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閑話 とある魔神族 ②
俺は、魔神族の街で飲食店を営んでいる。
味には自信があるし、客の入りも悪くない。自分で言うのもなんだが、そこそこ繁盛している店だ。
そんな俺には、大切な家族がいる。
いつも明るくて、家事も育児も、店の手伝いまで完璧にこなす――素敵な妻。
そして、天使のように可愛い愛娘。
……そんな平穏な日々を、ある日、突然の悲報が襲った。
買い物から帰ってきた妻の様子が、明らかにおかしかった。
「どうかしたのか? なんか……顔色が悪いぞ?」
そう尋ねた俺の前で、妻は泣き崩れた。
初めて見る光景だった。俺はどうしていいかわからず立ち尽くしていると、娘が口を開いた。
「おじちゃんが……病気になったの」
……妻の弟が、魔力病にかかったという。
「そ、そんな……っ」
妻の家族は、すでに両親を魔力病で失っていた。
残る身内は、もう弟だけだったんだ。
「どうして……どうして、私から家族を奪うの……。魔力病なんて、なくなってしまえばいいのに……」
そう言って、妻は弟の元へ看病に行きたいと願い出た。
「行ってこい。家も、店も、俺が何とかするから。お前は気にするな。……でも、無理はするなよ?」
「……ありがとう、あなた」
そうして妻は、弟のもとへ向かった。
そして数日後――
国王様から驚くべき発表があった。
『魔力病は、不治の病ではなくなった』
その言葉を聞いた俺は、店を閉めてすぐさま王宮へと走った。
王宮前には、すでに何人もの人々が集まっていた。
「……あれは、魔道具屋のゴンゾウか?」
声をかけると、やはりゴンゾウも来ていた。
理由は同じ。大切な存在が、魔力病にかかっている。
お互い、事情を語る中で気づいた。
集まっているのは皆、誰かを救いたくて必死な奴らだ。
――そこに、兵士が現れた。
「魔力病を治す食べ物は、“人族”が作ったものだ。それでも欲するなら、王宮へ入るがよい」
ざわつく空気。
けれど――
「……関係ねぇ。人族だろうが何だろうが、弟が助かるなら、何だっていい!」
周囲の誰もが、同じ気持ちだった。もちろん、俺もゴンゾウも。
食べ物を受け取った俺は、真っ直ぐ妻のいる弟の家へ向かった。
そして――
「これが、魔力病を治す“テンプルの温泉タマゴ”だ。少しずつ与えろって言ってたけど……」
俺は、ある大事なことを、すっかり忘れていた。
一気に食べさせるな。少しずつ与えろ。
ステイ様がそう言っていた。
けれど、俺は魔神族だし、魔力酔いなんて聞いたこともなかった。
……結果、妻は、弟に一気に口へ押し込んでしまった。
すると――
弟は、元気になった。
それはもう、驚くほどに。
――一ヶ月後。
「ねぇ、貴方……弟が元気なのはいいけど……」
妻が眉をひそめる。
「ここ一ヶ月、一睡もせずに働き続けてるのよ。しかも、前より若返ってない……?」
たしかに……あいつ、髪もツヤツヤになってるし、肌もピカピカだ。
何だあれ……若返ってねぇか……?
