俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

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第5章

本物の勇者になるために。

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帰省三日目の朝。

朝食と身支度を済ませて玄関に荷物を運ぶ。
帰り際にお遣いで使った分のお金とお小遣いをくれた。
少ない額ならコインの譲渡は可能だ。

もう俺は家を出て働いているので
お小遣いを貰っても良いかわからないけれど...
今回もありがたく頂くことにした。

「ダメよ、課金ガチャとかしちゃ」
「.......ちゃんと貯金してるよ」

俺は小さな嘘をついた。
微課金だという事になっているが
今月のボーナスは既に石に変えてあるし
お祭りでも結構使った。すまない。

昨夜母さんにプレゼントを渡した。
母さんも手紙派で端末を持っていなかったから
感謝祭で安くなっていた旧型の小型機にした。

「昨日やった使い方とか覚えてる?」
「変なボタンは押さない、嘘の情報には騙されない」
「大丈夫よ。心配性ねレオナルドは」

最近はネット詐欺やログの炎上があるから
操作方法とその辺りの事を一通り教えておいた。
でも正直いって心配。

「じゃあまたね、母さん」
「カレンちゃん、レオナルドを宜しくお願いします」
「まかせてくださいっ!」

(俺を嫁にでも出すかのような会話だな...)

心配性は母さんち家系の遺伝だと思う。
帰ったら“無事着きましたメール”を送ってあげよう。


来た道を戻る。
途中でカフェに寄ったけどリリィーは居なかったから
昼ご飯用にジビエのパイだけ買って店を出た。

それから俺達は路線馬車に乗り
「わーい!ガタガタするぅー」

鉄道に揺られて
「見て~!ワライグマが笑ってるよー」
「.......うん。笑ってるよね」

結局また眠れなかったけれど、午後には街に到着。
荷物もあるので寄り道せずに家へと戻る。

「無事、着きました...っと。送信 (ポチリ)」

ピロン♪
十五分ほどで母さんから返信が来た。
言いたい事が纏まってないからやたらと長い。

要約すると、“無事に着いて安心した”とか
“来てくれてありがとう”とか“早く彼女を作...っておい!
ここでも言うか。

まあ、母さんなりに俺の事心配してくれているのだ。
本当はこっちに来て欲しいけれど
親父が帰って来た時に迷わないようにと言って
ずっと山奥での生活を続けている。

「また行こうねっ!」
「そうだね。また今度一緒に帰ろう」


ひと息ついて夜。
夕飯にと持たされた母さんの手料理を広げた。
これには全部保温の魔法がかけられているから
解除魔法を使えば作り立てのような熱々が食べられる。

解除っリリース!」
ブワン...シュウシュウシュウシュウン...ピロリロ♪

「すご~い!かっこいいねー」

いや、ただ解除しただけなのだが...
やたら派手な蒸気が出て、最後に可愛い音が鳴る。
そして途端に良い香りが部屋中に漂った。

ホリボリのスープにケイブラッドのスペアリブ
オバケタケのバターソテー。
それに俺の好きな焼きたてパンまで持たせてくれた。
でもこのメニューは...

「洞窟とかに行ってたのかなぁー?」

そういえば昨日俺が薪割りしてた時に
“ちょっとお留守番よろしくね”って出かけたけど
一人で森の北側にある洞窟に行き狩ってきたらしい。
無茶しやがって。

(ホリボリとか...どんだけ地下に降りたんだよ)

心配だから今度会った時は俺も付いて行こう。
というか、俺も洞窟に行きたい。

“洞窟はすごく危険だから、近付いちゃダメよ!”

そう母さんに言われていたし
アカデミーでも “興味本位で入ったりしない”
“必ずパーティーを組んで行くように” と教えられた。

カレンはもちろん何度も行ったことがあるらしく
「ホリボリなつかしい味ー!」
とか言って喜んで食べている。
俺も早く勇者っぽいことしたい。

シュッ...シュッ...シュッ...

疲れているけれど今日も素振りをする。
少しでも強くなれるように。
親父みたいな本物の“勇者”になるために。
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