俺は勇者になりたくて今日もガチャを回し続ける。

横尾楓

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第2章

芸術には才能が必要だ。

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「君も絵を描いてみたらイイんじゃないか?」

聞いた事はあるが一度も試さなかった。
促されるまま嫌々鉛筆を握る。
シャカシャカ...ササ...

「...ドラゴンモスでしょうか?」
「これは...たぶんプディングベアだよっ」
「う~ん、なんとも芸術的な絵だねぇ...」

残念ながらどちらも違う。
そう、俺には絵心がないのである。

今巷ではこんな話題で持ちきりだ。
とある貿易商が一発で当たりを引いたという。
もちろんガチャの話なのだが
その後も高確率で狙い目を当てているそうだ。

と、ここまではよく聞く噂話。
しかし彼には必勝法があるというのだ。

“芸術には魂が宿る”
“自分の望むものを最大限にイメージするのだ”
“そうすれば自ずとソレは向こうからやって来る...”

簡単に言うと、触媒の話。
この貿易商は芸術家でもあり有名なのだが
氏曰く、欲しい当たりを絵に書いて触媒にすると
ガチャが具現化するのだと言う。

彼の元には作画の依頼が殺到したが
“自分で描かなければ決してソレは来ないっ!”
という彼のポリシーからすべて断っているのだという。

今日は伯父の家に頼まれ物を届けに来ている。
すぐに帰る予定だったが伯父に捕まり...
現在に至るわけだ。

「これじゃあ何が出るかはわからないよねぇー」
(描かせておきながら真顔で評論するなよ.....)

絵のスキルなんて勇者志望の俺には必要ないですよ。
少しふて腐れていると、フィオが紙を持ってきた。
「私も噂話だと思うのですが...物は試しと言いますし」

円卓の四方に座って4人それぞれ絵を描く事になった。
お題はサンドラド。

フィオは仕立て屋の書くようなラフ画。普通に上手い。
伯父はそこそこといったところか。
俺は.........聞かないで欲しい。

ウェザーが描いたのは美しい草原の風景画だった。
色鉛筆なのにまるで水彩画のようだ。
とても綺麗な絵ではあるが...

「上手だけど、それのどこら辺がサンドラドなの?」

ウェザーが右の中央部分を指差す。
草むらの中にそれらしき背中が隠れているような...

「サンドラドはいつもこんな感じだよ?」

かつて冒険の途中で見たサンドラドを描いたらしい。
今跳びかからんと息を潜めている場面なのだと。
何という芸術肌なんだ...!

「ウェザーは絵が得意なんですね!」
繊細な色使いと大胆な構図にフィオも感心しきり。

普段の彼女はこんな緻密な絵を描くように見えないが
人(精霊)って見かけによらないんだな。

さあ、お絵描きに付き合っていた訳じゃないんだ。
みんなで描いた絵を触媒にガチャる。
結果は.....聞かないで欲しい。

その後数個の石を溶かしたところで俺は諦めた。
斯くして今日この実験で解った事は
彼女には絵の才能があるという事だけだった。
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