ヴァルホルサーガVR~夜明けの開拓者たち~《改稿版》~地雷スタートでもヒーローになれますか?~

夏冬春日

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第1章 宵闇の冒険者

第十四話 一週間後……

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「あ~~、今日も働いたー」

 部屋のベッドに腰掛けぐっと伸びをする。ぱきぱきと鳴る骨の音を聞きながら、そのままベッドに倒れ込んだ。
 仰向けになった俺の目に飛び込んでくるのは、見慣れた梁と天井。
 この部屋にはじめて案内されたのは、もう十日以上前になるだろうか。そりゃ見慣れもするだろう。

 一週間ほど前。芋掘り&ユエちゃんのお守りで一日を終えたあの日。二つのクエストを達成したことでレベルが一つ上がった。
 マーモット退治にいそしんでいたときと比べると、なんともあっさりとしたものである。

 その日からは、雑貨屋のばあさんのメモを頼りに、仕事仕事散歩と依頼達成の毎日だ。
 ホントいろんな仕事をしたよなぁ。
 例えば掃除。錬金術師のお姉さんがこの街でポーションを売ってるんだが、そのスマートな見た目と違って片付けが苦手だ。
 いや、それは正確な表現じゃないか。見えないところは極力手を抜こうとするんだよな、あの人。
 船からこちらに運んできたであろう商品が、最低限店に出してあるもの以外は全部箱に入れたまま適当に放置されているんだもの。
 あれの整理はしんどかったなぁ。まぁ、報酬に渡されたポーション類、これが結構質がよかったからいいんだけどね。
 それになにより、眼福にあずかれたのが一番の報酬だ。いや、あの人、外に出るときはピシッとしてるのに、うちに入ると途端にだらしないというか、無防備になるんだよ。……ありがとうございます。

 あとはそうだな。ファニートラップという店で服のモデルなんかもした。
 いやまあ、メインはユエちゃんで俺は添え物だったんだが……。
 っていうかあのおっさん、もといおねぃさんは明らかに俺のクエストをだしにしてユエちゃんを呼んでるよ。
 俺そっちのけで、ユエちゃんにいろんな服を着せて楽しんでるんだもの……。
 まぁユエちゃん自身もいろんな服を着られて、且つお土産にその服を全部持たされて、大変ご満悦。Win-Winの関係だったからいいんだけどさ。
 俺も報酬で、その時に着せられた服をいただいた。これがまた冒険者用としても十二分な性能をしているもんだから、文句の付けようもない。

 他にもいくつもの依頼をこなした。どれもちょっとした頼み事の域を出ないものではあったものの、逆にそのおかげでいろんな経験ができた。
 エインヘリヤル以外の知り合いも増えたしな。
 俺が開拓使が受け付けてないような細かい依頼をこなしていることも認知されてきたようで、何日か前からは直接“妖精のとまり樹亭”に依頼を持ってきてくれる人もいるくらいだ。
 伝言に使われたおっちゃんには怒られたけれども……。

 まあ、そんなこんなで依頼をこなし続け、気づくと加護のレベルが10まで上がっていた。〔エルルーンの冥助〕さまさまだ。
 無論クラスのレベルも上げ、新しいスキルも入手した。
 改めてステータスウィンドウを表示し眺めるも、その成長ぶりに頬が緩んでしまう。





 クラスのレベルと取得済みのアビリティをそれぞれ上げたのまでは、順当なレベルアップと言っていいだろう。
 新しく〔ホワイトレディ〕のアビリティを取得しようかと迷ったんだが、それは保留した。
 理由は待望のnewスキル、〈精神感応〉の取得が解禁されたからだ。
 この〈精神感応〉というスキル、《エッグマスター》のクラスレベルと〔共感〕のアビリティレベルが両方5になったところで取得できるようになった。
 だが、取得のための消費GPが10と重く、今日のレベルアップでようやく取得に至った形だ。これの取得のために〔ホワイトレディ〕は見送った。いずれはこれも取得したいんだけどね。

