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FILE0: 女人禁制
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しおりを挟む本物の恐怖に駆り立てられた人間に起こる衝動、それは性欲である。
――Yearn Moo語録
その動画は雲一つない蒼穹を映し出していた。
「せいの、ジャアンプ!!」
明るい掛け声とともに、俊敏な影が画面を駆け抜ける。
そうして起こされたカメラの中に、女子高の制服姿が映り込んだ。
小さなレンズに向けて、彼女は小ぶりに手を振りながら愛想よく微笑む。
「やっはー、スズナだよ~! 今日はここ、東京M区の公園に遊びに来ちゃいました。見て下さい。小学校の時に遊んだ遊具がこんなに並んでいます!」
陽気にはしゃぐ彼女はそうして、ジャングルジムと呼ばれる鉄骨の立方体の山を目指した。
「わ~い! 上っちゃお!」
もちろんカメラを抱えたまま上るわけにはいかないので、ひとまず地面に置くのは自然だ。
だが、そのアングルが自然ではなかった。
そこはいわば彼女の足元。
当然、ミニスカート姿の彼女を上から見上げる格好になる。
それがどういうことかは本人ももちろん計算してのこと。
ついでに言えば、インターネットの向こう側から彼女を見守る幾千の目も、それを期待していた。
『ご馳走さんです! スズナさん!』
『水玉・・・・・・萌え』
『セクシィ、ショットォ!!』
途端に勢いを増すコメントとハートマーク。
その痛快な反響に満足感を憶えながらも、彼女は心中で呟いていた。
(うわっ、キモ・・・・・・)
ただ、そんな言葉を口に出しては向こうも興ざめするだろうから、こんな時に取るリアクションと言えば一つしかない。
「見て下さい、すごくいい眺めですよぉ!!・・・・・・って、もう、私じゃなくて景色の方を見て下さいよぉ」
軽く軽蔑しながらも、話題を反らす。
こうした話術によって、彼女は今や、数千人の主に男性ネットユーザー達を虜にしてきた。
「もう少し上を目指そうかな。よいしょっと」
だが正念場はここからだ。
今時パンツを見せたくらいで満足するほど、この業界も甘くはない。
わざとらしく足を上げ、ジャングルジムの鉄骨を跨ぐが、中々乗り越えようとはしない。
そう、あえて鉄骨を股に挟み込む瞬間を強調するのが目的だった。
「ん、んん・・・・・・あ。気持ちいい」
少しばかり顔を赤らめ、小さな呻き声を漏らす。
それが何を意味するかは見る人が見ればわかることだろう。
スズナこと、柏原鈴奈とは、そうした色気を武器に流行の激しいSNSの人気合戦を生き残る動画配信者の一人であった。
そんな彼女があと数日で、二度と思い出したくもない経験をするなど、この時は考えてもいなかっただろう。
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