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◇
「さて、アルブレヒト。あのカスと婚約を破棄したのならば、俺にも可能性はあるだろう?」
「か、可能性とはなんのことです……」
公爵位であると気づかなかったのは、この口の悪さにも起因する。
それに加えて冒険者のような薄汚れた格好でいつもいるからだ。
「わからないか?俺のところにこいと言っているんだ」
こんな口が悪くて粗暴な男のそばになどいきたくはない。
近づくのもごめんだ。
この男の尊大な物言いも気に食わない。
憧れていた当時は、このニヒルに笑う、自信満々な態度が格好良く見えていた。
今では苦手意識が深く根付いてしまい、立派な大樹となってアルブレヒトの中で育っていた。
「あいにく、私は隣国へ行く気はありません」
「なぜだ? この王国とは友好的な関係だ。お前がこちらへ来るのに何の問題もない。それに、ブルネはないが、お前の好きな果実が年中食べられるぞ」
馬鹿の一つ覚えのように、好物の果物でアルブレヒトが釣れると思っているのか。
馬鹿にされているような気がしていらいらとしてきた。
「果実など……私はもう子どもではないのです。ブルネだって、もう好きではありません」
「……ふうん、そうなのか?」
切長の目を薄め、口元は片方だけ上がり、ニヤリと笑っている。
アルブレヒトの強がりを見抜いているに違いなかった。
一歩一歩、大きな歩幅でロヴィスが近づいてくる。
大きな手に顎を引かれて、長い髪の間から精悍な雄の顔が近づいてくる。
近距離で辺境伯の薄く黄色に光る瞳をみると、不思議にきらめいていた。瞳孔が縦に細くなっており、猫目に似ていたが、猫のように可愛いものではなかった。
そう、これはドラゴンアイとでも言ったらいいのか。
光の入り方で細かい光の粒子がきらきらと不思議にかがやく、強い眼光。
その瞳から目が離せなくなっていた。
熱い吐息が顔にかかる。
ハッと意識が戻り、気づいた時には唇が迫っていた。
「や……っ!」
奪われてしまう!と思った。
思わず目を閉じて口をぎゅっとへの字に曲げる。
次の瞬間、ぐっと口にあたった感触は、唇の感触ではなかった。
それは甘い、果実の汁。
はた、と目を開けると口の中にブルネの実が押し込まれていた。
口が勝手に動いて食べてしまう。
もぐもぐごっくん、うぁぁ~美味しい……。
ふに、と男らしい指で唇についた果実の汁をぬぐわれた。
ぬぐった果実の汁のついた自分の指をぺろり、と舌を出して舐め上げる。
たったそれだけのことなのに、この男がすると、ひとたまりもなく扇状的な光景になる。
「なんだ目をつぶって、唇を奪われるとでも思ったのか?」
「……っ!」
耳元で低く囁かれ、くくっと喉から笑い声をあげてくるロヴィスに、むかっとした。
なんて言い草だ! うっとりして損した!
「次に俺の目の前で目をつぶってみろ。お前のご希望通りにその甘そうな唇をむさぼり喰ってやろう」
「んな! な、な…………っ!」
怒りとそれ以上の羞恥が、急激に湧き上がりすぎて言葉にならない。
ほほが高ぶった感情で高揚する。
ハハハ、と高く笑って部屋を出ていく。
言い返すこともできなかった。
な、なんなのだ!あの態度!
