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自分で考えてもなにも答えはでなくて、ふと、スマホを取り出した。連絡先にはタイセーとラッセルの二人しか入っていない俺のスマホ。
俺はタイセーの電話番号の通知ボタンを押した。
『もしもし、イチロか?どうした?』
「タイセー、いきなりでごめん。あのさ、……変なこと聞くんだけどさ、男同士で抜き合うのは、普通……だよな?」
ラッセルは普通って言ってた。ラッセルが俺にそんな嘘つくはずがないよな?
『ほ、ほんとにいきなりなんだよ。一体どうした?』
「いいから答えてくれ。頼むよ」
『えーと、……あー、うー……抜き合うって、あのぉ~……アレのことか?一緒に、ぉ、オナニーし合うみたいな意味?』
「……うん、そう」
『あー、……いやぁ、それは普通では……ない、かなぁ』
ああ、やっぱ普通じゃないんだ。あの行為は全て普通じゃなかった。
「そっか、ごめん変なこと聞いて。教えてくれてありがとう」
『あ、待て、イチロ。それってラッセルとのことだったら、あいつはお前のことっ……』
ブチっと電話を切った。
性欲処理かぁ。辛い。辛すぎるよ。
俺はただの性欲処理の相手だったんだ。
「俺はラッセルのことこんなに好きなのに……。片思いって辛いな……あはは」
一人道の端っこで丸くなって無理に笑う。
「うっ……ぐずっ……ひっく、うぅッ……うわぁぁああッ!」
涙は止めどなく流れて、ずびずびと鼻水もひどくなった。声を出してわーっと思い切り泣き喚いた。
もうラッセルと一緒にはいられない。顔も合わせられない。
涙が落ち着いたころ、買い物もせずに部屋に戻った。自分の荷物をまとめて家を出ようとすると、ちょうど玄関を出ようとするところでラッセルに見つかってしまった。
「イチロ……どこにいく?そんなに荷物を持って」
「もう、ここを出ていくよ。これ以上ここで働いてはいられない」
「ちょっと待ってくれイチロ。……な?!どうしたんだ!その頬……腫れてるじゃないか。誰かに殴られたのか?」
隠し切れない腫れ上がった顔を見咎められてしまった。
誰かに殴られたのかと言われた時に、俺は奪われた食費の十万円のことを思い出した。あれはラッセルに返さなければ。
「ラッセル、ごめん。食費の十万はちゃんと振り込んで返すから……」
「食費の十万?何で今そんな話を…、まさか、盗まれて?ひったくりにでもあったのか?!」
警察に、とスマホを取り出そうとするラッセルを必死で止めた。
「やめてくれ!違うんだ……」
余計なことを言わなければよかった。全然冷静でいられなくて、落ち着いたと思っていたけれどまだまだ動揺していた。
「違うってなにがだ?盗っ人に殴られたんだろう?だからこんなに腫れて、口の端が切れているじゃないか」
「違う……違うんだ。弟なんだ。弟にお金を貸した。だから、ひったくりとかじゃない」
例え仲が悪くても嫌われていても、血の繋がった弟なのだ。警察を呼ばれて捕まるなんてことになったらと思うと怖くなった。
「弟って、だが……」
「これは俺が自分で転んだんだ。俺っておっちょこちょいなとこあるだろ?」
「……この腫れ方は転んだものじゃないだろうが」
「お金はちゃんと返すから、だから警察にはっ……」
「…………わかった。お前がそれでいいならもう何も言わない。だが、イチロ、ちゃんと話をしないか。俺たちのことを」
俺たちってなんだよ。何も話すことなんてないのに。
「俺たちに話すことなんて、何もないだろ」
「いや、俺たち……俺にはあるんだ。だが、まずその傷の手当をしよう。こっちに来てくれ」
ラッセルは俺の手を引いてリビングへと向かった。腫れた頬を冷やすものを持ってきてくれ、薬箱を取り出して切れた口の端に薬を塗って絆創膏を貼ってくれた。
そして俺に向き直って真剣な顔で語り始めた。
「タイセーから連絡があった。男同士の、抜き合いは普通なのか聞かれたって。イチロ、すまない、俺はお前に嘘をついた。男同士であの行為は普通なことじゃない」
「いや、そのことはもういいんだ別に……。ホント俺、馬鹿だからさ!そんなことも知らなくて、ははは……そんな、普通のことを知らない俺が、わる、悪いん……わるかった、んだから、さっ………」
俺はタイセーの電話番号の通知ボタンを押した。
『もしもし、イチロか?どうした?』
「タイセー、いきなりでごめん。あのさ、……変なこと聞くんだけどさ、男同士で抜き合うのは、普通……だよな?」
ラッセルは普通って言ってた。ラッセルが俺にそんな嘘つくはずがないよな?
『ほ、ほんとにいきなりなんだよ。一体どうした?』
「いいから答えてくれ。頼むよ」
『えーと、……あー、うー……抜き合うって、あのぉ~……アレのことか?一緒に、ぉ、オナニーし合うみたいな意味?』
「……うん、そう」
『あー、……いやぁ、それは普通では……ない、かなぁ』
ああ、やっぱ普通じゃないんだ。あの行為は全て普通じゃなかった。
「そっか、ごめん変なこと聞いて。教えてくれてありがとう」
『あ、待て、イチロ。それってラッセルとのことだったら、あいつはお前のことっ……』
ブチっと電話を切った。
性欲処理かぁ。辛い。辛すぎるよ。
俺はただの性欲処理の相手だったんだ。
「俺はラッセルのことこんなに好きなのに……。片思いって辛いな……あはは」
一人道の端っこで丸くなって無理に笑う。
「うっ……ぐずっ……ひっく、うぅッ……うわぁぁああッ!」
涙は止めどなく流れて、ずびずびと鼻水もひどくなった。声を出してわーっと思い切り泣き喚いた。
もうラッセルと一緒にはいられない。顔も合わせられない。
涙が落ち着いたころ、買い物もせずに部屋に戻った。自分の荷物をまとめて家を出ようとすると、ちょうど玄関を出ようとするところでラッセルに見つかってしまった。
「イチロ……どこにいく?そんなに荷物を持って」
「もう、ここを出ていくよ。これ以上ここで働いてはいられない」
「ちょっと待ってくれイチロ。……な?!どうしたんだ!その頬……腫れてるじゃないか。誰かに殴られたのか?」
隠し切れない腫れ上がった顔を見咎められてしまった。
誰かに殴られたのかと言われた時に、俺は奪われた食費の十万円のことを思い出した。あれはラッセルに返さなければ。
「ラッセル、ごめん。食費の十万はちゃんと振り込んで返すから……」
「食費の十万?何で今そんな話を…、まさか、盗まれて?ひったくりにでもあったのか?!」
警察に、とスマホを取り出そうとするラッセルを必死で止めた。
「やめてくれ!違うんだ……」
余計なことを言わなければよかった。全然冷静でいられなくて、落ち着いたと思っていたけれどまだまだ動揺していた。
「違うってなにがだ?盗っ人に殴られたんだろう?だからこんなに腫れて、口の端が切れているじゃないか」
「違う……違うんだ。弟なんだ。弟にお金を貸した。だから、ひったくりとかじゃない」
例え仲が悪くても嫌われていても、血の繋がった弟なのだ。警察を呼ばれて捕まるなんてことになったらと思うと怖くなった。
「弟って、だが……」
「これは俺が自分で転んだんだ。俺っておっちょこちょいなとこあるだろ?」
「……この腫れ方は転んだものじゃないだろうが」
「お金はちゃんと返すから、だから警察にはっ……」
「…………わかった。お前がそれでいいならもう何も言わない。だが、イチロ、ちゃんと話をしないか。俺たちのことを」
俺たちってなんだよ。何も話すことなんてないのに。
「俺たちに話すことなんて、何もないだろ」
「いや、俺たち……俺にはあるんだ。だが、まずその傷の手当をしよう。こっちに来てくれ」
ラッセルは俺の手を引いてリビングへと向かった。腫れた頬を冷やすものを持ってきてくれ、薬箱を取り出して切れた口の端に薬を塗って絆創膏を貼ってくれた。
そして俺に向き直って真剣な顔で語り始めた。
「タイセーから連絡があった。男同士の、抜き合いは普通なのか聞かれたって。イチロ、すまない、俺はお前に嘘をついた。男同士であの行為は普通なことじゃない」
「いや、そのことはもういいんだ別に……。ホント俺、馬鹿だからさ!そんなことも知らなくて、ははは……そんな、普通のことを知らない俺が、わる、悪いん……わるかった、んだから、さっ………」
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