『R18』バッドエンドテラリウム

Arreis(アレイス)

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近未来スカベンジャーアスカ編

第22話 人間という種族

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 ポラリスが端末を調べ終え、事の顛末をアスカへと伝える。
 ブッチャーとの遭遇を果たしたのはゴールドラッシュへ降り立ってすぐの頃。
 その頃のブッチャーはとても大人しく、刃物なども持ちえないただの四輪駆動車のような姿だったという。
 金属資源豊富な地に生まれ天敵も居なかったためか警戒心も持たず、人間へと積極的に近づいて来ていた。
 その機械生命体に興味を持った人間は、その内の一匹を捕まえて解体したらしい。
 きっと罪悪感も無かったのだろう。
 映像に残しながら、部品のひとつまでも丁寧にそれを解体し、人間は知的好奇心を満たした。
 しかし、その行動がブッチャーをブッチャーたらしめてしまった。
 どういう訳か、解体された個体から人間の行動を学習したブッチャーは、そのまねをして人間を襲ったのだ。
 映像にあるドリルやのこぎりを再現し、人間の体を切り刻む。
 臓器を取り出し、血管の一本に至るまで丁寧に取り出した。
 理解の出来ない行動に直面した時、まねをしてしまうのはよくある話だ。
 しかし今回の場合は、それが最悪の結果を招いてしまった。

 「じゃあ、先に手を出した人間のせいって事?」
 「そうなりますね」
 「なんでそんな大事な事が報告されて……」

 アスカの脳裏にマーシャルの顔が浮かぶ。
 当時の支配人が、マーシャルのようなくそ野郎だったら。
 ブッチャーの危険性を無視し、開発と新資源を優先したのだとしたら。
 一介のスカベンジャーに殺害予告までしてくるようなマーシャルのような人間が、なぜ支配人の座に付けたのか。
 ここゴールドラッシュと、宇宙ステーションフォーティーナイナーズ。
 もしかすると、とても大きな何かに巻き込まれてしまったのかもしれない。
 アスカの背中を、冷たい感覚が襲った。
 
 「当時のステーションの支配人権限で言論統制が敷かれています。 その不安は大方当たりでしょう」
 
 ポラリスは青ざめたアスカの顔から心境を察し、答えを教えてくれた。
 その考えうる最悪の答えは、アスカをさらに震え上がらせる。
 それが本当なら、ブッチャーの調査などした所で救援は来ないだろう。
 星域を抜ける許可も当然下りないか、スペースデブリによる衝突事故が待っている。
 こうして調査するアスカたちを誰も手助けに来ないのは、このままブッチャーに捕まって欲しいという事か。
 先の見えない絶望感に襲われ、アスカは透明な壁に手を突くとがくっとうなだれてしまう。
 ここから脱出する手段は、あるのだろうか。

 「星域間通信しか方法はないでしょう。 星間通信程度の距離では傍受されるか妨害される可能性が高いです」
 「星域間通信って、そんな設備が残ってるの?」
 「管理区域中央の通信塔。 無事では無いでしょうが、修理が出来れば可能性はあります」
 
 端末へとケーブルを接続し、ポラリスは中の情報を集めている。
 集めた情報を読み上げるその涼しい声を、アスカは黙って聞いていた。
 どうやらこの端末は中枢のネットワークと接続されていたようで、ユートピアに関する情報が数多く手に入った。
 ブッチャー襲撃が起きた際のシミュレーションや、VIP用シャトルの配置図、その乗船券に関する入札記録など、目を覆いたくなるような裏の事情が並んでいる。
 莫大な資金を投入して作ったこのユートピアさえもカモフラージュであり、その真の目的はブッチャーの危険性を全宇宙に発信するためであった。
 資源豊富なゴールドラッシュに人が殺到するのを嫌い、危険な生物が居ると知らしめる事で後続を断つ。
 その間も極秘裏に資源の採掘を続け、その利益を独占しようという物だ。
 この作戦を考えたのは当時のステーション支配人。
 マーシャルとの記載があった。
 
 「あのくそ野郎、ずいぶん手の込んだことをしていますね」
 「同一人物、って事は無いんでしょ?」
 「可能性はありますよ。 当時でも肉体を捨てれば人格の保存は可能ですから」
 「AI化、ってやつね……」

