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終章: 便利屋始めました
国家存亡の危機はお断りします
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セシル達が便利屋を開業してから一か月が経った。
今、彼らが住むのは石造りの大きな邸宅のような店舗だ。あれから噂を聞きつけ、村人はもちろんのこと、遠く離れた都市部や隣国からも様々な依頼が舞い込んできて、セシル達の商売はあっという間に軌道に乗ったのだった。お陰でセシルも短い期間に治療や占い、神殿で学んだ技術の指導など忙しく立ち回る毎日だ。
「やっぱり、君と組んだのは正解だったよ」
「私こそ、ヤルスさんに助けて頂いたお蔭です」
他愛ない会話をする間もなく、次の客が現れる。相当逼迫しているのか、転がり込むように店舗に駆け込んできた。
「ここが、何でもできるという便利屋ですか?」
見るとそれは騎士だった。騎士と言えばこの世界で決して低い身分ではなく、通常このような余裕のない素振りは見せない。ところが鎧はボロボロで、乱れた髪型さえ整えてもいなかった。
「悪いけど、予約は三か月待ちなんで」
「そうと仰らずに助けて下され! 今、王都が危機に瀕しております故!」
「と、いいますと?」
セシルは話だけでも真摯に聞くことにした。彼女のこうした献身的な態度が便利屋の評判を高めた要素の一つであったのもまた事実である。
「まずは、部下達の応急手当てを願いたい」
「おい! 外は怪我人ばかりじゃないか!」
いつの間にか外の様子を見ていたヤルスが血相を変えて応接室に飛び込んできた。村には一個小隊程度の騎士達が詰めており、誰もが怪我を負っていた。逆に言えば、怪我で済んだ者達だけがここまでたどり着いたと表現するべきか。
「わかりました。これは急を要する依頼ですね。すぐに皆さんを、近くの建物まで運んでください。私は村の方々に協力を依頼してきます」
騎士達は屋根のある建屋に分散して逗留することになり、夜を徹したセシルの治療によって全員が命の危機を免れた。
「お陰で一息つくことができました。ありがとうございます」
騎士の頭目と思しき一人が丁寧に頭を下げた。
「一体、何があったのですか?」
「先月より、ドルガとの戦が始まったことはご存じですか?」
「ええ、新しい聖女様の命令とかで」
「我々も戦場にはせ参じ、ドルガ軍と交戦しました。軍首脳部は、ドルガとベルクランドの結託を恐れて先にドルガを単独で攻撃しようと考えていました」
「でも、そうはいかなかったのですね?」
「ベルクランドが、急に不可侵条約を破って我が軍に宣戦を布告したのです」
「予想はしていました。ドルガが滅びれば、次はベルクランドが攻められますから。エレスト神聖国の魂胆はあまりに見え透いていたというべきでしょう」
「二か国の連合により戦況は一転。ドルガを侵略するつもりが逆にこちらの拠点が次々と堕とされ、いまや王都の聖女様の安全さえも憂慮されています」
「全く、何でこんな時に戦争なんて始めたんだか」
話を聞いていたヤルスがぼやいた。不謹慎な言葉であるが、騎士は忠告も否定もしなかった。
「あの、それで聖女様が仰るには、この村に何でも可能としてしまう便利屋がいるそうで、その者の力を借りるべきだと」
「あら、私達の噂は聖女様の耳にまで届いていたのですか?」
「ええ、全知全能の力をお持ちだとか」
「せっかくのご依頼ありがたいのですが、お断り申し上げます」
「何と!」
セシルはいつもの笑みで驚いている騎士の顔を見上げた。
「国家存亡の危機は、本物の聖女様にお任せするべきだと思いますから」
彼女はそう言い残して、村人達の往診に向かったのだった。
(了)
今、彼らが住むのは石造りの大きな邸宅のような店舗だ。あれから噂を聞きつけ、村人はもちろんのこと、遠く離れた都市部や隣国からも様々な依頼が舞い込んできて、セシル達の商売はあっという間に軌道に乗ったのだった。お陰でセシルも短い期間に治療や占い、神殿で学んだ技術の指導など忙しく立ち回る毎日だ。
「やっぱり、君と組んだのは正解だったよ」
「私こそ、ヤルスさんに助けて頂いたお蔭です」
他愛ない会話をする間もなく、次の客が現れる。相当逼迫しているのか、転がり込むように店舗に駆け込んできた。
「ここが、何でもできるという便利屋ですか?」
見るとそれは騎士だった。騎士と言えばこの世界で決して低い身分ではなく、通常このような余裕のない素振りは見せない。ところが鎧はボロボロで、乱れた髪型さえ整えてもいなかった。
「悪いけど、予約は三か月待ちなんで」
「そうと仰らずに助けて下され! 今、王都が危機に瀕しております故!」
「と、いいますと?」
セシルは話だけでも真摯に聞くことにした。彼女のこうした献身的な態度が便利屋の評判を高めた要素の一つであったのもまた事実である。
「まずは、部下達の応急手当てを願いたい」
「おい! 外は怪我人ばかりじゃないか!」
いつの間にか外の様子を見ていたヤルスが血相を変えて応接室に飛び込んできた。村には一個小隊程度の騎士達が詰めており、誰もが怪我を負っていた。逆に言えば、怪我で済んだ者達だけがここまでたどり着いたと表現するべきか。
「わかりました。これは急を要する依頼ですね。すぐに皆さんを、近くの建物まで運んでください。私は村の方々に協力を依頼してきます」
騎士達は屋根のある建屋に分散して逗留することになり、夜を徹したセシルの治療によって全員が命の危機を免れた。
「お陰で一息つくことができました。ありがとうございます」
騎士の頭目と思しき一人が丁寧に頭を下げた。
「一体、何があったのですか?」
「先月より、ドルガとの戦が始まったことはご存じですか?」
「ええ、新しい聖女様の命令とかで」
「我々も戦場にはせ参じ、ドルガ軍と交戦しました。軍首脳部は、ドルガとベルクランドの結託を恐れて先にドルガを単独で攻撃しようと考えていました」
「でも、そうはいかなかったのですね?」
「ベルクランドが、急に不可侵条約を破って我が軍に宣戦を布告したのです」
「予想はしていました。ドルガが滅びれば、次はベルクランドが攻められますから。エレスト神聖国の魂胆はあまりに見え透いていたというべきでしょう」
「二か国の連合により戦況は一転。ドルガを侵略するつもりが逆にこちらの拠点が次々と堕とされ、いまや王都の聖女様の安全さえも憂慮されています」
「全く、何でこんな時に戦争なんて始めたんだか」
話を聞いていたヤルスがぼやいた。不謹慎な言葉であるが、騎士は忠告も否定もしなかった。
「あの、それで聖女様が仰るには、この村に何でも可能としてしまう便利屋がいるそうで、その者の力を借りるべきだと」
「あら、私達の噂は聖女様の耳にまで届いていたのですか?」
「ええ、全知全能の力をお持ちだとか」
「せっかくのご依頼ありがたいのですが、お断り申し上げます」
「何と!」
セシルはいつもの笑みで驚いている騎士の顔を見上げた。
「国家存亡の危機は、本物の聖女様にお任せするべきだと思いますから」
彼女はそう言い残して、村人達の往診に向かったのだった。
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