空の話をしよう

源燕め

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第十五章

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 倉庫のあった場所とタシタカは、ほぼ大陸の端と端で、自動車で移動しても数日はかかる。帝都で蒸気機関車に乗り返ることも考えたが、アルフィユからは乗合馬車になるため、それではエンジンを運搬するのは難しいということになった。
 なによりも、アーネスティを人目ひつくところに連れて行くことはできなかった。
 アーネスティは自分の羽で、タシタカまで飛ぶと言い張ったが、カーライルがそれを許さなかった。
「いくらなんでも、距離があり過ぎる」
「オージュルヌから、帝都までは自分の羽で飛んだのよ。休みながら飛べば大丈夫だわ」
「休んでいるときに人目につくかもしれない。宿屋に泊れるわけじゃないんだ。疲れだって溜まる」
「車で移動したって、その間、野宿でしょ」
「言ってくれるね。簡単な天幕と寝袋くらいは、準備してあるよ」
 リュドミナが荷台にぎっしり詰まった。荷物を差してそう言った。
「ほら、ごちゃごちゃ言わずにさっさと乗る、リーヤ、助手席は詰めればふたり乗れるから、ハーレと一緒にね」
「はい、リュドミナ先生」
 リーヤはそう言うと、ハーレと連れ立ってちょこんと座った。
「先生、まだ、この車に乗っていらしたんですね」
「まだとはなんだい? ハーレが知っているころから随分いじり倒したから乗り心地を確かめてから、また話を聞こうじゃないか」
 荷台には、トーヤとカーライル、そして羽の上から布をすっぽりかぶったアーネスティが、木箱を椅子に座ることになった。
 もう、この倉庫の中には、解体された機体の残骸しか残っておらず、この何日間かの賑やかさが嘘のようにがらんと静まり返っていた。
 リュドミナは扉を閉めると、元の通り大きな鍵を閂にかけた。
 もう、二度とここにくることはないと思いながら。
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