『R18』バッドエンドテラリウム

Arreis(アレイス)

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近未来スカベンジャーアスカ編

第32話 地獄

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 破壊されたのは通信塔の周りだけらしく、このあたりは綺麗なものだ。
 相変わらず窓も無い無機質な施設群が並んではいるが、穴や瓦礫が無い分だいぶマシに見える。
 待ち構えるようにして二人を出迎えたブッチャーも、あの群れを見た後ではインパクトに欠けていた。
 
 「アスカ、そのライフルの仕様についてはご存じで?」
 「え? ただ撃てばいいだけじゃないの?」
 「仕方のない人ですね、とりあえず撃たずに見ててください」

 アスカは銃を下ろし、静かにポラリスの様子を見る。
 ポラリスはランチャーを背中に回すと、ブッチャーの方へと駆け寄った。
 人型をしたブッチャーはポラリスより少し背の高い人型をしており、むき出しの筋肉が収縮と弛緩を繰り返していた。
 一眼レンズのカメラのような頭や人を模した構造の体は機械そのものであり、四肢だけを筋肉で補強したその姿は戦闘用の個体である事を表している。
 四肢から伸びる小型のチェーンソーが回転し、ギャリギャリと嫌な音を立てていた。
 その数六体。
 近づいて来たポラリスを取り囲もうと、一斉に集まって来ている。
 次の瞬間、ポラリス目掛けて振り下ろされたブッチャーの右腕が破壊された。
 頭目掛けて振り下ろすその速度より速く懐へと入ったポラリスは、その腕を脇に抱えると同時に下からの掌底で肘を破壊していた。
 そのまま体を回転させ、取れた右腕をそのままブッチャーの体へと叩きこむ。
 動きを停止したチェーンソーがブッチャーの体に深々と突き刺さると、ポラリスはそのまま力任せに上へと切り裂いた。
 動いていないチェーンソーを右腕一本で扱っているというのに、ブッチャーの体は胴体から頭の先まで二つに裂け、そのまま動作を停止する。
 ガリガリという金属同士が擦れるけたたましい音は、アスカに鳥肌を立たせた。
 ポラリスはそのまま動かなくなったブッチャーへと前蹴りを食らわせ、その後ろから迫って来ていた二体のブッチャーへと衝突させる。
 まるで交通事故のような音がして、二体からそれぞれ右腕と左腕を奪い去った。
 続けざま、振り向きもせず身を屈め後ろに一歩飛び退くと、ポラリスはまるで姿が消えたかのようにブッチャーの足元をすり抜ける。
 すり抜けざま放った足払いがブッチャーの軸足を折り、ブッチャーは地面にチェーンソーを突き立てたまま動けなくなる。
 すでに立ち上がっていたポラリスの足が斜めに振り下ろされ、ブッチャーは腰の部分で上半身と下半身に分断されてしまった。
 両腕を地面に突き刺したままもがくブッチャーはまるでオブジェのようだったが、ポラリスはその両肩を掴むと、そのまま難なく胴体から引きちぎった。
 刺さったチェーンソーを引き抜いて、左右から同時に襲い掛かるブッチャーへと投げつける。
 突然の攻撃を咄嗟に躱したブッチャーの頭は、次の瞬間地面へと突き刺さっていた。
 横に飛び退き、片足になったブッチャーの足を払いながら、下がって来た頭を脇に抱えてのDDT。
 頭部を地面にぶつけると同時にその首をへし折った。
 そのまま両足を脇に抱えると、反対側から迫って来ていたブッチャーへとぶん投げる。
 一周半分の遠心力を付けたブッチャーの体はものすごい音を立てて衝突し、二体ともバラバラになってしまった。
 片腕ずつを失った二体のブッチャーがようやくポラリスの下へと到着するが、もはや敵うはずも無い。
 ポラリスは事も無さげに腕を引きちぎり、それぞれの体へと突き刺し両断した。

 「良い調子です。 ついテンションが上がってプロレス技など繰り出してしまいました」
 
 ポラリスの頬は心なしか紅潮している。
 その表情も嬉しそうで、遊び終わった後のように満足げだ。
 アスカは、ただ唖然とその光景を見ていた。
 
 「ねぇポラリス、それで戦闘用じゃないってほんと?」
 「それはもう。 もし戦闘用ボディならあの大型ブッチャーですら片手で殺れます」
 
 自慢気にそう話すポラリスだが、片手で殺れるかどうかの差であって、もうすでに大型ブッチャーを素手で倒す事は可能なのだろう。
 ふんふんと鼻歌交じりに歩くポラリスが、だんだん怖くなってきてしまった。
 
