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2章: 騎士団長の娘
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特別授業の教室は、学院が保有する攻略済みのダンジョン跡地だ。
今となっては宝物もモンスターも冒険者達によって狩り尽くされ、本当にただの岩窟の迷宮となっているが、経路探索やトラップの回避といったノウハウを若者に教えるには格好の練習場所である。
そのはずのダンジョンに最近迷い込んだモンスターを討伐する。
アシェリー達には特別授業の表向きの内容として、学院からそう知らされていた。
「もう、何で私達がこんな場所に潜らなきゃならないのよ」
「私、今日買い物行こうと思ったのに~」
「でもさ、モンスターって、どんな奴なんだろうね?」
「どうせこんな所に逃げ込んでくるのだから小者でしょ? コウモリとかネズミみたいな?」
「そっかぁ、じゃあ楽勝だね~」
「二人とも、油断は禁物ですのよ」
アシェリーの傍を歩く例の金髪ブロンドが楽観的になっている二人を窘めた。
「・・・・・・すいません。調子に乗りました」
「ま、アシェリー様が付いておられるのだからご心配には及びませんがね。ね、アシェリー様!」
「え、あ? 私?」
「もう、アシェリー様まで、しっかりなさって下さいよ」
冗談ぽく背中を小突いて耳元に顔を近づける。
「ご、ごめんなさい」
(本当に、こっちが迷惑被っているんだからね)
金髪の女は妖艶な唇でそう囁いた気がした。
彼女達のやり取りを、イシルは気配を消してしっかり観察している。
「やっぱり、このメンツで正解だったな」
イシルは確信した。
アシェリーが迷いながらも学院の退学をためらっている様子。
取り巻きの一人であるあの金髪のブロンド女との微妙な距離感。
冒険者になれば家元から勘当されたかもしれない特殊な家柄。
彼女ばかりを贔屓にしているわけではないが、イシルはその後もアシェリー=グランフェルトという学生の周囲を綿密に調査した。
今、徐々に明かされる彼女の周囲の人間関係が、イシルの立てるとある仮説を裏付けている。
もしそれが本当だとしたら、少なくともこの中に一人、清純なセレヴィス冒険者学院においてその存在を許されない者がいる。
「あれ~?」
「どうなさいましたの?」
四人の足取りが不意に止まった。
「道が二手に分かれているみたいですけど?」
そこはYの字の岐路で、見渡す限りどちらへ進めばよいか見当はつかない。
かと言って、四人で一つの道を進むのはあまりに効率が悪いのは承知のはずだ。
「し、仕方ありませんね。二手に別れましょうか。メルとオルファは左に、私とアシェリー様は右でよろしいですね?」
「え、えぇ・・・・・・」
アシェリーは気圧されるままに頷く。
「待って、二人とも。これを持っていきなさい」
アシェリーは別行動する二人を呼び止めて、何やら石のようなものを手渡した。
「これは何ですか?」
「簡単ではありますが、離れた相手同士で連絡を取り合うための魔道具の一種です。身の危険を感じた時は、これを強く握りしめて下さい。そうすれば私達の持つ片割れが光って、駆けつけることができます」
「あ、ありがとうございます!」
感慨深げな三人のやり取りを、金髪のブロンドはつまらなそうに見つめていた。
「もう行きますわよ。こんなミッション、さっさと終わらせましょう」
――ありがとよ、金髪女。こっちの誘いにまんまと乗ってくれて
イシルはこの時だけ、金髪ブロンドの傲慢さに感謝した。
今となっては宝物もモンスターも冒険者達によって狩り尽くされ、本当にただの岩窟の迷宮となっているが、経路探索やトラップの回避といったノウハウを若者に教えるには格好の練習場所である。
そのはずのダンジョンに最近迷い込んだモンスターを討伐する。
アシェリー達には特別授業の表向きの内容として、学院からそう知らされていた。
「もう、何で私達がこんな場所に潜らなきゃならないのよ」
「私、今日買い物行こうと思ったのに~」
「でもさ、モンスターって、どんな奴なんだろうね?」
「どうせこんな所に逃げ込んでくるのだから小者でしょ? コウモリとかネズミみたいな?」
「そっかぁ、じゃあ楽勝だね~」
「二人とも、油断は禁物ですのよ」
アシェリーの傍を歩く例の金髪ブロンドが楽観的になっている二人を窘めた。
「・・・・・・すいません。調子に乗りました」
「ま、アシェリー様が付いておられるのだからご心配には及びませんがね。ね、アシェリー様!」
「え、あ? 私?」
「もう、アシェリー様まで、しっかりなさって下さいよ」
冗談ぽく背中を小突いて耳元に顔を近づける。
「ご、ごめんなさい」
(本当に、こっちが迷惑被っているんだからね)
金髪の女は妖艶な唇でそう囁いた気がした。
彼女達のやり取りを、イシルは気配を消してしっかり観察している。
「やっぱり、このメンツで正解だったな」
イシルは確信した。
アシェリーが迷いながらも学院の退学をためらっている様子。
取り巻きの一人であるあの金髪のブロンド女との微妙な距離感。
冒険者になれば家元から勘当されたかもしれない特殊な家柄。
彼女ばかりを贔屓にしているわけではないが、イシルはその後もアシェリー=グランフェルトという学生の周囲を綿密に調査した。
今、徐々に明かされる彼女の周囲の人間関係が、イシルの立てるとある仮説を裏付けている。
もしそれが本当だとしたら、少なくともこの中に一人、清純なセレヴィス冒険者学院においてその存在を許されない者がいる。
「あれ~?」
「どうなさいましたの?」
四人の足取りが不意に止まった。
「道が二手に分かれているみたいですけど?」
そこはYの字の岐路で、見渡す限りどちらへ進めばよいか見当はつかない。
かと言って、四人で一つの道を進むのはあまりに効率が悪いのは承知のはずだ。
「し、仕方ありませんね。二手に別れましょうか。メルとオルファは左に、私とアシェリー様は右でよろしいですね?」
「え、えぇ・・・・・・」
アシェリーは気圧されるままに頷く。
「待って、二人とも。これを持っていきなさい」
アシェリーは別行動する二人を呼び止めて、何やら石のようなものを手渡した。
「これは何ですか?」
「簡単ではありますが、離れた相手同士で連絡を取り合うための魔道具の一種です。身の危険を感じた時は、これを強く握りしめて下さい。そうすれば私達の持つ片割れが光って、駆けつけることができます」
「あ、ありがとうございます!」
感慨深げな三人のやり取りを、金髪のブロンドはつまらなそうに見つめていた。
「もう行きますわよ。こんなミッション、さっさと終わらせましょう」
――ありがとよ、金髪女。こっちの誘いにまんまと乗ってくれて
イシルはこの時だけ、金髪ブロンドの傲慢さに感謝した。
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