 ちなみにこの〈精神感応〉の効果は、獣魔を含めいろいろなものとの、言葉を介さない意思疎通――ただしなんとなく――が可能になるスキルらしい。
〔共感〕のアビリティとなんの違いがあるんだよと思ったが、フジノキ曰く「アビリティはキャラクターの土台や基礎能力、スキルはできることを表すから、違うものなんだよ」とのことだ。
 その辺の違いについて細々と説明してくれはしたんだが、いまいち理解できんかった。
 何か変わるかと思いとってはみたものの、今のところ大きな変化はなし。
 卵に話しかけてもうんともすんとも言わない。まぁ、卵が意思表示をしてきたら、それはそれで怖いけどな。
 レベルが上がったら何か変わるかもだけど、パッシブ能力だから意識的に使うものでもないしなぁ。
 上がったら、それこそ念話みたいなスキルでもとれないかと期待してるんだが……。
 うーん、やっぱ卵に話しかけるしかないのか……。

 他にこの一週間で変わったことと言えば、やはり大きなものは“妖精のとまり樹亭”のお客さんが増えたことだろう。
 雑貨屋のばあさんのところの看板の効果か、その日からポツポツと開拓者が来るようになり、今では夕飯時には結構なお客さんが入っている。
 今晩もおっちゃんはもちろんのこと、ユエちゃんやソレイユさんもうウェイトレスとして忙しくしていた。
 看板の件についてもおっちゃんに「勝手なことするんじゃねぇ」とげんこつを落とされたけど。その時も顔は笑っていた。まあ悪いことではなかったのだろう。
 それに、お客さんが増えたことでちょっとした副産物もあった。なんと、“妖精のとまり樹亭”に定休日ができたのだ。

 以前は開店休業状態だったから休みなんてものは設定してなかった。だけどお客さんが増えることで、さっきも言ったようにユエちゃんもうウェイトレスで手伝うようになったからつくった形だ。
 くるくると働くその姿は微笑ましく、来る人来る人からかわいがられているのだが、そのおかげでユエちゃんは外に遊びに行くことがなくなってしまったのだ。
 もちろんおっちゃんも「手伝わなくていいから適当に遊んでろ」と言ったのだが、ユエちゃんは頑として聞かずウェイトレスを続けた。全く頑固なものだ。一体誰に似たのやら……。

 まあ、そんなこんなで困ったあげくひねり出したのが定休日だ。
 この定休日――おとといがそうだった――を利用してユエちゃんとはピクニックに出かけた。
 もちろんまたユエちゃんに手を引かれてだが、その日はカネティスも一緒だ。
 ユエちゃんが俺とカネティスの手を引いてのお出かけだ。
 ユエちゃんはもちろんのこと、カネティスも終始ご機嫌だったなぁ。なんか昔のこと、引っ越してカネティス、いや暁ちゃんと分かれる前のことを思い出してしまった……。昔はあの子、どこに行くにも後ろをひっついてきたからな。
 ま、この間は俺じゃなくてユエちゃんに引っ張られてたけどね……。ユエちゃんに振り回されつつも、それが楽しくて仕方ないといった風のカネティスを見て、昔を思い出してしまったわけさ。
 あの日の弁当が、豪華ピクニック仕様だったのも、楽しさに拍車をかけたのかもしれないな。
 あ、ちなみに豪華ピクニック弁当の制作者であるおっちゃんはというと、ソレイユさんと二人でお出かけしていた。夫婦水入らずのデートでも楽しんだのだろう。

 っと、いかんいかん。
 ぼうっと天井を見ながら物思いにふけっていたら、結構な時間がたってしまった。
 明日は喜助さんにナイフの使い方を教えてもらうんだ。早く寝ないといけないのに……。
 実は昨晩、真理恵さんと喜助さんが二人でご飯を食べに来てたんだ。その時よければ教えてくれないかって頼んだら、快諾してくれた。
 明日は真理恵さんの方が忙しく、喜助さんは手隙になるらしく、ちょうどよかったらしい。この街の地下遺跡で稽古をつけてくれるとのことだ。
 初の遺跡……。楽しみだ。
 期待に胸をふくらませながら、俺は眠りに落ちた。