 ブッチャーの残骸を横目に、ふたりは酸素発生装置を管理する管理施設を目指す。
 地下に比べれば地上は快適なもので、進む速度も段違いだ。
 道中何度か目にしたブッチャーも、瞬く間にポラリスが倒してしまった。
 そうして難なく空気の管理施設へと到着したふたりは、ここに来て初めての事態と遭遇していた。
 
 「施設内から話し声がします」
 「人が居るの?」

 各種センサー類が切れていてもポラリスの聴覚は鋭く、分厚い壁の向こうの声が聞こえていた。
 その話し声から推測するに、中に居るのは男三人。
 内容からして、マーシャルの手の者だ。

 「はい、どうやらマーシャルの命令で施設を孤立させに来たようです。 突撃します」

 言い終わるや否や、ポラリスは施設内へと飛び込んだ。
 数回の銃声の後、静寂が訪れる。
 施設から出て来たポラリスは血に濡れていた。
 
 「大丈夫!?」
 「ええ、全て返り血です。 汚いので近づかないように」
 
 ポラリスは律儀にも清浄装置を取り出すと、体に付いた血を落としていく。
 ポラリスの言う通り体のどこにも傷は無く、服すら破れていなかった。
 
 「死体が三体転がっていますが片付けましょうか?」
 「大丈夫、それより急ごう」

 ポラリスの申し出を断って、アスカは施設の中へと入って行く。
 そこには、首が不自然な方向に曲がった死体が三体並んでいた。
 ポラリスは通常時、相手の急所をなるべく最短で破壊するように設定されている。
 人間に対する戦闘がその最たるもので、素手により最も破壊しやすい弱点である首を狙うのだ。
 今回の場合は、一番近くに居た男を殺しつつ盾にして他の対象へと近づき、スピードと力に任せて首を折るだけの簡単な処理だった。
 ポラリスが味方で良かったと、アスカは心底感じていた。

 ネットワークからの切断処理をキャンセルし、管理ネットワークを辿って星全体の気体発生装置を掌握する。
 酸素、二酸化炭素、窒素、その他。
 人間が生存可能な構成は維持しつつ、二酸化炭素の量を増やして意図的に温室を作り出す。
 周辺の星々の光を集めて太陽光を再現している集光板の角度を変えてやり、地表に届く光と熱を増大させる。
 これで徐々にではあるが、ゴールドラッシュ全体の気温が上がっていくだろう。
 目的を達成し、ふたりはひとまず安堵の息を漏らした。
 しかし安心したのも束の間、端末にエラー表示が現れる。
 突然、集光板がオフラインになったのだ。
 
 「何があったの?」
 
 ポラリスは嫌な予感がし、急いで施設の外に出る。
 空を見上げると、ユートピアの外は暗闇に包まれていた。

 「集光板が物理的に破壊されました。 ユートピアの外は暗闇に閉ざされ、極寒の地と化すでしょう」

 まさかマーシャルにそこまでの覚悟があったとは。
 ゴールドラッシュとブッチャーに固執したマーシャルが、まさか全てを捨てるような選択をするとはポラリスは思っていなかった。
 元々、ほとんど光や熱の届かないゴールドラッシュは全てが凍る地獄のような環境であり、ブッチャーのような機械生命体以外は生きられないような星だった。
 それを改善したのが集光板なのだが、どうやらマーシャルはこの星を地獄に戻してまでも自らの保身を選んだらしい。
 大気の層がある分すぐに地獄へと変わる訳では無いが、それでも急がなければユートピアの中に閉じ込められてしまう。
 もはや救助を待つ時間も無ければ、飛び立つのを躊躇っている時間も無い。
 ポラリスはアスカを抱きかかえると、クレイドルを呼びながらユートピアの出口へと走った。

 ポラリスの腕の中で、外の景色が目まぐるしく変わっていく。
 管理区域、工場地帯、教育施設群、食料品店街と、ポラリスの選択した安全なルートでふたりはユートピアの出口までたどり着く。
 しかしセンサー類と通信機能をフル稼働した代償は大きく、ふたりを中心としてブッチャーの群れが取り囲み、遠くの方からはいくつものスペースシップの反応が近づいている。
 出口から素直に脱出するのは不可能だろう。
 ポラリスは最後の賭けとして、下水へと繋がるマンホールを下りて行った。
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