こんなに馬鹿にされるなんて……。
イライラとムカムカが同時に押し寄せてきて収まらない。
衝動に任せて皿を床に落として割ってしまおうかと手にかけた。
だが、皿の上のブルネを見て思いとどまった。
あの男にはイラつくが、食べ物に罪はない。
その実を指でつまんで口に次々に入れていった。
むぐむぐと食べ進めると、甘い果汁が口に広がり、飲み込むとさらにその香りと幸せが体中を駆け巡る。
吐き出すことができなかった渦巻いていた怒りは、幾分か落ち着いてきた。
甘くて美味しい……。
全く食事を受け付けなかったというのに、すんなりとアルブレヒトの喉を通っていった。
甘い物に罪はない。
ないったらないのだ。
「さて、アルブレヒト。あのカスと婚約を破棄したのならば、俺にも可能性はあるだろう?」
「か、可能性とはなんのことです……」
公爵位であると気づかなかったのは、この口の悪さにも起因する。
それに加えて冒険者のような薄汚れた格好でいつもいるからだ。
「わからないか?俺のところにこいと言っているんだ」
こんな口が悪くて粗暴な男のそばになどいきたくはない。
近づくのもごめんだ。
この男の尊大な物言いも気に食わない。
憧れていた当時は、このニヒルに笑う、自信満々な態度が格好良く見えていた。
今では苦手意識が深く根付いてしまい、立派な大樹となってアルブレヒトの中で育っていた。
「あいにく、私は隣国へ行く気はありません」
「なぜだ? この王国とは友好的な関係だ。お前がこちらへ来るのに何の問題もない。それに、ブルネはないが、お前の好きな果実が年中食べられるぞ」
馬鹿の一つ覚えのように、好物の果物でアルブレヒトが釣れると思っているのか。
馬鹿にされているような気がしていらいらとしてきた。
「果実など……私はもう子どもではないのです。ブルネだって、もう好きではありません」
「……ふうん、そうなのか?」
切長の目を薄め、口元は片方だけ上がり、ニヤリと笑っている。
アルブレヒトの強がりを見抜いているに違いなかった。
一歩一歩、大きな歩幅でロヴィスが近づいてくる。
大きな手に顎を引かれて、長い髪の間から精悍な雄の顔が近づいてくる。
近距離で辺境伯の薄く黄色に光る瞳をみると、不思議にきらめいていた。瞳孔が縦に細くなっており、猫目に似ていたが、猫のように可愛いものではなかった。
そう、これはドラゴンアイとでも言ったらいいのか。
光の入り方で細かい光の粒子がきらきらと不思議にかがやく、強い眼光。
その瞳から目が離せなくなっていた。
熱い吐息が顔にかかる。
ハッと意識が戻り、気づいた時には唇が迫っていた。
「や……っ!」
奪われてしまう!と思った。
思わず目を閉じて口をぎゅっとへの字に曲げる。
次の瞬間、ぐっと口にあたった感触は、唇の感触ではなかった。
それは甘い、果実の汁。
はた、と目を開けると口の中にブルネの実が押し込まれていた。
口が勝手に動いて食べてしまう。
もぐもぐごっくん、うぁぁ~美味しい……。
ふに、と男らしい指で唇についた果実の汁をぬぐわれた。
ぬぐった果実の汁のついた自分の指をぺろり、と舌を出して舐め上げる。
たったそれだけのことなのに、この男がすると、ひとたまりもなく扇状的な光景になる。
「なんだ目をつぶって、唇を奪われるとでも思ったのか?」
「……っ!」
耳元で低く囁かれ、くくっと喉から笑い声をあげてくるロヴィスに、むかっとした。
なんて言い草だ! うっとりして損した!
「次に俺の目の前で目をつぶってみろ。お前のご希望通りにその甘そうな唇をむさぼり喰ってやろう」
「んな! な、な…………っ!」
怒りとそれ以上の羞恥が、急激に湧き上がりすぎて言葉にならない。
ほほが高ぶった感情で高揚する。
ハハハ、と高く笑って部屋を出ていく。
言い返すこともできなかった。
な、なんなのだ!あの態度!
こんなに馬鹿にされるなんて……。
イライラとムカムカが同時に押し寄せてきて収まらない。
衝動に任せて皿を床に落として割ってしまおうかと手にかけた。
だが、皿の上のブルネを見て思いとどまった。
あの男にはイラつくが、食べ物に罪はない。
その実を指でつまんで口に次々に入れていった。
むぐむぐと食べ進めると、甘い果汁が口に広がり、飲み込むとさらにその香りと幸せが体中を駆け巡る。
吐き出すことができなかった渦巻いていた怒りは、幾分か落ち着いてきた。
甘くて美味しい……。
全く食事を受け付けなかったというのに、すんなりとアルブレヒトの喉を通っていった。
甘い物に罪はない。
ないったらないのだ。
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