『R18』バッドエンドテラリウム

Arreis(アレイス)

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異世界転生者マリー編

第19話 好敵手

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 地底湖のある洞窟へとマリーたちは入っていく。
 ここに住む触手がどういった生き物かはすでにシルバーから説明を受けており、仲間の転生者たちは全員その危険性を知っていた。
 出来るだけ地底湖には近づかず、壁からの触手にも注意を配り、一団は濡れた石の上をゆっくりと進んでいく。
 先頭を行くのは気配察知に優れたミドリ。
 そのすぐ後ろを素早いシアンが固め、その後ろにマリーとバイオレットが続いていた。
 この布陣であればミドリの身に何かあったとしてもシアンが助けに入ることができ、その危険をバイオレットの杖から伝達できる。
 ひんやりとした空気は相変わらずで、マリーはここでの出来事を思い出しながらより一層警戒を強めていた。
 
 どれだけ地底湖を進んだだろうか。
 濡れた石床を苦にも感じなくなってきた頃、突然その音は響いてきた。
 ドボン、という何か大きな物が地底湖へと落ちる音。
 前方から聞こえてきたその音は洞窟内に反響し、ここに居る全員を警戒させる。
 何事かとマリーが聞き耳を立てた時、ガラガラという岩の転がる轟音と共に悲鳴が聞こえてきた。

 「早く離れろ! 崩落だ!」
 
 続けて聞こえてきた男の声。
 離れてついてきていた転生者たちだろう。 
 うわー、や、きゃーという悲鳴が上がったが、何かが潰れたような音は聞こえない。
 マリーが状況を詳しく確認するために道を引き返そうとした時、地底湖からちゃぽんと小さく水音がした。

 「水から離れて!」

 マリーの声はバイオレットの杖を通して全員へと伝達される。
 その声に真っ先に反応したのはシルバーら精鋭たちで、その声を聞くなりぴったりと側面の岩肌へと身を寄せていた。
 一方、戦い慣れていない一般転生者たちは反応が遅れ、行動に移せたのはごく僅かだ。
 その差が、明暗を分けた。 

 「なんだこれ! 水が足に……がぼっ!」
 「え! やだっ離し……」

 何人かが水の触手に手足を捕まれ、地底湖へと引きずり込まれた。
 背後からぼちゃんという水音がいくつも響き、マリーは状況を理解する。
 助けないと。
 反射的にそう判断し高速移動で戻ろうとするマリーの肩を、真剣な顔のバイオレットが掴んだ。
 
 「ここは私に任せて先に行って。 軟体生物相手なら私の魔法の方が向いてるし、最初に聞こえたドボンって音、たぶん無関係じゃない」
 「バイオレットさん……」
 
 その決意に満ちた顔に何も言えず、マリーはバイオレットを見送った。
 シルバーもバイオレットの判断が正しいと思ったのか、引き止めず静かに頷いていた。 
 水が相手となると、たしかにマリーたちは相性が悪い。
 ただのスライムであれば核を狙えば良いが、この地底湖の魔物に核らしい核は無かった。
 長い時間体を包み込まれ、犯され続けたマリーにはそれが痛いほどわかる。
 どうする事も出来ない自分に歯がゆさを感じながら、マリーはシルバーに促されるまま前へと進み続けた。

 しばらくして、ドカンという爆発音と共に振動が伝わってくる。
 どうやらバイオレットの戦いが始まったようで、バチバチという強い電気が流れる音や、びちゃびちゃという何かたくさんの物が水へと落ちる音が聞こえてきた。
 広いとはいえ洞窟内に響くその爆音に、マリーを耳を押さえてその場にしゃがみ込んでしまった。
 まるで体の中で何かが爆発したかのようなその衝撃に、マリーは感覚強化を維持できない。
 その様子を心配してシアンが駆け寄ったその瞬間、シアンの足元すぐの所で金属音が響いた。
 カーンという高い音に、シアンは素早くマリーを抱き抱えて岩肌へと移動する。
 そして転がった矢を確認すると、マリーを離してひとりで前方へと駆け出して行ってしまった。
 ミドリもそれに追従し、マリーはひとりその場に残される。
 シルバーが心配そうに肩へと手を置いた時、前方から金属同士がぶつかる高い音が響いてきた。
 カーン、カーンと、何度も響いてくるその音から戦いの激しさが伝わってくる。
 マリーは驚いた体を回復させる間、その音だけに集中していた。


