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4章: 再来
王の固辞
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「なぜ何もおっしゃらないのですか? お父様」
「セルマよ。ラキエをグラウツ国軍に戻すことはできぬ」
「そんな! ラキエ姉様の無実は証明されたのですよ!」
「そうだとしても、ラキエの追放はエレベナウス二号勅令によって確定されておる。発せられた勅令を取り消すのは、王権にさえ認められておらぬ」
グラウツ国王は突き放すように言った。国の秩序を曲げてはならない立場はセルマも理解しているが、今回ばかりは引き下がれなかった。
「お父様はラキエ姉様のことを愛していらっしゃったのではないですか!」
「王女のお前が国政に口を挟むではない!」
「・・・・・・私、お父様には失望しましたわ。今のお父様は民も我が子も誰一人として守るおつもりはないのですね。ただご自分の、体裁だけを守りたいのではありませんか?」
「セルマ王女、お言葉が――」
「お父様がラキエ姉様を見捨てたのは、本当は自分の意志に真っ直ぐなラキエ姉様に嫉妬されていらしたからでしょう? だから――」
「黙れ! 苦労知らずの小娘に何がわかるものか!!」
グラウツ国王は激昂し、手にした杖を床に大きく叩きつけた。杖は真っ二つに折れ、片方がセルマの足元に転がった。その上にセルマの頬から流れ出た涙が降る。
「わかっていますもの。私、自分に何も出来ないことくらい――でもそれが、どんなに私の心を苦しめてきたのか――何もわかっていらっしゃらないのは、お父様の方ですわ!」
セルマは叫ぶと同時に、ドレスの裾を高く捲り上げて部屋を出て行った。はしたないと諫める侍女達に目もくれず、絨毯や階段に何度も転びそうになりながらも自室に入ったセルマは誰一人として部屋に入ることを許さなかった。
「どうして、どうして皆、ラキエ姉様のことを嫌いになるの? このままじゃラキエ姉様があまりに可哀そうじゃない」
鍵を掛けたセルマは天蓋付きベッドに倒れ込み、嗚咽の声は止まなかった。抱きしめた枕だけが、彼女の心情を汲み取るように涙をいつまでも受け止め続けていた。
「セルマよ。ラキエをグラウツ国軍に戻すことはできぬ」
「そんな! ラキエ姉様の無実は証明されたのですよ!」
「そうだとしても、ラキエの追放はエレベナウス二号勅令によって確定されておる。発せられた勅令を取り消すのは、王権にさえ認められておらぬ」
グラウツ国王は突き放すように言った。国の秩序を曲げてはならない立場はセルマも理解しているが、今回ばかりは引き下がれなかった。
「お父様はラキエ姉様のことを愛していらっしゃったのではないですか!」
「王女のお前が国政に口を挟むではない!」
「・・・・・・私、お父様には失望しましたわ。今のお父様は民も我が子も誰一人として守るおつもりはないのですね。ただご自分の、体裁だけを守りたいのではありませんか?」
「セルマ王女、お言葉が――」
「お父様がラキエ姉様を見捨てたのは、本当は自分の意志に真っ直ぐなラキエ姉様に嫉妬されていらしたからでしょう? だから――」
「黙れ! 苦労知らずの小娘に何がわかるものか!!」
グラウツ国王は激昂し、手にした杖を床に大きく叩きつけた。杖は真っ二つに折れ、片方がセルマの足元に転がった。その上にセルマの頬から流れ出た涙が降る。
「わかっていますもの。私、自分に何も出来ないことくらい――でもそれが、どんなに私の心を苦しめてきたのか――何もわかっていらっしゃらないのは、お父様の方ですわ!」
セルマは叫ぶと同時に、ドレスの裾を高く捲り上げて部屋を出て行った。はしたないと諫める侍女達に目もくれず、絨毯や階段に何度も転びそうになりながらも自室に入ったセルマは誰一人として部屋に入ることを許さなかった。
「どうして、どうして皆、ラキエ姉様のことを嫌いになるの? このままじゃラキエ姉様があまりに可哀そうじゃない」
鍵を掛けたセルマは天蓋付きベッドに倒れ込み、嗚咽の声は止まなかった。抱きしめた枕だけが、彼女の心情を汲み取るように涙をいつまでも受け止め続けていた。
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