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序章: 落ちこぼれた逸材
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頭を抜いた時の反動は相当なものだったらしく、ドラゴンはそのまま背中から洞窟内を転げた。
腹を上に見せたその瞬間こそ、イシルの狙ったチャンスだった。
「これで、終わりだ!!」
今度は天井に至るまで高く飛び、身を翻して今度は天井を蹴り返してドラゴンの真上から急降下する。
同時に突き立てた剣が、ドラゴンの腹を深くつんざいた。
痛々しい悲鳴を上げたドラゴンの眼から生気が消え、短い手足が力を失って四方に倒れた。
仰向けになる何とも無様な格好が、そのドラゴンにとっての最期だった。
「結局、終わったな」
ドラゴンと同時に、イシルは自らの命運についても終わりを知った。
既に試験の制限時間は過ぎ、ドラゴンの情報を聞きつけた学院の教員達が彼の前に立ち尽くしていた。
イシルの合否判定については、学院側で三日ほど議論が続いた。
与えられた課題を制限時間内に達成できなかったとはいえ、冒険者でさえてこずるドラゴンを一人で屠ったのだ。
彼を冒険者にするべきか、学院内の有力者たちは真っ二つに割れた。
そんな学院で議論が交わされている頃、ただ処遇を待つことしかできないイシルは校庭の湖畔で待ち合わせをしていた。
「あの・・・・・・」
黙って水面を眺める彼に恐る恐る近づく気配がある。
それは試験当日、彼がドラゴンから庇った女子学生だった。
「足の怪我は?」
「え? もうすっかり良くなりました」
「試験は? 間に合ったの?」
「はい・・・・・・それで」
女子学生は言い出しにくそうにまごついていたが、申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すいませんでした!」
「君が謝ることじゃない。ドラゴンとの遭遇は誰にとっても想定外だったし、僕もさっさとあしらって逃げるべきだった」
「でも、それだけじゃありません。最初にモンスターが出てきた時、私なんか気絶しちゃって。あの時戦っていれば、ハルス君だって逃げずに済んで、そもそもあのドラゴンとだって・・・・・・」
「あの時こうすれば、なんて考えるのはよそうよ」
「何で?」
「確かに結果的に、ドラゴンとの戦闘は避けられず僕は試験に時間切れになった。でもあの時何か一つでも違えば、全てが良い方向に進んでいたとは思えない。最悪、メンバーの誰かが欠けたり、みんな揃って時間切れだった可能性だってあったんだ。僕は、他の皆が無事に戻れただけでもよかったと思っている」
「そうかもしれませんが・・・・・・」
「それに、試験は来年でも受けられる。今年はアクシデント続きだったけど、僕の実力なら来年も何とかなるさ」
卒業試験落第になった場合、冒険者学院では留年扱いになる。二年連続の留年は退学処分だが、イシルには今度こそ合格できる資質と意思がある。
「イシル、ルドフリート君ですね?」
そこへ、見慣れない役人風の男がイシル達に近づいた。
学院の教員ではないが、身なりからして王国直属の位の高い官僚だろう。
ドラゴンを倒すというのは国中が騒ぐほどの一大事だから、イシルに関する議論はどうやら王宮さえ巻き込んでいるらしい。
「君に、卒業試験の合否判定を伝えに来ました」
役人は仰々しく金箔で縁取りされた羊皮紙を筒から取り出して広げた。
本来ならば王直々の勅命、そうでなければ外国と条約を締結する文書に使われる上質な書面である。
「イシル=ルドフリート、貴殿の活躍と冒険者養成学院の運営理念を鑑みて十分に検討した結果、今期の卒業試験において、貴殿を不合格処分とすることを決定した」
腹を上に見せたその瞬間こそ、イシルの狙ったチャンスだった。
「これで、終わりだ!!」
今度は天井に至るまで高く飛び、身を翻して今度は天井を蹴り返してドラゴンの真上から急降下する。
同時に突き立てた剣が、ドラゴンの腹を深くつんざいた。
痛々しい悲鳴を上げたドラゴンの眼から生気が消え、短い手足が力を失って四方に倒れた。
仰向けになる何とも無様な格好が、そのドラゴンにとっての最期だった。
「結局、終わったな」
ドラゴンと同時に、イシルは自らの命運についても終わりを知った。
既に試験の制限時間は過ぎ、ドラゴンの情報を聞きつけた学院の教員達が彼の前に立ち尽くしていた。
イシルの合否判定については、学院側で三日ほど議論が続いた。
与えられた課題を制限時間内に達成できなかったとはいえ、冒険者でさえてこずるドラゴンを一人で屠ったのだ。
彼を冒険者にするべきか、学院内の有力者たちは真っ二つに割れた。
そんな学院で議論が交わされている頃、ただ処遇を待つことしかできないイシルは校庭の湖畔で待ち合わせをしていた。
「あの・・・・・・」
黙って水面を眺める彼に恐る恐る近づく気配がある。
それは試験当日、彼がドラゴンから庇った女子学生だった。
「足の怪我は?」
「え? もうすっかり良くなりました」
「試験は? 間に合ったの?」
「はい・・・・・・それで」
女子学生は言い出しにくそうにまごついていたが、申し訳なさそうに頭を下げた。
「す、すいませんでした!」
「君が謝ることじゃない。ドラゴンとの遭遇は誰にとっても想定外だったし、僕もさっさとあしらって逃げるべきだった」
「でも、それだけじゃありません。最初にモンスターが出てきた時、私なんか気絶しちゃって。あの時戦っていれば、ハルス君だって逃げずに済んで、そもそもあのドラゴンとだって・・・・・・」
「あの時こうすれば、なんて考えるのはよそうよ」
「何で?」
「確かに結果的に、ドラゴンとの戦闘は避けられず僕は試験に時間切れになった。でもあの時何か一つでも違えば、全てが良い方向に進んでいたとは思えない。最悪、メンバーの誰かが欠けたり、みんな揃って時間切れだった可能性だってあったんだ。僕は、他の皆が無事に戻れただけでもよかったと思っている」
「そうかもしれませんが・・・・・・」
「それに、試験は来年でも受けられる。今年はアクシデント続きだったけど、僕の実力なら来年も何とかなるさ」
卒業試験落第になった場合、冒険者学院では留年扱いになる。二年連続の留年は退学処分だが、イシルには今度こそ合格できる資質と意思がある。
「イシル、ルドフリート君ですね?」
そこへ、見慣れない役人風の男がイシル達に近づいた。
学院の教員ではないが、身なりからして王国直属の位の高い官僚だろう。
ドラゴンを倒すというのは国中が騒ぐほどの一大事だから、イシルに関する議論はどうやら王宮さえ巻き込んでいるらしい。
「君に、卒業試験の合否判定を伝えに来ました」
役人は仰々しく金箔で縁取りされた羊皮紙を筒から取り出して広げた。
本来ならば王直々の勅命、そうでなければ外国と条約を締結する文書に使われる上質な書面である。
「イシル=ルドフリート、貴殿の活躍と冒険者養成学院の運営理念を鑑みて十分に検討した結果、今期の卒業試験において、貴殿を不合格処分とすることを決定した」
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