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近未来スカベンジャーアスカ編
第21話 最初のブッチャー
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レーザーコアの生産が終わり、ポラリスはそれを他の機械と組み合わせている。
時代の流れと共にだいぶ小型軽量化してきたとはいえ、レーザーコアともなるとさすがに大物だ。
それに光を収束させるためのレンズなどが入ったバレルを取り付け、トリガー、ストックと銃のように組み立てていく。
そうして出来上がった即席のレーザー銃は、レールガン並みの大きさになっていた。
満足そうに構えて見せるポラリスに、アスカはうんうんと頷いて答えた。
「私には持てそうにないけど」
「アスカにはこちらを」
いつの間に作っていたのか、ポラリスは円柱型でピンのついた、いかにも爆弾といった見た目の物を渡してくる。
これならジュースの缶程度の大きさで持ちやすいが、問題はこれが何かという点だろう。
「これは?」
「焼夷手榴弾。 ピンを抜いて投げつければ一面火の海です」
心配そうな顔のアスカに対してポラリスは相変わらず満足げで、その出来に納得している様子だ。
宇宙空間での酸素は貴重品であり、それを大量に消費する燃焼系の兵器の使用は本来違法だ。
火が有効な場面は多いがそれに伴う事故も多発しており、酸素発生装置に引火した結果その配管へと火が回り、惑星表面全体が爆発したという大きな事故もあった。
そんな危険物を涼しい顔で渡してくるポラリスに、アスカは少し引いてしまった。
「なりふり構ってもいられないか……」
アスカは渋々それを受け取ると紐を巻き付け、ベルトへと固定した。
また静かになった工場内に、ギギギギという不気味な金属音が響く。
錆びた金属部品を無理やり動かしているようなその音は工場奥、閉じたシャッターの奥から聞こえて来る。
「ポラリス、どう?」
「あのシャッターはあらゆる電波を遮断するようで、調査は出来ません。 開けてみますか?」
音はシャッターのすぐ向こうから聞こえて来ており、その音量から大した大きさではないと推測できる。
これがブッチャーによるものだったとしても、今の装備であれば難なく対処できるだろう。
この音が他の人間によるものである確率は限りなくゼロだが、ここまで厳重に守られていると気になってしまうのがスカベンジャーの性だ。
「開けてみようか」
「了解しました」
ポラリスが端末を操作し、赤字でCAUTIONと書かれた下の認証ボタンを押す。
何やら注意書きが出ていたようだが、ポラリスはそれを読んだかどうかもわからないスピードで認証してしまった。
「今のは?」
「許可なく開けば最悪死刑だそうで」
「アンドロイドなんだからもう少しルールとか気にした方が良いんじゃない?」
「アスカ、アンドロイドは人間の法律の対象外ですよ?」
何も当然のことを、といった顔でポラリスはアスカをじっと見ている。
ポラリスの言う通り、法を犯したアンドロイドに対する罰則は定められておらず、裁判にかけられたという記録も無い。
しかしそれは人間の命令に絶対服従であるという前提があっての話で、ポラリスのように心を持ち自由に命令違反をする超高性能アンドロイドは想定されていない。
法という観点で見れば確かに、ポラリスの行動は違法では無いと言えるだろう。
呆れ顔のアスカの背後で、分厚いシャッターがゆっくりと上がっていく。
そこから現れたのは、全体をサビで覆われた小型の機械だった。
縦横1メートルほどの大きさで、形だけ見れば車のフレームのようだ。
唯一違う点は、そのフレームからロボットアームが二本生え、先端に刃物が光っている点だろう。
「あれってブッチャー?」
「はい、最初期の個体ですね。 むき出しのフレームに刃物、芝刈り機と揶揄されていた最下位個体です」
その芝刈り機は動きの悪いタイヤをぎりぎりと回し、ゆっくりと生産ラインの方へと進んでいる。
仲間の元へ帰ろうとする本能なのか単に光の方を目指しているのか、その動きをふたりは目で追いつつも、開いたシャッターの先へと視線を向ける。
開けた空間の中心には透明な壁に囲われた檻のような物が置かれ、その周囲にはいくつもの端末が並んでいた。
薄暗い工場とは対照的に、眩いばかりに照明が点けられており、その空間の異様さが際立っている。
アスカがすっかり目を奪われている間に芝刈り機は工場の出口へと差し掛かっている。
その様子を冷めた目で見ていたポラリスはゆっくりとレーザー銃を構え、引き金を引いた。