「おう、もう行くのか?」

 翌朝、冒険の準備を終え一階に下りてきたところで、おっちゃんに声をかけられた。
 ちなみにユエちゃんはまだ朝寝中だ。お疲れらしい。

「ほらよ、持ってけ。あの爺さんの分も詰めてある」

 ぶっきらぼうに突き出された手には、包みが二つ。二人分のお弁当を作ってくれたようだ。
 これは喜助さんも喜ぶだろう。さすがおっちゃん、気が利くな。

「ありがとうございます。それじゃあ行ってきますね」

 頭を下げ出かけようとする俺を、おっちゃんが呼び止めた。

「あー、ちょっと待て。ときにコダマ、今日はいつくらいに帰ってくる?」
「え!? 今日ですか? 日暮れ時には帰ってくるつもりですけど……」

 なんだろう。帰る時間を聞かれるなんて初めてだ。

「いやな、今日はソレイユと二人で出かける用事ができてな、昼から出かけるのよ。店も臨時休業にした。もしかしたらだが、夕飯時になっても帰れねぇかもしれないんだわ。だからよ、俺たちが帰ってなかったら、一緒に庁舎にでも飯を食いに行ってくれねえか?」

 おっちゃんが困り顔でひげをしごく。

「もちろん大丈夫ですよ。でもそれなら、喜助さんに断りを入れても……」

 ユエちゃんに一人留守番をさせるのもと思って提案する俺の背中を、おっちゃんは乱暴に押す。

「はっ。ガキがいっちょ前に気ぃ使ってんじゃねぇよ。英雄目指してんだろ? ただで人から教えてもらえる機会なんざ、そうはねぇんだ。さっさと行け」

 確かにおっちゃんの言うとおりではあるんだが……。いや、ここはおっちゃんの言うとおりにしよう。後ろ髪を引かれつつも首を縦に振った。

「わかりました。それじゃあいってきます」
「おう、いってきな」

 おっちゃんに押されるがまま、“妖精のとまり樹亭”をあとにする。

「それじゃあユエのこと、よろしく頼むぜ」

 俺の背に、ぽつりとそんな言葉が投げかけられる。
 おっちゃんも、ユエちゃんが一人留守番をするのは心配なのだろう。俺も早めに帰るのを心がけないとな。


 ◆


 喜助さんと待ち合わせたのは開拓使庁舎の前、中央広場だ。
 まだ早い時間だというのにそこそこの人出がある。またそれを見越してなのか屋台もいくつか出ている。
 ざっくり見回すが、ホットドッグみたいな軽食が主だな。昼飯用なのか、庁舎から出てきた開拓者が買っていっている。
 そんな様をぼうっと見ていると、後ろから肩をたたかれた。
 驚いて振り向くと、そこでは喜助さんが片手をあげていた。

「すまんすまん。待たせたかの?」
「いえ、今来たところですから」

 挨拶を交わすと喜助さんからパーティ申請が出されたので受諾する。

「それじゃあ早速と言いたいところじゃが、昼飯用意するからちぃと待っとくれ」

 すまんのと手を上げ屋台の列に並ぼうとする喜助さんを呼び止める。

「あ、ちょっと待ってください。実はおっちゃん……。あ、いや。ガンツさんがお弁当を持たせてくれたんです。もちろん喜助さんの分も」

 俺の言葉に喜助さんは立ち止まり、くしゃりと笑った。

「本当か!? そりゃありがたい。なんせあそこの飯はうまいからのぉ」
「ええ、ですからそのまま言っても大丈夫ですよ」
「そうかいそうかい。それなら早速遺跡に向かうとしようかの。なに、入り口は街の中じゃ。すぐにつく」

 意気揚々と歩き出す喜助さんに連れられ遺跡へと向かった。





 喜助さんの先導で歩き始めて十数分、遺跡の入り口にたどり着いた。
 そこには石造りで装飾の施された穴があり、地下へと階段が続いている。入り口には兵士がいて入場をチェックしているようだ。
 傍らには建屋もある。きっと兵士の詰め所なのだろう。

「それじゃあ入ろうかの」

 喜助さんが許可証らしきものを見せると、すんなり二人とも遺跡内部に入ることができた。
 ってあれ? ここって入場に貢献度が必要なんじゃなかったっけ。
 俺、開拓使のクエストを一個も受けてないから、貢献度なんてゼロなんだけど……。
 不思議に思い、喜助さんに聞いてみた。すると……、

「ああ、1層の地下三階までならパーティ単位で入場申請ができるからの。朝、出際に庁舎でやっておいたわい」

 喜助さんはなんてことないように言った。

「え!? でも貢献度が……」
「そんなもん、たいした額でもないし払っといたわ。気にせんでええ」

 ぱたぱたと手を振る喜助さん。

「いやでも、それなら外で訓練すれば……」

 言いつのろうとする俺に、喜助さんは階段を下りる足を止め振り向いた。

「外は無理じゃな。人目がありすぎる。おぬしもこれ以上騒ぎ立てられたくはなかろう? その点ここはインスタンスダンジョンやったかの? 他のパーティとはバラバラになるようになっとるから、邪魔がはいらん」

