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3章: 新しい聖女
脱出作戦
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セシルが否定すると、エリーチェは顔を上げた。
「もうそれ以上、自分で自分を裏切らないで下さい。エリーチェさんは一流の魔導士になろうと、本気で努力してきたんじゃなかったんですか? そんなエリーチェさんを妬んだり、疎ましく思う魔導士の人達よりもずっと立派ですよ」
「ありがとう。結局慰められたところでこのザマだけどね」
エリーチェは自虐的に笑った。
「だったら、ここを自力で抜け出すことができたなら、それはエリーチェさんにとって大きな功績になるのではありませんか?」
「どうやって? 相手は魔物、それもドラゴンなんだよ?」
「さっきの話を聞いてふと思ったのですが、エリーチェさん。あなたにはあのドラゴンをも倒せる強力な攻撃魔法の心得があるのではありませんか?」
「まあ、ないこともないけど」
エリーチェは頭を抱えた。その様子を遠目で伺いながらヤルスが会話に割り込む。
「おい、このほら吹き魔導士のことをまだ信用するのか?」
「魔法自体は習得している。けれど、それを実戦で失敗なく撃てるかどうかの自信がない」
「それは魔力の問題ですか?」
「ううん。上位の攻撃魔法ともなると、詠唱体系が複雑でよほど鍛錬を積まない限りどこかで間違えてしまうことがあってさ。小さな一つのミスで魔力が散逸して不発に終わってしまうの。あの剽悍なドラゴンを相手に、その魔法は多分役に立たないと思う」
「ですがもし、詠唱をやり直せるだけの時間があればどうですか?」
「どういう意味?」
「あのドラゴンはまだ、私達に気付いていないはずです。そこでひっそりと、物陰から魔法で攻撃することができれば」
「そういえば、畑泥棒の時に姿を消す魔法が使えたよな?」
ヤルスが思い起こした途端、エリーチェは慌てて両手を振った。
「そんなの無理だよ! 魔物って、魔力の気配に物凄く敏感だから。詠唱を初めて魔力のチャージを始めたら、それだけでこっちの存在がバレちゃうよ。魔法で視覚的に姿を消せても意味がないし」
「それならば心配ありません。私が囮になりますから」
「え?」
「先に洞窟を飛び出して、適当な魔法でドラゴンの注意を向けます。その隙にここから魔法でドラゴンを攻撃してください。そうすれば詠唱しても魔力をドラゴンに気取られることはないはずです」
「そんなのって! アンタが一番危ないじゃない! 相手は火を噴く魔物なのよ! どうやって防ぐの?」
「大丈夫。私には攻撃魔法は使えませんが、それ以外の魔法だったら」
「一体何者なの? ただの魔導士というわけでもなさそうだけど」
「私の話はいいですから、早速始めますよ」
セシルは洞窟の入り口に向かったが、数歩で足に痛みを覚えた。どうやらここへ逃げ込む途中に転倒した際、足を痛めたらしい。
「おい、そんな足でどこへ行くんだよ?」
ヤルスがセシルの前で屈みこんだ。
「ヤルスさん?」
「俺には魔法が使えないが、君の足になることくらいはできる」
そう言って、セシルを軽々と背負った。
「こっちの方がまだ動けるだろう?」
「いいんですか? 危険な役回りは私一人で十分なのに」
「どのみちここに居ても飢え死にするのがオチだからな」
「自分で提案しておきながらこんなこと言うのもあれですが、成功する可能性は極めて低いと思いますよ」
ヤルスはそれを聞くとニヤリと笑った。
「ゼロじゃなければ十分だ。それに、それは可能性とは呼ばない。希望って言うんだ」
「ちょっとアンタ達! 今の計画を本気で実行に移すつもり?」
エリーチェはまだためらっていた。そんな彼女を背中越しに、セシルが語った。
「エリーチェさん、信じていますよ」
「もうそれ以上、自分で自分を裏切らないで下さい。エリーチェさんは一流の魔導士になろうと、本気で努力してきたんじゃなかったんですか? そんなエリーチェさんを妬んだり、疎ましく思う魔導士の人達よりもずっと立派ですよ」
「ありがとう。結局慰められたところでこのザマだけどね」
エリーチェは自虐的に笑った。
「だったら、ここを自力で抜け出すことができたなら、それはエリーチェさんにとって大きな功績になるのではありませんか?」
「どうやって? 相手は魔物、それもドラゴンなんだよ?」
「さっきの話を聞いてふと思ったのですが、エリーチェさん。あなたにはあのドラゴンをも倒せる強力な攻撃魔法の心得があるのではありませんか?」
「まあ、ないこともないけど」
エリーチェは頭を抱えた。その様子を遠目で伺いながらヤルスが会話に割り込む。
「おい、このほら吹き魔導士のことをまだ信用するのか?」
「魔法自体は習得している。けれど、それを実戦で失敗なく撃てるかどうかの自信がない」
「それは魔力の問題ですか?」
「ううん。上位の攻撃魔法ともなると、詠唱体系が複雑でよほど鍛錬を積まない限りどこかで間違えてしまうことがあってさ。小さな一つのミスで魔力が散逸して不発に終わってしまうの。あの剽悍なドラゴンを相手に、その魔法は多分役に立たないと思う」
「ですがもし、詠唱をやり直せるだけの時間があればどうですか?」
「どういう意味?」
「あのドラゴンはまだ、私達に気付いていないはずです。そこでひっそりと、物陰から魔法で攻撃することができれば」
「そういえば、畑泥棒の時に姿を消す魔法が使えたよな?」
ヤルスが思い起こした途端、エリーチェは慌てて両手を振った。
「そんなの無理だよ! 魔物って、魔力の気配に物凄く敏感だから。詠唱を初めて魔力のチャージを始めたら、それだけでこっちの存在がバレちゃうよ。魔法で視覚的に姿を消せても意味がないし」
「それならば心配ありません。私が囮になりますから」
「え?」
「先に洞窟を飛び出して、適当な魔法でドラゴンの注意を向けます。その隙にここから魔法でドラゴンを攻撃してください。そうすれば詠唱しても魔力をドラゴンに気取られることはないはずです」
「そんなのって! アンタが一番危ないじゃない! 相手は火を噴く魔物なのよ! どうやって防ぐの?」
「大丈夫。私には攻撃魔法は使えませんが、それ以外の魔法だったら」
「一体何者なの? ただの魔導士というわけでもなさそうだけど」
「私の話はいいですから、早速始めますよ」
セシルは洞窟の入り口に向かったが、数歩で足に痛みを覚えた。どうやらここへ逃げ込む途中に転倒した際、足を痛めたらしい。
「おい、そんな足でどこへ行くんだよ?」
ヤルスがセシルの前で屈みこんだ。
「ヤルスさん?」
「俺には魔法が使えないが、君の足になることくらいはできる」
そう言って、セシルを軽々と背負った。
「こっちの方がまだ動けるだろう?」
「いいんですか? 危険な役回りは私一人で十分なのに」
「どのみちここに居ても飢え死にするのがオチだからな」
「自分で提案しておきながらこんなこと言うのもあれですが、成功する可能性は極めて低いと思いますよ」
ヤルスはそれを聞くとニヤリと笑った。
「ゼロじゃなければ十分だ。それに、それは可能性とは呼ばない。希望って言うんだ」
「ちょっとアンタ達! 今の計画を本気で実行に移すつもり?」
エリーチェはまだためらっていた。そんな彼女を背中越しに、セシルが語った。
「エリーチェさん、信じていますよ」
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