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第50話「異世界ママ、屋台フェス参戦!? 一日限定・行列のできる弁当屋」
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学園の特別教室。机の上には白紙の計画書。私はマーカーを握った。
「というわけで――屋台フェス、出ます!」
どよめき。拍手。空気が一気に明るくなる。
「出店名は『ハルさん亭・お弁当出張所』でどう?」 「“亭”って老舗感ある……好き」 「衛生動線と温冷区分は私が管理します」 「呼び込み、任せてください!」 「包装は上質な布包みで。『開ける楽しみ』は必須ですわ」
役割は決まった。あとは、看板商品だ。
「王女様の“思い出弁当”を核に、屋台向けに調整しましょう」
ホワイトボードに書く。 ・甘だし卵焼き/・甘辛ミートボール/・青菜のおかか和え/・俵おにぎり(三種)
「香りの“招待状”として、だし唐揚げを少量」 「香りは控えめに。押しつけないこと」 「了解。目標は――《完売》!」
地球の台所。だしをひき、小分け。甘辛ダレを煮詰め、保冷材を凍らせる。
「ママー、のぼり作ったよ!」
〈ハルさん亭〉の大きな文字。端に唐揚げのイラスト。やる気満々だ。
「包み布の折り方は、私が動画にするね」 「BGMと列誘導、俺がやる」 「母上、補給は命。お茶と味噌汁の保温も」 「価格表PDF、釣り銭は小額多めに」
我が家は、いつだって強力サポーター。
「お土産は――完売の自慢話!」
戸棚の向こうがやわらかく光る。私は保冷箱と保温箱を抱え、深呼吸。
「いってきます。行列、作ってくる!」
王都の中央広場。色とりどりの屋台。香りの結界がふんわり重なる。
私たちの屋台は“素朴路線”。のぼり〈ハルさん亭〉が風にはためく。
「受付は私。詰めは王女様とビアンカさん。揚げ場も私。呼び込みはティオ。衛生監査はコルネ先生」 「準備、よし!」
お昼の鐘。開店――しかし、足は止まらない。
右隣の〈金箔ステーキ串〉は即行列。左隣の〈七色ソーダ〉は写真目当ての列。うちだけ静か。
「……香り、行きます」
少量の“だし唐揚げ”を油へ。ふわっと広がる香ばしさ。続けて、卵焼きの甘い香り。炊き立ての米の湯気。
「何だ、この匂い……」
試食を一口。短く、でも確かな一言。
「うまい」
「“十秒試食”どうぞー!」
卵焼き一切れ、ミートボール半分、青菜ひとかみ。十秒で伝わる“家庭の味”。人が、人を呼ぶ。列が生まれる。
「列、曲がります。通路、確保」
屋台が小さな工場みたいに動き始める。私は揚げと詰めを往復。王女の手は速い。ビアンカの包みは美しい。ティオは呼び込みの合間に水を走らせる。
トラブル発生。炊飯の魔法石が出力低下。米がかたい。
「予備、いきます」
保温箱から“地球式”圧力鍋。主婦のカバンからは、だいたい何でも出る。
「蒸らし三分、切り返し一回。ティオ、蓋を浮遊で“そっと”」 「了解!」
湯気が一筋。米が息をする。
「再開!」
俵おにぎりが次々に生まれる。角は立てすぎず、握りすぎず――“ぽふっ”。
「呼び香、追加」
唐揚げを三回に分けて揚げる。香りの波を時間差で打つ。列のテンションを落とさないために。
「お待たせしました、“思い出弁当”です!」
包みを渡すたび、笑顔が増えていく。
列の端で、腕を組む影。ギルバート卿――今日は平服。
「偉い方に似たお客様。試食、どうぞ」 「いらん」
と言いつつ、卵焼きをひょい。もぐ。沈黙。もう一口。
「……列の整列、悪くない。香りの打ち方も。だが――」
来る、ダメ出し!
