27 / 27
2章: 騎士団長の娘
14
しおりを挟む
ダンジョンの特別授業から数日後、エスマイアがイシルを自室に呼び出した。
「とりあえず、特別授業の件お疲れ様でした」
「どうも」
「あなたが選んだ四人の学生のうち、三人が今日、退学届けを出しに来ました」
無論、誰かと言えばアシェリー以外の三人である。
手筈通りダンジョンの入り口で目を醒ました彼らは、自分達がいかに危険な魔族に遭遇したかと思い知らされ、九死に一生を得た命だからと、もう冒険者稼業はしたくないと泣きながら理事長に訴えたそうだ。
殊に幅を利かせていたイベルナは己の醜態を露呈したことが評判となり、学院内での居心地が悪くなって、友人たちに挨拶も告げず、ある日の早朝に馬車を手配して実家に逃げ帰ったという。
幸いにして彼らはそれなりに財力に余裕のある貴族だったので、他の道はいくらでもあったし、敢えてリスキーな仕事をする理由も動機も最初からなかったわけである。
どのみち成績の危うい学生ばかりだから、そう遠くない将来にこうなることは目に見えていた。
仮に卒業したとしても、その後も危険なモンスターと遭遇する機会はいくらでもあるのだ。
ハルスのような未来を選ばなかっただけ、あるいは幸運だったのかもしれない。
「初めての特別授業は大成功でしたね。一点を除けば」
「アシェリーのことですか?」
「そうですね。彼女にだけあなたの正体を明かしたのは少しがっかりです。ダンジョンに潜むモンスターの正体があなただとわかれば、この特別授業の意味がなくなってしまうのですよ? それも最初から堂々と」
「彼女のことなら大丈夫です。僕の正体は秘密にすると約束してくれましたから」
「随分信用しているのですね?」
「約束を守る人間は誰に対しても正直です。自分自身に対しても含めて」
アシェリーはその後も順調に学院の課程を修了し、冒険者としてグランフェルトとしての姓も失うことなく夢に踏み出した。
無論、イシルの仕事はこれで終わりではない。
様々な思いを胸に、冒険者として学院に集まる学生は次から次へとやってくる。
思いがけず選んだイシルの仕事はまだまだ続きそうだ。
「とりあえず、特別授業の件お疲れ様でした」
「どうも」
「あなたが選んだ四人の学生のうち、三人が今日、退学届けを出しに来ました」
無論、誰かと言えばアシェリー以外の三人である。
手筈通りダンジョンの入り口で目を醒ました彼らは、自分達がいかに危険な魔族に遭遇したかと思い知らされ、九死に一生を得た命だからと、もう冒険者稼業はしたくないと泣きながら理事長に訴えたそうだ。
殊に幅を利かせていたイベルナは己の醜態を露呈したことが評判となり、学院内での居心地が悪くなって、友人たちに挨拶も告げず、ある日の早朝に馬車を手配して実家に逃げ帰ったという。
幸いにして彼らはそれなりに財力に余裕のある貴族だったので、他の道はいくらでもあったし、敢えてリスキーな仕事をする理由も動機も最初からなかったわけである。
どのみち成績の危うい学生ばかりだから、そう遠くない将来にこうなることは目に見えていた。
仮に卒業したとしても、その後も危険なモンスターと遭遇する機会はいくらでもあるのだ。
ハルスのような未来を選ばなかっただけ、あるいは幸運だったのかもしれない。
「初めての特別授業は大成功でしたね。一点を除けば」
「アシェリーのことですか?」
「そうですね。彼女にだけあなたの正体を明かしたのは少しがっかりです。ダンジョンに潜むモンスターの正体があなただとわかれば、この特別授業の意味がなくなってしまうのですよ? それも最初から堂々と」
「彼女のことなら大丈夫です。僕の正体は秘密にすると約束してくれましたから」
「随分信用しているのですね?」
「約束を守る人間は誰に対しても正直です。自分自身に対しても含めて」
アシェリーはその後も順調に学院の課程を修了し、冒険者としてグランフェルトとしての姓も失うことなく夢に踏み出した。
無論、イシルの仕事はこれで終わりではない。
様々な思いを胸に、冒険者として学院に集まる学生は次から次へとやってくる。
思いがけず選んだイシルの仕事はまだまだ続きそうだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる