【BL】「私のミルクを飲んでくれないか」と騎士団長様が真剣な顔で迫ってきますが、もう俺は田舎に帰ります

ノルジャン

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「そういえば今日もギルドへ仕事を探しにいったんだけど」

「どうだった? 良さそうな仕事は見つかったかい?」

「いや、実は紹介できる仕事がないって言われて……それで、スミスさんに紹介してもらったらどうかと言われたんだ。もし、俺にも任せられる仕事が何かあれば紹介して欲しいんだけど、何かあるかな?」

 仕事の紹介までスミスさんに頼ることになるとは……なんて情けない。

 だけど仕事がなく収入がない事態から早く抜け出したかった。
 何か少しでも仕事を始めることが出来れば、少しはこの申し訳ない気持ちから解放されると思った。
 
「実は、君にお願いしたい仕事があるんだ」

 その言葉を待っていた、と言わんばかりに、ふふ、と笑いながらスミスさんは言った。



 ◇


 騎士団の本部。
 備品管理庫に俺とスミスさんは来ていた。

「この倉庫にある物を並び替えて管理簿を整理して欲しいんだ」

 広い倉庫には乱雑に置かれた備品の数々。

 かなり重たそうな甲冑なんかの武具や、剣、弓なんかの武器もある。
 保存食が大量に入っている麻袋なんかもあった。何か食べ物らしきものが袋から飛び出している。
 細々とした日常的に使われるような文具なんかも含まれているようだった。
 
「うわ、コレはひどい」

「そうだろう? ひどい有様になってしまって、どこから手をつけたものかと思っていたんだ」

 どこに何があるのかもわからない。

 ぐっちゃぐちゃに並べてある。

「後から整理しようと思っていたら、それが年々積み重なってこんなことになってしまったんだ……。中々自分たちで整理する時間も取れなくてね。そこで君にお願いしたい」

 俺は管理簿を受け取り、さらさらと帳簿に目を通す。武具、食料、文具、などなど、一応カテゴリー別に管理はしていたらしい。
 カテゴリー別に並べていた様子もあるしね。
 しかし、1人、そしてまた1人、と管理者が変わるにつれて保存管理が雑になって、めちゃめちゃになっていったようだ。

「うん、俺やるよ!」

 やっと待ち望んだ仕事!
 しかも力仕事も含まれているから、俺の得意分野だ。細かい作業も苦じゃないし。
 なーんにも仕事がなくて、スミスさん家でだらだらと時間を無駄にするよりかは、何かしていた方がマシだしな。

「期限がある仕事じゃないから、ゆっくりやってくれて構わないからね。人手が必要な時は遠慮なく呼んで」

「多分大丈夫だと思うけど、必要な時は声をかけるようにするよ」

 時間はかかるかもしれないけど、体力、腕力に自信があるから俺は1人でやる気満々だった。

「私は仕事があるから、執務室にいるよ。何かあればすぐに駆けつけるから、私の名前を叫んで」

 叫んだら聞こえるのか?
 すごい聴力だ。

「というのは冗談で」

「なんだ、冗談かよ。一瞬信じちゃったじゃん」
 
 なんでもこなしてしまうスミスさんなら有り得るかもしれない、なんて本気で思ってしまったしゃないか。

「この笛を受け取って」

 スミスさんは自ら首に下げていたネックレスのようなものを外した。

「笛?」

 首からぶら下げられるように紐がついたその先に、手のひらにちょこんと乗るサイズの笛がついている。

「コレを吹いたら私に聞こえるから。どこにいてもすぐに駆けつけるよ」

 スミスさんが俺の首にかけてくれた。
 胸元にころん、と笛が当たる。指で感触を確かめてみた。なんの変哲もない、ただの笛に見える。

 作業中に無くすといけないから、首にかけたまま服の中に笛をしまった。

 非常用の笛は、お年寄りや小さい子どもなんかにたまに持たせたりする。何かあった時に声を上げられない人たちが周りに自分の身の危険を知らせるためのものだ。
 成人済みとはいったものの、見た目が幼いので俺はここに来てからよく未成年に間違われることがある。
 
 (俺って、スミスさんに子ども扱いされてんのかな)
 
「ありがとう、スミスさん」

 苦笑しながらも、俺は快く受け取った。
 スミスさんなりに俺を心配してくれている証だと思ったからだ。子ども扱いされていたとしても、その気持ちはすごく嬉しかった。
 
「備品管理庫には本当に下っぱしかこないから中階級のリオがここに来ることはほぼないと思うけど、何かあったらすぐ呼んでね」

「うん、わかった!」

 あれからもう1週間も経っているし、リオの姿を見かけたことはない。

 だから向こうももう俺のことなんて忘れているんじゃないのかな。

 そうであってほしい、俺はそう願った。これ以上あいつとの面倒ごとはこりごりだ。

 仕事が溜まっているからいかないと、と名残惜しそうにスミスさんは俺を振り返りながら仕事をしに出て行った。

 (よし、スミスさんも仕事にいっちゃったし、俺もこの備品庫の整理をがんばるぞ!)

 張り切ってこの備品の山を綺麗に整理しに取り掛かった。


 
 


 
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