異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ

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第68話「異世界ママ、ベランダ夏祭り! 家版“並ばない導線”と、地球オペレーション大実験」

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朝いちばん、ベランダの物干し竿がぴかっと光った。
今日は――うちのベランダで夏祭り。しかも“並ばない導線”の家版、実験本番。

「また異世界にいくの!?」
「今日は地球でやるよ。うちのベランダが夜市になります!」
「お土産は?」
「お土産じゃなくて、今日は“現地支給”。風鈴ゼリー小、ミニかき氷、雲どら・夏ひと口、あと塩レモン唐揚げ二個!」
「やった! 角は守る?」
「おにぎりじゃないけど、気持ちは守る」

キッチンカウンターにホワイトボードを立てた。題して――家版“並ばない導線”。

1. 玄関で消毒→木札配布(青=今、黄=三分後、白=“リビング影待ち”)


2. ベランダへ一方通行(スリッパ導線テープ)


3. 受け取り口はL字、会計はないけど特大値札は飾る(雰囲気大事)


4. “影ベンチ座布団+足置き”常設、耳やすめ布も用意


5. 受け取りは**雲ポスト(時間箱)**が“りん”でお知らせ



「係、決めまーす!」
「はい!」
「玄関は琴音、声の案内と木札ね」
「了解!」
「配膳は上の二人で交代、洗い物は真ん中チーム、末っ子は“盛り上げ担当”」
「盛り上げ重要~!」

保冷箱に“氷だしキューブ”、冷蔵庫には風鈴ゼリー小が並び、雲どら・夏ひと口は朝焼き→急冷→影箱へ。唐揚げはエアフライヤーに仕込んだ。
ベランダには、小さな風鈴スタンド、ミニかき氷機《雪輪》、そして影ベンチ座布団+足置き(可変脚・滑り止め)。洗濯物は、今日は休暇。

「じゃ、開店準備いくよー!」


---

玄関のチャイム。
ご近所の管理人さんと、仲良し家族がのぞく。琴音がにっこり。

「いらっしゃいませ。涼しい甘味、今宵だけ――じゃなくて、昼からやってます。木札どうぞ!」

黄札が配られ、雲ポストが“りん”。
ベランダ側では私が風鈴ゼリー小に魔音珠を装着、温度計が**9.9℃**になった瞬間――

チリン。

「鳴った!」
「音で涼しい!」
「一鳴きだけね。鳴らし過ぎると夏が逃げちゃうから」

受け取り口はL字。ビニールののれんが“ひやっ”と揺れて、影ベンチ座布団に座った人たちの肩がふっと下がる。
足置きに足を乗せた管理人さんが目を細める。

「三分で膝の力が抜けます」
「……ほんとだ。抜けた」

ミニかき氷は刃・さらで。白蜜を糸、柑蜜を点、薄荷塩檸は霧。
雲どら・夏ひと口は、冷やした薄皮に“半拍遅れ”であん、塩の粉雪は極少。

「十秒試食、どうぞー!」
「甘くないのに満足!」
「喉の手前で消える!」
「うちのベランダ、夜市!」

笑いが広がったころ、リビングの魔水晶がぴこり。

「進捗どうだ」
低い声。ギルバート卿、映像で登場。後ろで王女とビアンカ、ティオが手を振ってる。

「値札は――」
「特大、設置済みです!」
「よろしい」

王都側は“呼び込み台本(昼版)”の訓練中らしい。卿が咳払い。

「録音を送る。……いらっしゃいませ。涼しい甘味、今宵だけ――昼もよい」
「修正が生で入った!」

録音をスピーカーにうっすら流す。うちのベランダに、ちょっと“店の声”。


---

小さな事件その一。
《夕立のいたずら坊》が雲を一枚運んできて、ぽつ、ぽつ、ざん。

「雨来たー!」
「雨幕、展張!」
「撥水和紙に切り替え!」
「雲ポスト、内側へ!」

子どもたちが持ち場で動き、私は《雪輪》の刃を止めて、トレーを影寄せ。
風鈴はスタンドを一歩下げ、魔音珠の消毒トレーを前に。
三分で雨は通過。影ベンチ座布団は竹+撥水で無傷、足置きはさらっと拭いて復帰。

