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第五章・きっとこの手の中に戻ってきてくれるはずの、今はまだ遠いお前と。
5-12・最後のゲーム
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永遠にも思えた吊り橋の終わりは、またしてもあのドアに続いていた。扉は既に半開きで、向こう側からまばゆい光が溢れ出している。例によって躊躇なく進む蜘藤と手をつないだまま、オレも境界を越えた。
足元がぐらつく。揺れる橋から降りて、ようやく堅固な地面を踏み締めたせいだ。打って変わって明るすぎる光量に、闇に慣れた目が一瞬だけくらんだ。
恐る恐るまぶたを上げる。飛び込んできた光景は、これまでとはかなり違う様相を呈していた。レリーフの部屋にあったものと同じ机が、椅子とセットでいくつも並べられている。前方には教卓と黒板、後方にも小さめの黒板とロッカー。大きな窓の外には、見覚えのあるグラウンドが広がっていた。教室だ。オレと蜘藤が一年を過ごした、あの高校の教室そのものだ。
不意に、蜘藤の手がオレから離れた。妙な焦りを覚えて彼を見やる。収まったはずの心臓が再び高鳴りだすのを感じた。なんで、と問いかけようとしたとき、教室上部に備え付けられたモニターの電源が入った。
『二人とも、お疲れ様でした』
映っているのは相変わらず、腹立たしいほど笑顔のミゴーだ。
『さて、残念なお知らせですが、楽しい時間もそろそろ終わりが近づいてきました』
「え、マジで!?」
『ええ。この部屋が最後の部屋……つまり、あなたたちに挑戦していただくゲームは、これが最後になります』
「最後……!」
蜘藤と顔を見合わせる。最後。これで最後だ。このクソみたいなゲームから、ようやくオレたちは脱出できるのだ。抱いた希望に輝いた表情は、しかし続くミゴーの言葉で絶望へと叩き落とされることになる。
『最後のゲームは、セックスです。あなたたち二人には、今からこの場でセックスしていただかなくてはなりません』
「……は!?」
耳を疑った。今なんて言った。セックス──オレたちが?
『道具が必要なら、教卓の中に用意してあります。上下ややり方なんかはまあ、お好きなように話し合ってください』
「ちょちょ、ちょっと待て、なんだよそれ!?」
『それでは、頑張ってくださいね。頑張ってってのも野暮ですかね、あはは』
食ってかかるオレを意にも介さず、唐突に画面が消える。同時に教室のスピーカーから、聞き覚えのあるチャイムが流れ出した。高校時代のオレたちが、毎日のように聞いていたチャイムだ。本当に、悪趣味な真似をする。
動揺を抑えきれないまま蜘藤を振り返る。蜘藤の顔は、見るからに青ざめていた。色を失うという慣用句を、そのまま形にしたような表情だった。
「お、おい、蜘藤」
「……ごめん、佐薙」
「え、おい、ちょっと、まさかお前っ」
「……ごめん……っ」
切羽詰まった声に、今度はオレの血の気が引いた。まさかこいつ、やる気なのか。あのミゴーが投げてよこしたとんでもないゲームに、唯々諾々と乗るつもりなのか。
『ずっと好きだったんだ、お前のこと』
さっき聞いた幻影の声が、耳の奥に再び響き渡った。
足元がぐらつく。揺れる橋から降りて、ようやく堅固な地面を踏み締めたせいだ。打って変わって明るすぎる光量に、闇に慣れた目が一瞬だけくらんだ。
恐る恐るまぶたを上げる。飛び込んできた光景は、これまでとはかなり違う様相を呈していた。レリーフの部屋にあったものと同じ机が、椅子とセットでいくつも並べられている。前方には教卓と黒板、後方にも小さめの黒板とロッカー。大きな窓の外には、見覚えのあるグラウンドが広がっていた。教室だ。オレと蜘藤が一年を過ごした、あの高校の教室そのものだ。
不意に、蜘藤の手がオレから離れた。妙な焦りを覚えて彼を見やる。収まったはずの心臓が再び高鳴りだすのを感じた。なんで、と問いかけようとしたとき、教室上部に備え付けられたモニターの電源が入った。
『二人とも、お疲れ様でした』
映っているのは相変わらず、腹立たしいほど笑顔のミゴーだ。
『さて、残念なお知らせですが、楽しい時間もそろそろ終わりが近づいてきました』
「え、マジで!?」
『ええ。この部屋が最後の部屋……つまり、あなたたちに挑戦していただくゲームは、これが最後になります』
「最後……!」
蜘藤と顔を見合わせる。最後。これで最後だ。このクソみたいなゲームから、ようやくオレたちは脱出できるのだ。抱いた希望に輝いた表情は、しかし続くミゴーの言葉で絶望へと叩き落とされることになる。
『最後のゲームは、セックスです。あなたたち二人には、今からこの場でセックスしていただかなくてはなりません』
「……は!?」
耳を疑った。今なんて言った。セックス──オレたちが?
『道具が必要なら、教卓の中に用意してあります。上下ややり方なんかはまあ、お好きなように話し合ってください』
「ちょちょ、ちょっと待て、なんだよそれ!?」
『それでは、頑張ってくださいね。頑張ってってのも野暮ですかね、あはは』
食ってかかるオレを意にも介さず、唐突に画面が消える。同時に教室のスピーカーから、聞き覚えのあるチャイムが流れ出した。高校時代のオレたちが、毎日のように聞いていたチャイムだ。本当に、悪趣味な真似をする。
動揺を抑えきれないまま蜘藤を振り返る。蜘藤の顔は、見るからに青ざめていた。色を失うという慣用句を、そのまま形にしたような表情だった。
「お、おい、蜘藤」
「……ごめん、佐薙」
「え、おい、ちょっと、まさかお前っ」
「……ごめん……っ」
切羽詰まった声に、今度はオレの血の気が引いた。まさかこいつ、やる気なのか。あのミゴーが投げてよこしたとんでもないゲームに、唯々諾々と乗るつもりなのか。
『ずっと好きだったんだ、お前のこと』
さっき聞いた幻影の声が、耳の奥に再び響き渡った。
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