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異世界転生者マリー編
第31話 イモリ
しおりを挟む「シルバー!」
ミドリとバーミリオンが檻へと駆け出し中を覗く。
横たわったままのシルバーたちはぴくりとも動かない。
「離れろ」
バーミリオンはミドリを檻から遠ざけると、鉄格子を掴み渾身の力をこめる。
鉄の棒がミシミシと音を立てながらひしゃげていき、微かにだが隙間が出来た。
「ぐっ…… らぁっ!」
バーミリオンがさらに力をこめると、鉄の棒は根本を残して折れてしまった。
隙間はだいぶ大きくなり、マリーやミドリ程度であれば通り抜けられるほどになっている。
ミドリが素早く檻の中へと入りシルバーを抱き起こす。
心配そうに見つめるミドリの腕の中で、シルバーはゆっくりと目を開いた。
「ミドリ……」
「シルバー、大丈夫?」
シルバーの体に傷は無いものの、見るからに弱っている。
魔法によるものか毒によるものか。
どちらにせよ、傷を与えず体力だけを奪う類の物だろう。
他のふたりも同じような状況で、目を覚ましたものの元動けずにいた。
「背の高い、痩せた男にやられた。 斬り捨てたんだが、あいつは化け物だよ」
「フードを被ったローブの?」
ミドリが始末したあの男か。
化け物と言うほどの手応えは感じなかったが、シルバーたち三人は深刻な顔をしている。
「ああ、そいつだ。 斬られた断面が繋がって、何ともないって顔をされたよ。 血の代わりにスライムみたいな弾力のある液体が出てた」
シルバーたちは潜伏先として下水道を選んだのだが、そこでそのローブの男とばったり出くわしてしまった。
ローブの男はスライムを連れており、それをけしかけようとして来たのだ。
スライムはシアンの槍にあっさりとコアを貫かれ消滅したが、男へと斬りかかったシルバーを自らの断面から出る透明な触手でがっちりと捕まえていた。
マントを脱ぎ捨てて脱出しようとするシルバーに、急いで触手を払うシアン、警備が手薄になったのを確認し逃げ出そうとしたグリズリー。
三人がそれぞれ目的を果たそうと動き出したその時、男の口から霧が噴き出し意識を失ったのだ。
その時に見た生気のない青白い男の顔は、まるで死体のようだった。
「グリズリー、何か知ってんだろ?」
黙り込んでいたグリズリーへとシアンの冷たい視線が向けられる。
スライムの核へと槍を突き出したその瞬間、グリズリーがにやりと笑ったのを見逃さなかった。
逃げ出すまでの時間に関しても、あれは何かが起こるとわかっている者の動きだ。
黙ったままのグリズリーの胸ぐらをシアンが掴む。
それでもなお黙り続けるグリズリーの額へと、ミドリの矢が向けられた。
「……ニュート。 元々は俺たち人狩りの一員のイモリ野郎さ」
やはり知った顔のようだ。
ようやく諦めてやれやれと口を開いたグリズリーは、見るからに嫌そうな顔をしている話を続けた。
「魔物の研究が趣味の変態で、捕まえた奴隷を魔物の餌やら苗床にするクソ野郎だよ。 城で雇われたとは聞いたが、まさか俺ごと襲うとはな」
「やつの能力は?」
シルバーは真剣な顔でグリズリーに尋ねた。
グリズリーがふっと鼻で笑うと、頬をミドリの矢が掠めていった。
「話して」
「わざと挑発したんだが、お嬢ちゃんがたの隙を作るのは無理そうだ。 わかった、話すからその物騒な物をどけてくれよ」
ミドリの矢が放たれたタイミングでシルバーを捕らえ、人質にしてここから脱出する。
グリズリーはそう目論んだが、ミドリの矢が掠めていくと同時にマリーが剣を抜きグリズリーの首元へと据えていた。
シルバーの体へと伸ばした手を制したその動きは、もはやグリズリーをもってしてもその起こりすら見えなかった。
マリーは無言のまま、殺気立った表情をグリズリーへと向けている。
グリズリーの顔を見るとあの戦場や洞窟での出来事が蘇り、冷静で居られなくなる。
もしバイオレットの身に何かあったなら、間違いなくこの首をはねていただろう。
「良い殺気だ。 殺気を立てる時点で素人だが、それならきっと簡単に殺せるぜ」
挑発的な目をするグリズリー。
マリーの手に力がこもる。
「マリー、剣を納めてくれないか。 今はニュートの事を聞いておきたい」
間に割って入ったシルバーの冷静な顔を見て、マリーはゆっくりと剣を納める。
殺気のこもった冷たい視線が和らぐと、マリーはくるりと背中を向けて檻を出た。
あの顔を見ていると何をしでかすかわからない。
怒りと共にふつふつと暗い感情が湧き上がり、ついその衝動に身を任せてしまいたくなる。
あれだけ抵抗があった人を殺すという事が、こんなに魅力的に思えるなんて。
マリーは頭を冷やすため、一団から少し距離を取った。
「残念だが俺が知るのはそこまでだ、俺とはチームが違うしやつは研究担当。 数回顔を合わせた程度だよ」
「本当だろうな?」
シアンの疑問の目が向けられたが、グリズリーはそれっきり黙り込んでしまった。
ろくな手掛かりが得られなかったが、とにかくニュートが普通でない事は確かだ。
処理したと思っていたミドリにも、果たして本当に処理出来たのかと疑問が生まれる。
不穏な空気が流れる中、マリーがシルバーの剣とシアンの槍を手に現れた。
「その辺りを歩いてたらこれが」
飾りっ気の無い長剣と、無駄を削ぎ落とした鋭い槍がふたりの手に戻る。
ふたりは入念にそれらを確認すると、嬉しそうな顔でマリーへと礼を言った。
武器を取り戻し、一行は地下を進む。
バベルの下水道へと続く道は薄暗く、謎の熱と湿度に満ちている。
避難道を彷彿とさせるその熱気に、マリーたちは不安を覚えた。
しかし、今回の目的地は城内だ。
熱気から離れ、綺麗な水が流れる方へと進んでいく。
無駄な戦闘や接触を避けるためにも、何とか地下経由で城の中枢へとたどり着きたい。
いくつもの似たような道を通り抜け、一行はようやく目的としていた場所へとたどり着いた。
大浴場へと繋がる太い排水管だ。
バベルの王は入浴が趣味であり、その城内には趣向を凝らした大浴場があると調べがついていた。
そしてシルバーの思惑通り、その排水管は他よりも数段大きく、通り抜けられるだけの幅がある。
作戦決行を今日にしたのにもそこに理由があり、今日は数日に一度の風呂掃除の日であった。
これに関しては買収した内通者から得た情報であり確信が無かったが、どうやら情報は本当だったらしく水は止まっている。
これから大浴場へと侵入するにあたって、シルバーはその手順をみなへ伝えた。
「まず、ミドリに斥候を頼みたい。 気配を殺して侵入し、もし続けそうなら合図をくれ。 次はシアンとマリー、実力行使が必要ならお願いしたい。 で、最後が僕とバーミリオンだ」
お互いの顔を見合わせて頷くと、ミドリがまず排水管へと入っていく。
ぬるぬるとした地面は良く滑り、気をつけていなければ転んでしまいそうだ。
その背中を見送りながら、マリーは小さく息を吐いた。
ここからいよいよ本格的な作戦が始まる。
その緊張と不安で落ち着かない。
深呼吸を繰り返し何とか気を落ち着けていると、突然、後方からバチャンという水音が響いた。
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