【BL】婚約破棄された令息は強引で意地悪な辺境伯に愛される

ノルジャン

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3-2

 ◇
 

「さて、アルブレヒト。あのと婚約を破棄したのならば、俺にも可能性はあるだろう?」
 
「か、可能性とはなんのことです……」

 公爵位であると気づかなかったのは、この口の悪さにも起因する。
 それに加えて冒険者のような薄汚れた格好でいつもいるからだ。
 
「わからないか?俺のところにこいと言っているんだ」

 こんな口が悪くて粗暴な男のそばになどいきたくはない。
 近づくのもごめんだ。

 この男の尊大な物言いも気に食わない。
 憧れていた当時は、このニヒルに笑う、自信満々な態度が格好良く見えていた。
 今では苦手意識が深く根付いてしまい、立派な大樹となってアルブレヒトの中で育っていた。

「あいにく、私は隣国へ行く気はありません」
 
「なぜだ? この王国とは友好的な関係だ。お前がこちらへ来るのに何の問題もない。それに、ブルネはないが、お前の好きな果実が年中食べられるぞ」

 馬鹿の一つ覚えのように、好物の果物でアルブレヒトが釣れると思っているのか。
 馬鹿にされているような気がしていらいらとしてきた。

「果実など……私はもう子どもではないのです。ブルネだって、もう好きではありません」
 
「……ふうん、そうなのか?」

 切長の目を薄め、口元は片方だけ上がり、ニヤリと笑っている。
 アルブレヒトの強がりを見抜いているに違いなかった。

 一歩一歩、大きな歩幅でロヴィスが近づいてくる。

 大きな手に顎を引かれて、長い髪の間から精悍な雄の顔が近づいてくる。
 近距離で辺境伯の薄く黄色に光る瞳をみると、不思議にきらめいていた。瞳孔が縦に細くなっており、猫目に似ていたが、猫のように可愛いものではなかった。
 そう、これはドラゴンアイとでも言ったらいいのか。
 光の入り方で細かい光の粒子がきらきらと不思議にかがやく、強い眼光。
 その瞳から目が離せなくなっていた。

 熱い吐息が顔にかかる。
 ハッと意識が戻り、気づいた時には唇が迫っていた。

「や……っ!」

 奪われてしまう!と思った。
 思わず目を閉じて口をぎゅっとへの字に曲げる。

 次の瞬間、ぐっと口にあたった感触は、唇の感触ではなかった。
 それは甘い、果実の汁。
 はた、と目を開けると口の中にブルネの実が押し込まれていた。
 
 口が勝手に動いて食べてしまう。
 もぐもぐごっくん、うぁぁ~美味しい……。

 ふに、と男らしい指で唇についた果実の汁をぬぐわれた。
 
 ぬぐった果実の汁のついた自分の指をぺろり、と舌を出して舐め上げる。
 たったそれだけのことなのに、この男がすると、ひとたまりもなく扇状的な光景になる。

「なんだ目をつぶって、唇を奪われるとでも思ったのか?」
 
「……っ!」

 耳元で低く囁かれ、くくっと喉から笑い声をあげてくるロヴィスに、むかっとした。
 なんて言い草だ! うっとりして損した!

「次に俺の目の前で目をつぶってみろ。お前のご希望通りにその甘そうな唇をむさぼり喰ってやろう」
 
「んな! な、な…………っ!」

 怒りとそれ以上の羞恥が、急激に湧き上がりすぎて言葉にならない。
 ほほが高ぶった感情で高揚する。

 ハハハ、と高く笑って部屋を出ていく。
 言い返すこともできなかった。

 な、なんなのだ!あの態度!
 こんなに馬鹿にされるなんて……。
 イライラとムカムカが同時に押し寄せてきて収まらない。
 
 衝動に任せて皿を床に落として割ってしまおうかと手にかけた。
 だが、皿の上のブルネを見て思いとどまった。
 
 あの男にはイラつくが、食べ物に罪はない。
 その実を指でつまんで口に次々に入れていった。
 
 むぐむぐと食べ進めると、甘い果汁が口に広がり、飲み込むとさらにその香りと幸せが体中を駆け巡る。
 吐き出すことができなかった渦巻いていた怒りは、幾分か落ち着いてきた。
 
 甘くて美味しい……。
 全く食事を受け付けなかったというのに、すんなりとアルブレヒトの喉を通っていった。
 
 甘い物に罪はない。

 ないったらないのだ。

 


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