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第四章・生涯で唯一一度もお相手願えなかった、気位の高い猫みたいな男と。

4-4・お座り

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 先刻まで猫塚が座っていた、葡萄酒色のボックスソファ。天鵞絨びろうど張りの滑らかな座面に、俺は大きく脚を開いて座っていた。大きくくつろげた股間から、天を指す魔羅を覗かせて。

「へえ。なかなか立派なものをお持ちでいらっしゃる」

 股の間に跪いた猫塚が、怖じ気もせずにくすりと笑う。鼻先に突きつけた亀頭を、そよ風のような吐息がくすぐった。

「お褒めの言葉、どうも。大きさを誇るのも無粋な話だが、羨望に足る逸品だとは自負しているよ」
「……まったく。閨の中でまでそんな具合なのか、キミは」
「事実だろう? 謙遜してみたところで仕方がない」
「ああ、そう」

 そこまで言って猫塚は、前触れも何もなくいきなりぱくりと先端に食いついた。零れそうになった声を、すんでのところで止める。

「……っは、……なるほど」

 猫塚はちらりと俺を見上げ、鼻先でふ、と笑う。強がりに気づかれたか。初手で不覚を取ってしまったが、それほどまでに猫塚の口淫は上手かった。竿を強めに握りながら、唾液を塗すように頭部をねぶる。尖らせた舌先でくぼみをほじくり、血の脈動に合わせて裏筋を舐め上げる。乱雑さと繊細さを組み合わせた動作の一つ一つが、男を悦ばせる術へと繋がっていた。

「上手いっ……じゃないか。っふ、どこで……覚えた、こんな……」
「っふ……さあね。キミとそう変わらない稽古のはずだよ……んっ」
「く、ぁ……っ!」

 滲み出した先走りを吸われた瞬間、迂闊なことに、声が漏れた。もちろん猫塚は耳聡く聞きつけている。

「ふうん。なかなか可愛らしい声を出すじゃないか」
「……っ……は、意趣返しの……つもりか?」
「まさか。こうなった以上はお互い楽しみたいだけさ」
「っは……っ!」

 しなやかな指が玉を転がし、やわやわと揉みつける。限界が急速に近づいてきていた。このまま一方的にしてやられるわけにはいかない。猫塚の肩に手を伸ばそうとしたとき、奴の瞳が俺を睨んだ。

「駄目」
「なんだって?」
「オレの好きにさせるって約束しただろう。動いていいとは一言も言っていないよ」
「っ、しかし」
「ワン君。……お座り」

 優しく、しかし酷薄な声で、猫塚は高飛車に言いつける。条件反射的に体が固まった。本当に、躾けられる犬になった気分だ。大人しく腕を下ろした俺を、猫塚が嫣然と笑う。

「いい子だ」
「くぁ……っ!」

 尿道に指をねじ込むようにして、猫塚が俺のものを責め苛む。逃げ場のない腰が無自覚に揺らいだ。その隙を狙いすまして、猫塚の手が尻の方へと滑り込む。

「っ、は、猫、塚……っ、……あ?」
「ふふ。そのままいい子にしていてごらん? 桃源郷の悦楽を教えてあげる」
「なっ、ま、待て、猫塚っ!」

 細く冷たい手が辿った道筋に、背筋がぞくりと寒くなる。奴の指先は明らかに、俺の後ろの穴を狙って忍び寄ってきていた。
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