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しおりを挟むいつものようにスーパーに買い物に出かけた。普段は買う物が多い時はラッセルが一緒についてきてくれる。今日はラッセルが他の人気配信者とコラボでゲーム配信をするらしく俺一人だ。
大きな家を出て、すぐ近くのスーパーへと足を向ける。すると、曲がり角を曲がった所で突然行手を阻まれた。待ち伏せしていたかのようなタイミングで男が目の前に現れたのだ。
「ホントに久しぶり。偶然だね」
「ジル……お前なんでここに」
一つ年下の弟のジルだった。何年も顔を合わせていなかったのに、こんな道端で会うなんて偶然あるはずがない。
「ちょっとさぁ、お金貸してくんない?今月厳しくてさー。頼むよお兄ちゃん」
眉根を下げて、頼み込むような仕草で手を合わせてくる。昔から俺のバイト代をせがんでくるようなやつだった。自分で働けばいいのに、そう本人に言い聞かせても泣き落としで懇願してくる弟に、「お兄ちゃん」と言われて俺は拒めなかった。
「お兄ちゃん」と言われるたびに、家族として認めてくれているんだと思いたくて、俺は兄という言葉に弱かった。
「……俺は自分で生活していくので手一杯なんだ。他人に貸せる金なんてないよ」
「えー、他人なんてそんなこと言わずにさ。俺たち家族じゃん。可愛い弟が困ってるんだからさ。ちょっとくらい貸してくれたっていいじゃん?それに、金ないなんて嘘だろ?あんな良い所に住んでるんだからさ」
「……っ、家に無断で入ったのか?!」
セキュリティーは万全なはずだけど、まさか、ラッセルの家に侵入したりしていたら……。そんな不安が頭をよぎった。
「そんなことしてないってば。この前本当に偶然見かけてさー。後をつけたらでっかい家にあんたが入っていくのが見えたってわけ。今日も見張ってたら豪邸から出てくるのが見えたからここまでついてきた」
「あそこには住み込みの家事代行として働いているだけで、俺の家じゃない。本当にお金はないよ」
「さすがにあんたがあそこに一人で住んでるなんて誰も思わないよ」
はは、と嘲るように俺を笑う。
「一緒に住んでいるやつがアルファなんだって?よくたらしこめたなーと思ってさ?だって他のオメガよりも平凡で可愛くないじゃん、あんた。そんななりでさ、むしろ不細工だよね。フェロモンも出てないし、それになにより不妊だし?」
「……っ!」
ぐさぐさと鋭いナイフのように突き刺さる。ジルの口からは俺を貶める言葉しか出てこない。
「って思ってたけど、なんだフェロモン出てんじゃん?それで落としたんだ?やるね」
くんくんと首元に鼻を近づけられて匂いを嗅がれた。俺はびくっと体を揺らしたけど、そのまま動けなくなって立ちすくんでしまった。
「お金持ちのアルファなんて最高じゃん。でもさ、子どもが出来ないオメガを囲うなんて、相手もそういう目的なんでしょ?」
「そういう目的……?」
そういう目的ってなんだ?わからなくて不審な目でジルを見上げた。
「何だよその顔。わかってないなんて言うわけないよな?あんたはさぁ、そのアルファの性欲処理の道具ってことだよ」
せいよくしょり?
「……はぁ?ホントにわかってなかったの?住み込みの家政夫オメガとかそういう目的でしか雇わないでしょ、よく考えなよ。できそこないのオメガなんだからさぁ。昔から頭悪かったけど、本当に考えなしだね」
そういうことなのか?ラッセルは俺のことはそういう目でしか見てくれていないのか…?
もうこれ以上ジルの話を聞きたくない。ラッセルのことを信じきれなくなってきて、頭がおかしくなりそうだ。財布に入っていた三万円を弟の胸元に叩きつけた。
「これでいいだろ!もう、来るな。これ以上金はないからっ……」
「あるなら最初から出せよー。てか、まだあるじゃん。そっちもよこせよ」
「やめっ、そっちは俺の金じゃない……、やめろよっ…………ぁぐっ!」
ガッ、と頬に衝撃が走った。
今月分の食費の十万円を取られまいと抵抗したが、弟ジルに殴られて奪われてしまった。
力の差は歴然で、俺は殴られた反動で地面に這いつくばった。
殴られた頬がじんじんと熱くなる。
「もーらい。じゃあねお兄ちゃん」
頬に手を当てると腫れてきていた。口の中が切れたのか、血の味が口中に広がっていく。生臭いような気持ち悪い味だ。気分が悪くなってくる。
ぐるぐると考えが巡って考えがまとまらない。
性欲処理。その言葉が頭の中をいっぱいにする。そうなのか?そんなこと……。ラッセルは、俺を性欲処理として使っていたのか?
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