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1章: 学院内権力組織

絶体絶命

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 ティラの自信満々な顔とも、炎のきらめきとも対照的にシュロムは冷静に構えていた。
 集まりつつある炎の竜巻はシュロムを中心に互いに絡み合い、やがて一本の巨木のように膨れ上がった。
 熱せられた空気と雪のごとく降り積もる火の粉が周囲の視界を悪くする。
 遠く離れた古木さえもがいつしか燃えていた。
「どうですか! いくら真空の壁でも、伝わる熱気までは防ぎきれないのです! きっと中で焼け焦げているはずなのです!」
「そうだろうな。中にいれば、の話だが」
 シュロムの声に、ティラは背後を顧みる。
 炎の竜巻に呑み込まれたはずの彼が確かにそこにいた。ティラは唇をかみしめる。
「なぜ? 閉じ込めた瞬間を、確かに見たのに!!」
「言っただろ。俺とお前の間には目に見えない壁があったと」
「壁? でも確かにあなたはあそこに立っていたのです!」
「お前は本当に、壁の向こうを見たのか?」
「ど、どういうことなのです? 真空の壁越しに私は確かにあなたを見たのに」
 いつまで経ってもティラは理解しそうにないので、不本意ではあるがシュロムは種明かしをすることにした。
「確かに俺とお前の間には壁があると言った。だが俺は、真空の壁とは言っていない」
 ティラとシュロムの間を隔てていたのは真空の壁だけではなかった。その背後には逆に、高密度の空気の壁があったのだ。
 この高密度の空気の壁があることで、ティラから見たシュロムの位置は本来の位置から若干ずれる。密度の極端に異なる空気の層を隔てることで、光の進む方角がずれるためだ。自然現象で屈折と呼ばれるものだ。実際のところ屈折自体はごくわずかな偏移だが、シュロムはこの壁を連続配置することでティラの背後からあたかも自分が正反対に立っているように錯覚させていた。
「な、何なのですか? あなたは・・・・・・」
 ティラは驚愕しながら地面に突き立てた斧の柄を握った。
「この化け物!」
「おい! それはさすがに反則だろ!!」
「うるさい! 私が負けるわけにはいかないんだから! この! この!」
「あ! お前今マジで頭狙いやがったな! 殺す気か!」
 半狂乱になったティラはしつこくシュロムめがけて斧を振り回す。
 いかに女子とはいえ、剣の達人でもないシュロムにとって、片手剣一本で渡り合うのは心許ない。
「審判! 勝負はもう、ついているでしょ!」
「・・・・・・ですが、ルールでは一方が戦闘不能になるまでと」
「コイツの魔法はどうやったって俺には聞かないと証明されたはずですが! これ以上、無益な戦いを続けるつもりですか?」
「それでは勝敗理由になりません。規則がそうなっておりますので」
「だったら逆に、どうなったら戦闘不能になるのか教えてくれ」
「少なくとも相手が失神、または運動機能を喪失した状態です」
「失神か・・・・・・」
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