俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

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第1章

俺は勇者になりたい。

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二年前の事だ。
きっかけは些細なことだった。
単なる“あの人”の思いつき。

この“世界”を司る神の様な存在。
“あの人”の命令は絶対。

其処此処にいた低級、中級の妖精や魔物
金持ちが収集した武器や聖遺物
地下に眠るまだ見つけられていない鉱物までも
すべてを一度”リセット“したんだ。

結果論的に上級の敵しかいなくなり
安全な“世界”は出来上がった。

社会の秩序を守るため採用された
“Grand Challenge System”
通称ガチャ。

亜空間上に閉じ込めた“それら”を
合法的に呼び出すことができる。

どんな平民でも強大な力を手にしたり
大金持ちにだってなれる“平等”な権利だ。

簡単に言うと召喚術の様なものだ。
“ガチャ”を引くには“石”を使い
石を得るにはコインが必要なわけで。
「くそぅ...またかよ...」
こうして働いているのだけれども。

ザクッ...
勤労の対価はまずまずと言ったところだ。
ケニーから今日の分のコインを受け取る。

「思ったんだけどさぁ」
「貯めてたらもっとマシな生活できたんじゃないの?」

愚問だ。
俺がどれだけ費やした(課金した)だって?
だからだよ。
だからこそ今更降りるわけにはいかないんだよ!!

強い精霊とか呼び出して
凄い武器とか防具とか一式揃えて
俺は絶対に勇者になる!

「よぉ課金勢!元気してるか?」
「なんか用ですか。冷やかしに来たんですか。」
「なんだ、わかっちゃってるじゃん」

めんどくさいのが来た。
一応親族なのだけれども。

伯父は若くして非課金でわらしべ長者的に
金持ちになった、いわゆる“成功者”だ。

「いつだって頼っていいんだよ?」
「君をビジネスパートナーとしてだな、」
「前にも言ったけど 興味ありませんから」

「頑なだねぇ。ロマンも良いけどさ」
「・・・・・・」

ハットを深く被り直して帰って行った。
過保護な位に心配してくれるのは本心だろう。
だけど俺には憧れた“世界”がある。

この世界になる前。
魔物で溢れていて今より危険だった。
だから勇者が大勢いたんだ。

俺の家系も皆そうだった。
身体を鍛えて
強い武器を見つけて
魔物を倒し魔石を手に入れる。

強い魔物を倒せば英雄になり
富も名声も得る事になる。

女神に気に入られて未知の力を授かったり
宝箱から伝説の宝具が見つかったり。
冒険でしか手にできない興奮。
危険は伴っても魅力的に思えた。

だから大きくなったらパーティを組んで
俺も旅に出るんだって
そう思って...思っていたのに。

そして話は二年前につながるわけだ。
“あの人”の思いつき。

“戦いたい者だけ戦えば良いんじゃないか?”
“富も偏り過ぎているように思うよ”
“だからさ、ちょっと手心加えようと思うんだ”

詳しくは誰も解らない。
その声が白い光の中で聞こえた。

魔導師だとか神の使いだとか言われてる。
そうして全てが始まった。


この“世界”にはルールがあって
それを破ると“あの人”の裁きを受けるらしい。
一定期間の石化であったり
相当不味マズいと消されるなんて噂も聞く。

例えば錬金術。
錬金術で石を錬成してそれを召喚術に使う。
これは完全にアウトだ。

次に、召喚で得たものは譲渡してはならない。
不要になったものは返還か破棄が原則。
販売も禁止されている。
(アイテム屋も今は返却所をやっている)

規定数以上のパーティーは組めない等々。
秩序が乱れないように調整されているのだ。

大概罰せられる前には警告を受けるらしい。
壁や天井に血文字で書かれていたとか
恐ろしい声を聞いたとかろくな話は聞かない。

まあ、抜け道を使う輩もいるのだが
俺にはそんな勇気はない。

「さあ、始めようか」
召喚陣に魔石を放り投げる。

今週は女神級の精霊が出るらしい。
基礎魔法の心得しかない俺にはもってこい。
何が使えるかは精霊次第だけど
召喚扱いでパーティーの頭数には含まれないし
精霊と言っても人間とさほど変わりなく
魔力も自己錬成するから一緒に生活だって出来る。
性格はまぁ、あれだが。

“Grand Challenge System Assign”
蒼い光が立ち込める。
俺は手をかざし続ける。

「来いっ!」
グッと眩しさを堪えて目を見開く。

皆が寝静まった深夜。
ガチャを引く人数が少ない時間帯が
レア召喚の狙い目だと噂で聞いた。
(来たか!?これは来ただろ!)

ボワっと目の眩む光の中から小さな...
小さな“ピッピィ”が現れた...って。

「お前...今月何匹目だよ...」

いわゆる低レアな魔物だ。
このシステムの前はよく見かけたやつ。

単体召喚が悪かったのだろうか。
ここは思い切って連続召喚に踏み切る。

フゥァ...シュゥアッ!

十個の光が宙を舞い
その中に明らかに他と違う色の光が二つ
キラキラと輝きを放っている。
ゴクリと息を飲んで当たりを待つ俺。

“魔石のカケラ”
“ドゥドル...ドゥドル”
“女神の雫”

レアと思わしき光が黄金に輝く。

“ポッケ”  “ポッケ”
(なんだよポッケって...しかも×2)

続いて魔石やら木の盾やら微妙なものが続く。
そして最後だ。

「ピッピィ♪」

終わった。
一週間分のコインで買った石と
貯めてた分の石は無残にも消え去ったのだ。

どうしてだろう。
伯父のように配布の石でレアを引く人と
汗水流して一生懸命働いて引いても
レアを掴めない人の差は。

バタンと仰向けに倒れこんだ。
だめだ...何も力が出ない。
そのまま現実逃避するように眠りについた。
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