「家オペレーション、行ける!」
「母ちゃん、現場監督みたい!」
「いつもキッチン監督です!」

小さな事件その二。
《甘露スプライト》が柑蜜の瓶にふよふよ。

「そこは舞台じゃないよー」

おとりの“香り水”をベランダ外の棚に置くと、ふわっと移動。琴音が小さく拍手。
「かわいい……けど衛生は可愛くないので、距離を保ってもらいます」
家でも言い聞かせる言い回し、だいたい通じる。

小さな事件その三。
末っ子がかき氷“粉雪連打”にハマって、器が山盛り。

「頭キーンきた!」
「眉間さすって、舌を上あごに。当てたまま、鼻でゆっくり」
「……抜けた! これ魔法?」
「生活魔法です」


---

午後の“見せ場”。
三点盛り――風鈴ゼリー小、ミニかき氷、雲どら・夏ひと口――を専用トレーに“がたつかず”収める。
黄札が“りん”。
私は息だけで合図、上の子がすっと差し出す。
並ばない。流れだけが生まれる。
家でも、できる。

「帰り道まで、冷たいまま」

録音の卿ボイスが、半歩先で止まって、やさしく落ちる。
うちのベランダ、完全に店だ。
管理人さんが小声で「常設希望」とメモして帰っていった。常設は、ない。たぶん。


---

夕方。
唐揚げの“いい音”で、弟が台所へ吸い込まれた。

「二個?」
「二個。……三個?」
「二個。夜ごはんも食べるの」
「了解!」

エアフライヤーの前で、私は唐揚げを低温→高温の二段。仕上げにレモン皮粉を極少。
“日傘みたいな香り”が、台所からベランダへ細い帯で流れる。

「かき氷の後に唐揚げが軽いの、ズルい~」
「夏の塩は保健室です」
「名言~!」

魔水晶の向こう、王都の屋台組から動画が届く。
卿が“昼版”の呼び込みを淡々と繰り出していて、背後の王女がうっとり。ティオは団扇でリズム刻んでる。
世界が二つ、同時に祭り。贅沢。


---

ラスト波。
風鈴ゼリー小は残り十、ミニかき氷は氷一丁、雲どら・夏ひと口は十二。
雲ポストが“りん”。
私は仕上げを半歩前倒し、半重ね運用でテンポを上げる。

「いらっしゃいませ。宵の甘味、できたてです――いや、夕暮れの甘味!」
琴音の声、よく通る。
下の子が“耳やすめ布”を小さな子に渡して、足置きの高さを一段下げてやる。
うちのチーム、優秀。

最後のセットを渡す前に、ベランダの風鈴が一度だけ、チリン。
私は深呼吸して、トレーを差し出した。

「どうぞ。今日いちばん“並ばなかった”甘味です」

拍手。
ベランダの影が長く伸びて、夕暮れがやわらかく溶けた。


---

片づけ。
器を洗い、のれんを外し、雲ポストをしまう。
ホワイトボードにチェック印――家版“並ばない導線”、合格。

改善メモは三つ。
一、玄関の木札置き場を低い位置にもう一つ(小さい手でも取りやすく)。
二、足置きの可変目盛りを数字に。
三、卿ボイスの“締めの一言”、音量二段(昼・夜)。

魔水晶の向こうで卿がぽそり。
「……家の屋台は、理屈の“内側”が見える」
「はい。だから、失敗も愛せる仕様で」
「値札は――」
「今日は“家族割”で無料です!」
「よろしい」

王女が両手でハートを作って、ティオが団扇で“おつかれ風”。ビアンカは“受け渡し角度5度”の図面にいいねをくれた。


---

夜ごはん。
みんなで唐揚げを二個ずつ、雲どら・夏ひと口をデザートに、風鈴ゼリーは一鳴きしてから。
ベランダに紙ランタンを一つ灯す。

「いただきます!」
「今日の母ちゃん、屋台の人みたいだった」
「いつも台所の人です」
「またやって!」
「……やろっか、“秋の並ばない祭り”」

笑いながら、私はメモに一行。
――香りは招待状、声は導線、段取りは魔法。家でも、半歩先で涼しくなる。

「次は?」
「秋の予告。“焼きいも雲どら”と“きのこ出汁おにぎり”の並ばない実験」
「お土産は?」
「“ほくほくの帰り道”」
「最高!」

窓の外で、夜風がそっと笑った。明日も、いい台所になりますように。

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