 AIに自身の人格を記憶させ、再現させることで永遠の命を得ようという考えで、人格そのもののコピーや複製が出来るようになる以前に流行った概念だ。
 ほんの数十年の間だけ流行ったマイナーな物だが、当時の権力者は競うようにAI化を果たしていた。
 ゴールドラッシュを牛耳っていたのだから、それだけの力を持っていてもおかしくはない。
 ましてやアンドロイド技術の進んだ現代なら、アンドロイドの中にそのAIを入れてしまえば復活出来ると言っても過言ではない。
 何百年もの間生き続けるマーシャルの姿を想像してしまい、アスカは余計頭が痛くなってきた。
 
 「人格をAIが学習したとして、そのAIが自分であるとどうして言い切れるんでしょうね。 ベッドの上で冷たくなるのは紛れも無く肉体を持った自分だというのに」
 
 涼しいポラリスの声も、この時ばかりは背筋が凍り付くようだった。
 人間とは、自分とは何かという哲学を語るアンドロイド。
 遥か昔のSF作品そのものの光景が目の前で繰り広げられ、アスカはこの先の未来に恐怖を覚えていた。
 
 「……で、通信塔にはどうやって?」
 「この施設の奥が管理区域に繋がっています。 ブッチャーを秘密裏に運ぶための輸送路があるようで」
 
 ポラリスの目が小さく数回光ると、今までただの壁だった部分が横にスライドし、明かりに照らされた通路が姿を現した。
 一辺が三メートル程度の正方形の通路で、いかにも秘密といった見た目だ。
 秘密の施設へと宇宙人を運ぶ道が存在したとしたら、まさしくこんな見た目だろう。
 開かれた道をアスカは眺め、顔を上げると足を踏み出した。
 この先どうなるかわからないとしても、まだ可能性がある限りは足を止める訳にいかない。
 目が合うとポラリスはにっこりと笑顔を浮かべ、その後に続いて輸送路へと入った。
 
 輸送路は傷一つない白い壁と天井があるだけで何の面白みも無い。
 正面に見える同じく白の扉とロックを操作するための端末がある以外、見るべき所は何も無かった。
 ポラリスが言うには秘密の輸送路にも種類があり、ここはブッチャーの輸送用として作られた物だという。
 他にあるのは人間用と実験用で、それぞれ別の施設に繋がっているという。
 人間用という言葉を聞いて、アスカの脳内にはあの精液工場や人間牧場が浮かんでくる。
 この星で人間の養殖を始めたのは、本当にブッチャーたちなのだろうか。
 考えれば考えるほどこの星の裏側は暗く汚く、ゴールドラッシュという希望に満ちた名も皮肉のように思えてくる。
 庶民がどれだけ一獲千金を夢見ようと、その裏では大金持ちが想像できないような大金を稼いでいるものだ。
 この希望の星も例外では無く、外宇宙という無限の世界に出ながらも人間はしょせん人間だという事だろう。
 ここでの冒険をへて、アスカは人間という種族そのものが嫌いになりそうだった。
 そんな落ち込んだアスカの顔を見て、ポラリスはここぞとばかりに嬉しそうな顔をする。
 私はアンドロイドですが?
 そう幻聴が聞こえて来た。
 これは煽りでも何でもない、ポラリスにとっての誇りだろう。
 人間が人間である事を重視し誇りを持つように、意志あるアンドロイドであるポラリスもまたアンドロイドである自身を誇りに思っているのだ。
 アスカはふと魔が差して、ポラリスへと命令を送った。

 「ポラリス、マスター権限。 一番好きなエッチのシチュエーションを教えて」
 「マスター権限を認証しました。 愛してくれている人との愛のあるセックスが好きです」

 無表情のままそう答えたポラリスがはっとし、不満そうな顔をアスカに向ける。
 
 「アンドロイドも大変ね。 愛してあげましょうか?」
 「マスター権限の乱用は感心しません。 次はマス、まで聞いた時点でしゃべれなくなるまで犯すのでご覚悟を」
 
 ポラリスは左手で卑猥なジェスチャーをし、不満そうな顔のまま歩き続けた。
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