 「へぇ、やるじゃないか」
 「今回の転生者は雑魚ばかりだと聞いてたんだが、おたくもなかなかやるねぇ」

 槍の穂先と暗い色のメイスをぎりぎりと押しつけ合いながら、シアンと大男は会話を交わしている。
 シアンが接敵と同時に放った高速の突きを大男はひらりと躱し、続けて繰り出された横薙ぎの一撃を右手のメイス一本で止めていた。
 射程距離の違いから左手のメイスは構えられたまま微動だにしないが、もしこれが近い距離であれば同時にあの鉄塊が振り下ろされていたのだろう。
 その無駄の無い一連の動作から、シアンはこの大男がかなりの腕だと見込んでいた。

 大男もまた、シアンをかなりの使い手だと見ている。
 高速の突き自体は予想の範疇だが、それが外れると同時に繰り出された横薙ぎの一閃がその根拠だ。
 避ける方向を予想していたのか咄嗟に対応したのか、どちらにせよ体の無い側から槍を自身の体へと引き寄せて、体の回転と合わせて必殺の一撃を放ってきた。
 もし大男の獲物が重いメイスで無かったなら防いだ武器は弾かれ、次の一撃で止めをさされていたはずだ。
 大男は久しぶりの強敵に気を良くしたのか、あっはっはと豪快に笑った。

 「俺はグリズリー。 人狩りじゃあ珍しい戦闘係だ」
 「シアン。 自己紹介も早々に悪いんだが、あんたのお仲間は死んじまったようだぞ?」
 
 シアンとグリズリーがお互いの出方を伺う中、ミドリは淡々とその取り巻きを仕留めていた。
 暗い洞窟内にありながらその弓の腕は衰えず、的確に頭部を射抜いている。
 その弓がグリズリーの頭部へと向けられる頃には、洞窟内に人狩りの死体がいくつも転がっていた。

 「弓のお嬢ちゃんも可愛い顔してやり手のようだ。 ガキは趣味じゃないが、それだけの腕ならぜひ俺の子を産んで欲しかったもんだ」
 「お生憎、この槍を受けて生き残った者は居ないんでね。 子作りは早めに済ませておくべきだった……なぁ!」

 へらへらと笑うグリズリーの側頭部目掛け、槍の柄が襲いかかる。
 シアンは反時計回りに体を回転させて、グリズリーの空いた左手側を狙ったのだ。 
 
 「ブラフだな?」

 それを後ろに躱した所へ、踏み込みながらもう一回転分の力を溜めた横薙ぎの攻撃が襲いかかる。
 一撃目を躱されると読んでの二撃必殺だ。
 だがグリズリーはそれを読んでおり、二撃目に合わせて前進し左手のメイスでそれを受け止めながら右手のメイスを頭上高く構えていた。
 お互いが踏み込んだ分、距離は詰まっている。
 振り下ろせば確実に頭を砕く一撃だったが、それが振り下ろされる事は無かった。
 グリズリーの体は受け止めたメイスごと横へとずらされ、体勢が崩れていた。
 右後方に体を傾けた不安定な状態からは重いメイスを振り下ろせず、グリズリーはただメイスを振り上げたのみとなっている。
 シアンはその一瞬の隙を見逃さず、素早く後ろに跳んで距離を取った。

 「俺が体勢を崩されるとは、思った以上の威力だなぁ」
 「そのまま地底湖に叩き落とすつもりだったんだが、あんたどんな体幹してるんだ?」

 シアンとグリズリーはお互いにやりと笑い、武器を構え直す。
 その隙の無い構えに、ふたりは好敵手の登場を喜んでいた。
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