 なるほど。確かにこれ以上掲示板に話題を提供したくはないからありがたいのだけれど……。

「それにのぉ、若いもんが細かいことを気にするな。ハゲるぞ。なんなら今日の弁当代とでも思っとけばええのよ」

 喜助さんは、自身の禿頭をぴしゃりとたたく。

「そもそも、そんなこと気にするんじゃったらナイフの扱い方なんか教えようとせんわ。ワシはおぬしを気にいっとるから、勝手に教えるだけじゃ。それにワシは個人的におぬしに借りがあるからの」

 借り……? そんなものあったかな。むしろ俺の方が借りがある気がするんだが……。

「……あー。“妖精のとまり樹亭”の宣伝をしたのおぬしだろうに? おかげでうまい飯にありつけたんじゃ。感謝もするわい」

 喜助さんが俺の胸を、とんとたたく。
 なるほど……、ただそれだと半分以上がユエちゃんのお手柄な気もするな。
 でもまあ、そういうことならお言葉に甘えることにしよう。

「わかりました。お願いします」

 頭を下げる俺を見て喜助さんは「それでええ」と軽く笑った。

 そうこうしているうちに階段を下りきった。
 下りた先の通路はまっすぐ続いている。壁がほのかに発光しているせいか、ある程度周りは見渡せるようになっている。
 とはいえ、奥の端まで見通せると言うことはないが……。

「ふむ、ここからが遺跡かの」

 喜助さんは立ち止まった。

「さて、ナイフの使い方と言っても色々ある。どんなものを教えて欲しいのよ?」

 喜助さんの言葉に思い悩む。

「どんなと言われましても……。俺、クラスの関係上これしか持てないんですよね。なのでこれをうまく使いたいなぁと思いまして……」

 懐からオリゴナイフを取り出し、喜助さんに見せる。

「そう言やそうじゃったな」

 忘れとったと喜助さんは額をぴしり。

「それならまずは一般的なナイフの使い方を教えようか。最近のVRゲームの常として、リアルでの扱い方を知っておくのにこしたことはないからの」

 ああ、確かに……。マーモットと戦ったときもナイフの扱いに慣れたらダメージが上がったものな。リアルでの扱い方を知っておくって言うのは大事かもしれない。
 ま、このゲーム特有の動き、アーツの使い方を見せられても、それを覚えられない俺にはしょうがないって事もあるけど……。
 俺の顔を見て何か思ったのか、喜助さんが話しかけてくる。

「そんな顔せんでも、あとでアーツを使った戦い方も教えてやるから心配せんでええ」
「え!? でも俺、アーツなんて覚えられませんけど……」

 俺の言葉に喜助さんはふっふと含み笑う。

「そこで諦めるのは早計というものよ。見ておくにこしたことはないぞ? それに将来的に覚えられんとは限らんしの」

 確かにそうだ。何よりせっかくの機会だ。時間の限り教えてもらおう。

「そうですね。よろしくお願いします」

 俺は改めて頭を下げた。喜助さんも居住まいを正す。

「よしよし、それじゃあナイフの扱い方の一つ目。投げ方からいこうかの。ナイフはメインに使われる武器とは違って投げて使うことも多い。手放してもええからの。むろんオリゴナイフも投げて使える。とはいえ当然投げるために作られたナイフの方が扱いやすいし威力もでるからの、とりあえずこれを使うかね」

 喜助さんが袖口から取り出したのは、手のひらサイズの先のとがった鉄の棒だった。

「いわゆる日本の棒手裏剣っちゅうやつよ。こう見えてもこのゲームじゃナイフの一種なる。そんでもってこれはこう使う!」

 喜助さんは手のひらに隠すように持ったそれを、下手にすっと投げた。

「Gyoe」

 通路の奥、暗闇から潰れたカエルのごとき声が聞こえる。

「おっと。うまい具合に当たったの」

 通路の奥へと足を進める喜助さんを追いかけると、そこのは喉元に棒手裏剣が突き刺さった緑色の子鬼――ゴブリン――が倒れていた。
 ほどなくゴブリンはその姿を虚空に消す。かわいた音を立てて床に落ちる某手裏剣を拾い、喜助さんは解説を続けた。

