通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~

自慰煽情のアリア

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2章: 流れ着いた村にて

村の窮状

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 ヤルスの道案内に従ってしばらく川を下ったセシルの前に、さっきと同じような村が見えてきた。少数の家屋を囲むように畑が広がっているが、同じ季節だというのにこちらの作物は青々としていない。下の地面もすっかり水気が引いてしまって乾燥した表面には亀甲状のひびが入っていた。
「おい、お前!」
 村の入り口を警護する村人がセシルを呼び止めた。
「アンタ、上流から来たようだが、そっちの人間か?」
「ここより上流にある村のことですか? ええ、今はそこでお世話になっています」
「何だと!! 野郎ども! 上の奴らが攻めてきやがったぞ!」
 村人の警報を聞きつけて、各民家から農具を手に男達が飛び出した。これから畑仕事というわけではなく、武器として持ち出していることは言うまでもない。
「何だ、この女!」
「上流の村から来たとか言ってやがった!」
「俺達の村に来てどういうつもりだ! この村から水以外にこれ以上何を奪うつもりだよ!」
「奪いに来たのではありません。あなた達の抱えている問題を解決するための助言を出来たらと」
「助言だと? 俺達が欲しいのは畑に必要な水だ。それを、アンタらが一方的に灌漑を整備してこっちに水が流れにくくなったんだぞ。わかっているのか?」
「そうですが、上流の村だけで水の全てを使っているわけではありません。事実、この村のすぐ横にも川の水は流れているわけで、それを利用すれば・・・・・・」
「あのな! 灌漑ってのは川があればどうでもいいわけじゃないんだよ。ついて来い」
 セシルは殺気立つ村人達に囲まれながら村の川辺へ向かった。水車小屋の横に川岸の一郭を削り取った小さな水路が口を開けていて、今も水が流れ込んでいる。そこから農地用水を引き込む構造になっていた。
「今は水が流れ込んでいるように見えるが、上流の村が出来るまではこの二倍の水位があったんだ」
 音のない水流を見下ろしながら暗澹たる表情で男が語る。
「水位が低くなったせいで、この村の畑全体に水が行き渡らなくなっちまった。かろうじて水が届く範囲の土地も、日照りのせいで蒸発しやすくなったせいで、村全体で収穫高が落ち込んでいる。この水路も幅を広げたり、色々試したんだが、水の流れは増える様子がない。だからもう、川の水を増やさないことにはどうしようもないんだ」
「それで魔導士を雇って畑泥棒をしているわけですか?」
 セシルから飛び出した発言に村人達が身構える。
「仕方がないだろ! そうでなきゃ俺達は飢え死にするんだ!」
 村人達は口々に自らの行いを正当化しようとしていたが、その眼には罪悪感が現れていた。農に携わる者として、畑泥棒がいかに罪深い所業かを知っているのだろう。
「本当に、そうでしょうか」
「何だと?」
「先ほど灌漑を試したと聞きましたが、これではよくありません。まず取水口を広げ過ぎです。それから、取水口のすぐ後ろに曲がり角を付けると水の流れに抵抗が生まれてしまいます」
 その他目の届く範囲だけで、セシルはあと二点ほど村の治水設備の欠陥を指摘した。
「待て、待て! アンタはさっきから、一体何の話をしてやがるんだ?」
「何の話って、灌漑設備を改修すれば、今の水量でも畑を元通りに出来るという話です」
「そんなはず! 俺達が散々試行錯誤しても全然駄目だったんだぞ!」
「大体この女! 上流の村の者だろ! 適当なことを言って俺達を干し殺しにしようと・・・・・・」
「・・・・・・いや、言うとおりにやってみよう」
 村でも権威のあるらしき年配の男が頷いた。
「しかし!」
「なあ、アンタ。灌漑の改修が一日、二日で終わる仕事じゃないことは承知しているんだろ? そこまで言うからにはアンタの言った通りの水路を作るまでこの村に留まってもらうぞ」
「ええ、構いません。私も言い出したきりで仕事を投げ出すのは好きではありませんので」
 セシルは臆することもなく答えた。
「それでダメだったら、落とし前はつけてもらうからな」
「ええ、私を煮るなり焼くなり好きにして構いませんよ」
 村人達は当然、いきなりやって来たセシルを白眼視していたが、セシルには確信があった。この村の灌漑にはまだまだ改良の余地がある。かつて神殿で農業の他、数多くの知識を図書館で学んだ知識がこの時初めて役に立った。聖女には聖なる魔力の他に、国中から集めた他分野の豊富な知識という強力な武器があるのだ。
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