一点に収束されたレーザーが芝刈り機のシャフトを焼き切り、タイヤだけがころころと工場の先へと出て行く。
移動手段を失った芝刈り機は、ギギギギと軋んだ音を立てながらただもがくだけになっている。
その姿に憐れみを感じ、ポラリスはレーザー銃を下ろす。
シャッターの先へと向かうアスカを追いかけて、ポラリスは部屋を出た。
どうやら空調もこの空間専用に調整されているようで、外と比べるとかなり気温が低い。
端末の保護のためか檻に入れる生物のためかはわからないが、よほど重要な場所のようだ。
透明な檻はかなり頑丈な造りをしており、その壁の分厚さや大きさ、叩いた感触からみても人間を入れるための物では無いだろう。
しかし天板には空気穴なのか小さな穴が無数に開いており、ここに入れていたものが呼吸が必要な生物であった事は伝わってくる。
考えられる可能性は、人より大きく獰猛な生物を飼育していたか、あるいは……。
「端末の記録によるとブッチャーと生体組織についての調査を行っていたようです」
「ここにブッチャーと人間を入れて?」
「ご名答。 賞品は当時の記録映像ですが見ますか?」
「遠慮しとく」
微かに透けて見える内部の傷から察しがついていた。
ブッチャーがなぜ生体組織を狙い人を襲うのか。
その真相究明をここで行っていたなら納得だ。
実際に人と対面させて観察し、生体組織の塊である人をどうするのか見れば良い。
使われたのもどうせ受刑者たちだろう。
近年ではごく普通となった受刑者たちの実験利用のひとつだ。
「当時のブッチャーたちは単なる興味で人を襲っていたようですね、何をするでもなくただ分解しています」
「そう、最低」
未知の物質について取れる行動はそんなものだろう。
外宇宙にて、無数の新物質を見つけた人間もそんなもんだった。
確保する方法を見つけるために受刑者を使い、その作用を調べるために受刑者を使い、時間経過による人体への悪影響を調べるために受刑者を使った。
ならブッチャーが調査のために人間を殺したって、同族すら実験材料にする人間には何も言えないのではないか。
そんなことを考えながら檻を眺めていたアスカに、ポラリスは続けて声を掛ける。
「ブッチャーに襲撃される以前に実験記録があります。 ユートピアの職員はブッチャーの存在と生体組織への興味を知りながらここに残ったようですね」
「なめてかかってたって事か……」
ブッチャーたちの襲撃はさらわれた仲間を助けるためや、仲間を殺された事に対する報復行動だったのだろうか。
アスカの中には色々な感情と疑問が渦巻いていた。
時代の流れと共にだいぶ小型軽量化してきたとはいえ、レーザーコアともなるとさすがに大物だ。
それに光を収束させるためのレンズなどが入ったバレルを取り付け、トリガー、ストックと銃のように組み立てていく。
そうして出来上がった即席のレーザー銃は、レールガン並みの大きさになっていた。
満足そうに構えて見せるポラリスに、アスカはうんうんと頷いて答えた。
「私には持てそうにないけど」
「アスカにはこちらを」
いつの間に作っていたのか、ポラリスは円柱型でピンのついた、いかにも爆弾といった見た目の物を渡してくる。
これならジュースの缶程度の大きさで持ちやすいが、問題はこれが何かという点だろう。
「これは?」
「焼夷手榴弾。 ピンを抜いて投げつければ一面火の海です」
心配そうな顔のアスカに対してポラリスは相変わらず満足げで、その出来に納得している様子だ。
宇宙空間での酸素は貴重品であり、それを大量に消費する燃焼系の兵器の使用は本来違法だ。
火が有効な場面は多いがそれに伴う事故も多発しており、酸素発生装置に引火した結果その配管へと火が回り、惑星表面全体が爆発したという大きな事故もあった。
そんな危険物を涼しい顔で渡してくるポラリスに、アスカは少し引いてしまった。
「なりふり構ってもいられないか……」
アスカは渋々それを受け取ると紐を巻き付け、ベルトへと固定した。
また静かになった工場内に、ギギギギという不気味な金属音が響く。
錆びた金属部品を無理やり動かしているようなその音は工場奥、閉じたシャッターの奥から聞こえて来る。
「ポラリス、どう?」
「あのシャッターはあらゆる電波を遮断するようで、調査は出来ません。 開けてみますか?」
音はシャッターのすぐ向こうから聞こえて来ており、その音量から大した大きさではないと推測できる。
これがブッチャーによるものだったとしても、今の装備であれば難なく対処できるだろう。
この音が他の人間によるものである確率は限りなくゼロだが、ここまで厳重に守られていると気になってしまうのがスカベンジャーの性だ。
「開けてみようか」
「了解しました」
ポラリスが端末を操作し、赤字でCAUTIONと書かれた下の認証ボタンを押す。
何やら注意書きが出ていたようだが、ポラリスはそれを読んだかどうかもわからないスピードで認証してしまった。
「今のは?」
「許可なく開けば最悪死刑だそうで」
「アンドロイドなんだからもう少しルールとか気にした方が良いんじゃない?」
「アスカ、アンドロイドは人間の法律の対象外ですよ?」
何も当然のことを、といった顔でポラリスはアスカをじっと見ている。
ポラリスの言う通り、法を犯したアンドロイドに対する罰則は定められておらず、裁判にかけられたという記録も無い。
しかしそれは人間の命令に絶対服従であるという前提があっての話で、ポラリスのように心を持ち自由に命令違反をする超高性能アンドロイドは想定されていない。
法という観点で見れば確かに、ポラリスの行動は違法では無いと言えるだろう。
呆れ顔のアスカの背後で、分厚いシャッターがゆっくりと上がっていく。
そこから現れたのは、全体をサビで覆われた小型の機械だった。
縦横1メートルほどの大きさで、形だけ見れば車のフレームのようだ。
唯一違う点は、そのフレームからロボットアームが二本生え、先端に刃物が光っている点だろう。
「あれってブッチャー?」
「はい、最初期の個体ですね。 むき出しのフレームに刃物、芝刈り機と揶揄されていた最下位個体です」
その芝刈り機は動きの悪いタイヤをぎりぎりと回し、ゆっくりと生産ラインの方へと進んでいる。
仲間の元へ帰ろうとする本能なのか単に光の方を目指しているのか、その動きをふたりは目で追いつつも、開いたシャッターの先へと視線を向ける。
開けた空間の中心には透明な壁に囲われた檻のような物が置かれ、その周囲にはいくつもの端末が並んでいた。
薄暗い工場とは対照的に、眩いばかりに照明が点けられており、その空間の異様さが際立っている。
アスカがすっかり目を奪われている間に芝刈り機は工場の出口へと差し掛かっている。
その様子を冷めた目で見ていたポラリスはゆっくりとレーザー銃を構え、引き金を引いた。
一点に収束されたレーザーが芝刈り機のシャフトを焼き切り、タイヤだけがころころと工場の先へと出て行く。
移動手段を失った芝刈り機は、ギギギギと軋んだ音を立てながらただもがくだけになっている。
その姿に憐れみを感じ、ポラリスはレーザー銃を下ろす。
シャッターの先へと向かうアスカを追いかけて、ポラリスは部屋を出た。
どうやら空調もこの空間専用に調整されているようで、外と比べるとかなり気温が低い。
端末の保護のためか檻に入れる生物のためかはわからないが、よほど重要な場所のようだ。
透明な檻はかなり頑丈な造りをしており、その壁の分厚さや大きさ、叩いた感触からみても人間を入れるための物では無いだろう。
しかし天板には空気穴なのか小さな穴が無数に開いており、ここに入れていたものが呼吸が必要な生物であった事は伝わってくる。
考えられる可能性は、人より大きく獰猛な生物を飼育していたか、あるいは……。
「端末の記録によるとブッチャーと生体組織についての調査を行っていたようです」
「ここにブッチャーと人間を入れて?」
「ご名答。 賞品は当時の記録映像ですが見ますか?」
「遠慮しとく」
微かに透けて見える内部の傷から察しがついていた。
ブッチャーがなぜ生体組織を狙い人を襲うのか。
その真相究明をここで行っていたなら納得だ。
実際に人と対面させて観察し、生体組織の塊である人をどうするのか見れば良い。
使われたのもどうせ受刑者たちだろう。
近年ではごく普通となった受刑者たちの実験利用のひとつだ。
「当時のブッチャーたちは単なる興味で人を襲っていたようですね、何をするでもなくただ分解しています」
「そう、最低」
未知の物質について取れる行動はそんなものだろう。
外宇宙にて、無数の新物質を見つけた人間もそんなもんだった。
確保する方法を見つけるために受刑者を使い、その作用を調べるために受刑者を使い、時間経過による人体への悪影響を調べるために受刑者を使った。
ならブッチャーが調査のために人間を殺したって、同族すら実験材料にする人間には何も言えないのではないか。
そんなことを考えながら檻を眺めていたアスカに、ポラリスは続けて声を掛ける。
「ブッチャーに襲撃される以前に実験記録があります。 ユートピアの職員はブッチャーの存在と生体組織への興味を知りながらここに残ったようですね」
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