「ま、こんな具合よ。棒手裏剣は暗器の類いじゃからの。隠すように投げたが、オリゴナイフはそうもいくまい。まっとうな投げ方も見せておくかの……」

 喜助さんが、今度はポーチの中からナイフを取り出す。だがそれはナイフと言っていいのだろうか、奇異な形をしている。柄から出た刃が三つに分かれて、まるで卍のような形をしているのだ。

「こいつはウォシェレというアフリカの部族が使っていたという投げナイフでな。こんな見た目で意外と投げやすい」

 喜助さんはおもむろにそれを振りかぶり、すばやく振り下ろす。喜助さんの手から離れたウォシェレは、確かに意外なほどまっすぐ回転しながら飛んでいく。

「Gi、i」

 通路の奥から声がした。どうやらまた罪無きゴブリンが仕留められたらしい。
 喜助さんは奥へと進み、先ほどと同じようにナイフを回収している。

「投げナイフはのう。こうやって後で回収せんとコストがかさむのが玉に瑕じゃ。メインじゃ使いづらいの。さて次じゃが……」

 あれ、おかしいぞ? そう思い、話を続けようとする喜助さんを慌てて止める。

「ちょっと待ってください喜助さん。俺オリゴナイフしか使えないから、そんな特殊なナイフばっかり見せられてもお手本にしようが無いんですが……。もしかして自分の持ってるナイフを自慢したいだけじゃないでしょうね」

 俺の言葉に喜助さんはわざとらしく天を見上げ、ぺしぺしと自身のつるりとした額をたたく。
 やっぱりか……。なんか変だと思ったんだよな。

「……ばれたかの。だってしょうがないんよ。せっかくのゲーム、普段扱えん様な武器を色々作ってもらったのに、真理恵も孫もいーっさい興味をもたんのやもの」

 喜助さんがだだをこねる。やめて、その無駄に発達した筋肉でそのポーズはやめて……。

「どうかのお。授業料だと思ってあと一本だけ見てくれんかのぉ」

 いっそ哀れみさえ覚える声で頼まれると、嫌とは言えない。
 授業料がわりと言われると反論しづらいしな。あと実は、喜助さんの見せてくれたナイフに心動かされた自分もいる。
 あの、ウォシェレってナイフ、どうにも俺の中二心をくすぐるんだよな。

「わかりました」

 俺が頷くと、喜助さんは一転嬉しそうに笑った。

「そうかそうか。それじゃあ最後はファンタジー定番の一本にするかの」

 喜助さんのポーチから取り出されたのはくの字型に湾曲したナイフだった。ナイフと言って良いのだろうか、結構な大きさであり、刃は内側にのみ付いている。

「おなじみのククリじゃよ。造ってくれた鍛冶屋が凝り性でな、ちゃんとチョーまでつくってある」

 刃の根元にある溝をさわりつつ、喜助さんは遺跡の奥に足を進める。
 それを見て追いかける俺の感想は、(あ、ククリってこんな形だったんだ)だ
 いや、名前自体は知ってたけどもさ、実物見たのは初めてだよ。
 だが、そんな俺をよそに喜助さんは解説を続ける。

「見ての通り刺すには向かん形をしておる。その代わりこの形が切るのには向いておっての。こんなこともできる」

 ――シッ

 間抜けにも曲がり角から顔を出したゴブリンの首をめがけてククリを薙いでいく。

「な!?」

 俺が驚く間もあらばこそ、さくりとゴブリンの首は断たれ地面に落ちる。
 ゴブリンが自分が攻撃されたことに気づいていたのか、それすらも疑問に思える早さだった。

「ま、レベル差もあってだがの。うまく扱えばゲームの中でもこんなことができるのよ」

 喜助さんが振るうククリの下で、ゴブリンが消えていく。

「他にも色々あるが、それはまあ次にするかの」

 次があるのか……。いや、俺としては割と願ったり叶ったりなんだけど。
 喜助さんはいい笑顔を見せている。
 どうやら自身のコレクションを披露できて満足したようだ。

「よしよし、それじゃあちゃんとしたナイフの使い方を教えるとしようか」

 喜助さんが歩みを進める。
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