「――値札が小さい。老眼に優しくない」 「そこ!? すぐ直します!」
私は太字の値札を作り、コルネ先生が掲示高さを調整。卿は包みを一つ買い、ふんと去った。安定のツンデレ。
午後。列は途切れない。子ども連れが増えた。
「卵焼き、半分こね」 「おにぎり、一つは君に」
あちこちで“分ける手”が生まれる。包みを開けた瞬間の「わぁ」が広場に点々と灯る。
「王女様、見て」
小さな女の子が青菜をもぐもぐ。顔がふっと緩む。
「“嫌い”が“平気”になる顔。……うれしい」
「唐揚げ、ラスト行きます!」
油面がきらり。香りの招待状が、もう一通。
夕刻。最後の包みを渡す。
「完売、宣言します」
拍手の波。やりきった。
「常設出店の打診です! 週三で――」 「ごめんなさい。私は“家のごはん”と“学園の授業”が最優先」 「では――月一『家庭の味市』を、学園コラボで!」
王女が私の手を握る。
「やりましょう。広げたいの、“帰る味”を」
片づけを終え、夕焼けの広場に一礼。
地球のキッチン。フライパンを温め、卵を割る。
「ただいま。……今日も、よく働いた!」 「いただきまーす!」
どこの世界でも、お弁当は“時間を運ぶ料理”。次も、作ろう。
――次回《異世界ママ、甘い誘惑!? 学園スイーツ対決で“どらもどき”再登場!》
「というわけで――屋台フェス、出ます!」
どよめき。拍手。空気が一気に明るくなる。
「出店名は『ハルさん亭・お弁当出張所』でどう?」 「“亭”って老舗感ある……好き」 「衛生動線と温冷区分は私が管理します」 「呼び込み、任せてください!」 「包装は上質な布包みで。『開ける楽しみ』は必須ですわ」
役割は決まった。あとは、看板商品だ。
「王女様の“思い出弁当”を核に、屋台向けに調整しましょう」
ホワイトボードに書く。 ・甘だし卵焼き/・甘辛ミートボール/・青菜のおかか和え/・俵おにぎり(三種)
「香りの“招待状”として、だし唐揚げを少量」 「香りは控えめに。押しつけないこと」 「了解。目標は――《完売》!」
地球の台所。だしをひき、小分け。甘辛ダレを煮詰め、保冷材を凍らせる。
「ママー、のぼり作ったよ!」
〈ハルさん亭〉の大きな文字。端に唐揚げのイラスト。やる気満々だ。
「包み布の折り方は、私が動画にするね」 「BGMと列誘導、俺がやる」 「母上、補給は命。お茶と味噌汁の保温も」 「価格表PDF、釣り銭は小額多めに」
我が家は、いつだって強力サポーター。
「お土産は――完売の自慢話!」
戸棚の向こうがやわらかく光る。私は保冷箱と保温箱を抱え、深呼吸。
「いってきます。行列、作ってくる!」
王都の中央広場。色とりどりの屋台。香りの結界がふんわり重なる。
私たちの屋台は“素朴路線”。のぼり〈ハルさん亭〉が風にはためく。
「受付は私。詰めは王女様とビアンカさん。揚げ場も私。呼び込みはティオ。衛生監査はコルネ先生」 「準備、よし!」
お昼の鐘。開店――しかし、足は止まらない。
右隣の〈金箔ステーキ串〉は即行列。左隣の〈七色ソーダ〉は写真目当ての列。うちだけ静か。
「……香り、行きます」
少量の“だし唐揚げ”を油へ。ふわっと広がる香ばしさ。続けて、卵焼きの甘い香り。炊き立ての米の湯気。
「何だ、この匂い……」
試食を一口。短く、でも確かな一言。
「うまい」
「“十秒試食”どうぞー!」
卵焼き一切れ、ミートボール半分、青菜ひとかみ。十秒で伝わる“家庭の味”。人が、人を呼ぶ。列が生まれる。
「列、曲がります。通路、確保」
屋台が小さな工場みたいに動き始める。私は揚げと詰めを往復。王女の手は速い。ビアンカの包みは美しい。ティオは呼び込みの合間に水を走らせる。
トラブル発生。炊飯の魔法石が出力低下。米がかたい。
「予備、いきます」
保温箱から“地球式”圧力鍋。主婦のカバンからは、だいたい何でも出る。
「蒸らし三分、切り返し一回。ティオ、蓋を浮遊で“そっと”」 「了解!」
湯気が一筋。米が息をする。
「再開!」
俵おにぎりが次々に生まれる。角は立てすぎず、握りすぎず――“ぽふっ”。
「呼び香、追加」
唐揚げを三回に分けて揚げる。香りの波を時間差で打つ。列のテンションを落とさないために。
「お待たせしました、“思い出弁当”です!」
包みを渡すたび、笑顔が増えていく。
列の端で、腕を組む影。ギルバート卿――今日は平服。
「偉い方に似たお客様。試食、どうぞ」 「いらん」
と言いつつ、卵焼きをひょい。もぐ。沈黙。もう一口。
「……列の整列、悪くない。香りの打ち方も。だが――」
来る、ダメ出し!
「――値札が小さい。老眼に優しくない」 「そこ!? すぐ直します!」
私は太字の値札を作り、コルネ先生が掲示高さを調整。卿は包みを一つ買い、ふんと去った。安定のツンデレ。
午後。列は途切れない。子ども連れが増えた。
「卵焼き、半分こね」 「おにぎり、一つは君に」
あちこちで“分ける手”が生まれる。包みを開けた瞬間の「わぁ」が広場に点々と灯る。
「王女様、見て」
小さな女の子が青菜をもぐもぐ。顔がふっと緩む。
「“嫌い”が“平気”になる顔。……うれしい」
「唐揚げ、ラスト行きます!」
油面がきらり。香りの招待状が、もう一通。
夕刻。最後の包みを渡す。
「完売、宣言します」
拍手の波。やりきった。
「常設出店の打診です! 週三で――」 「ごめんなさい。私は“家のごはん”と“学園の授業”が最優先」 「では――月一『家庭の味市』を、学園コラボで!」
王女が私の手を握る。
「やりましょう。広げたいの、“帰る味”を」
片づけを終え、夕焼けの広場に一礼。
地球のキッチン。フライパンを温め、卵を割る。
「ただいま。……今日も、よく働いた!」 「いただきまーす!」
どこの世界でも、お弁当は“時間を運ぶ料理”。次も、作ろう。
――次回《異世界ママ、甘い誘惑!? 学園スイーツ対決で“どらもどき”再登場!》
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