言ったよね!?」
「保証はできない、とも言っただろう」
「……ッ!!」
その言葉通り、一切の遠慮なく蠢きはじめたジルコンの手に、俺はなすすべもなく黙り込むしかなかった。
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