「これって……魔力酔い……なのか?」
不安になった俺は、ゴンゾウの店を訪ねてみた。
「……お前、あの説明ちゃんと聞いてたんだな?」
「あぁ。スプーン一口分ずつだろ? おかげで、うちの弟子はいい具合に元気だぞ。前より魔力が上がって、やる気もすごいしな!」
「……うらやましい」
うちの弟、元気すぎて寝ないんだが……。
やっぱり、あれは魔力酔いだったんだな……。
魔力酔いになると、治るまで時間がかかるらしい。
まぁ……魔力病で命を落とすよりは、ずっとマシだけど。
俺は心の中で、ステイ様と、あの人族に感謝することにした。
そして、次は必ず、ちゃんと説明を聞いてからにしようと、深く反省したのだった。
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味には自信があるし、客の入りも悪くない。自分で言うのもなんだが、そこそこ繁盛している店だ。
そんな俺には、大切な家族がいる。
いつも明るくて、家事も育児も、店の手伝いまで完璧にこなす――素敵な妻。
そして、天使のように可愛い愛娘。
……そんな平穏な日々を、ある日、突然の悲報が襲った。
買い物から帰ってきた妻の様子が、明らかにおかしかった。
「どうかしたのか? なんか……顔色が悪いぞ?」
そう尋ねた俺の前で、妻は泣き崩れた。
初めて見る光景だった。俺はどうしていいかわからず立ち尽くしていると、娘が口を開いた。
「おじちゃんが……病気になったの」
……妻の弟が、魔力病にかかったという。
「そ、そんな……っ」
妻の家族は、すでに両親を魔力病で失っていた。
残る身内は、もう弟だけだったんだ。
「どうして……どうして、私から家族を奪うの……。魔力病なんて、なくなってしまえばいいのに……」
そう言って、妻は弟の元へ看病に行きたいと願い出た。
「行ってこい。家も、店も、俺が何とかするから。お前は気にするな。……でも、無理はするなよ?」
「……ありがとう、あなた」
そうして妻は、弟のもとへ向かった。
そして数日後――
国王様から驚くべき発表があった。
『魔力病は、不治の病ではなくなった』
その言葉を聞いた俺は、店を閉めてすぐさま王宮へと走った。
王宮前には、すでに何人もの人々が集まっていた。
「……あれは、魔道具屋のゴンゾウか?」
声をかけると、やはりゴンゾウも来ていた。
理由は同じ。大切な存在が、魔力病にかかっている。
お互い、事情を語る中で気づいた。
集まっているのは皆、誰かを救いたくて必死な奴らだ。
――そこに、兵士が現れた。
「魔力病を治す食べ物は、“人族”が作ったものだ。それでも欲するなら、王宮へ入るがよい」
ざわつく空気。
けれど――
「……関係ねぇ。人族だろうが何だろうが、弟が助かるなら、何だっていい!」
周囲の誰もが、同じ気持ちだった。もちろん、俺もゴンゾウも。
食べ物を受け取った俺は、真っ直ぐ妻のいる弟の家へ向かった。
そして――
「これが、魔力病を治す“テンプルの温泉タマゴ”だ。少しずつ与えろって言ってたけど……」
俺は、ある大事なことを、すっかり忘れていた。
一気に食べさせるな。少しずつ与えろ。
ステイ様がそう言っていた。
けれど、俺は魔神族だし、魔力酔いなんて聞いたこともなかった。
……結果、妻は、弟に一気に口へ押し込んでしまった。
すると――
弟は、元気になった。
それはもう、驚くほどに。
――一ヶ月後。
「ねぇ、貴方……弟が元気なのはいいけど……」
妻が眉をひそめる。
「ここ一ヶ月、一睡もせずに働き続けてるのよ。しかも、前より若返ってない……?」
たしかに……あいつ、髪もツヤツヤになってるし、肌もピカピカだ。
何だあれ……若返ってねぇか……?
「これって……魔力酔い……なのか?」
不安になった俺は、ゴンゾウの店を訪ねてみた。
「……お前、あの説明ちゃんと聞いてたんだな?」
「あぁ。スプーン一口分ずつだろ? おかげで、うちの弟子はいい具合に元気だぞ。前より魔力が上がって、やる気もすごいしな!」
「……うらやましい」
うちの弟、元気すぎて寝ないんだが……。
やっぱり、あれは魔力酔いだったんだな……。
魔力酔いになると、治るまで時間がかかるらしい。
まぁ……魔力病で命を落とすよりは、ずっとマシだけど。
俺は心の中で、ステイ様と、あの人族に感謝することにした。
そして、次は必ず、ちゃんと説明を聞いてからにしようと、深く反省したのだった。
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