異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ

文字の大きさ
52 / 107

第45話「異世界ママ、涙のお弁当!?王女様の過去と、もう一度の約束」

しおりを挟む
 「セレスティア様、お弁当が完成しましたよ~」

 私は蒸気の立ちのぼる木製の二段重をそっと王女の前に差し出した。異世界素材で作ったとは思えないほど、どこか懐かしい日本の“家庭弁当”のような見た目。黄金色の卵焼きに、こんがり焼いた肉団子、そして青菜の炒め物。彩りの配置までこだわった自信作だ。

 「わぁ……」

 セレスティア王女は、両手でそっとお弁当箱を受け取り、そのまましばらく黙って見つめていた。

 「どうぞ、お口に合うといいんですが……」

 そう言いながらも、私の方がドキドキしてしまう。

 王宮の豪華な料理とは違う、家庭の味。しかも王女の“記憶”を頼りに私が想像した、曖昧な思い出の再現。

 「……いただきます」

 王女は小さな箸を手に取り、そっと卵焼きを口に運んだ。

 もぐ、もぐ。

 もぐもぐ、もぐ……。

 「……っ!」

 その瞬間、ぽろりと涙が王女の頬を伝った。

 「セレスティア様!?」

 慌てる私をよそに、王女は笑って、でも泣いていた。

 「これ……この味……。そうです……、まさに……っ」

 ぽろぽろと涙を流しながら、次は肉団子を、次は青菜の炒め物を。口に運ぶたびに、彼女の瞳は潤んでいく。

 「……ごめんなさい、いきなり泣いてしまって。でも……私、本当に嬉しくて……」

 その言葉に、私も思わず目頭が熱くなる。

 誰かの大切な記憶の中にある“味”を、こうして再現できたこと。こんなにも喜んでもらえるなんて、料理人冥利に尽きる。

 「乳母様が……とっても優しい方だったんです。私にいつも、“セレスティア様は世界でいちばん大切な子”って言ってくれて……でも……」

 王女の声がかすれる。

 「戦争が起きたとき、乳母様は……私を庇って……亡くなってしまったんです」

 その場にいた誰もが、息を呑んだ。

 「それ以来、あの味は……私の中で、心の奥底にしまわれた宝物でした」

 私はそっと、王女の手に手を重ねる。

 「きっと……乳母さんも、王女様がこうして立派に笑ってるのを、すごく喜んでると思います」

 王女はコクリとうなずいた。

 「……ありがとう、ハルリエッタさん」

 その瞳にはもう、ただの涙ではなく、前を向く光が宿っていた。

 「このお弁当……私、世界中の人に届けたい。家庭の味のあたたかさを、思い出の味の優しさを……もっとたくさんの人に」

 その決意に、私は力強くうなずいた。

 「じゃあ、私も協力します。王女様の“お弁当計画”、異世界ママが全力でサポートしますから!」

 「はいっ!」

 こうして――
 思い出の味が、王女様の心に再び灯った瞬間。
 異世界ママの次なる冒険が、またひとつ始まったのだった。

✳✳✳


 「で、ですね! あの……実は……」

 王女様は、お弁当箱を大事そうに抱えながら、少しモジモジとこちらを見た。

 「……実は、このお弁当を使って、“王立学園”でちょっとした……その、イベントを……」

 「イベント……?」

 嫌な予感がするのは、きっと気のせいじゃない。

 「“王女主催・友情弁当交換会”を開催することにしましたっ!」

 ……えっ、今なんて?

 「お、お弁当……交換?」

 「はいっ! 庶民の子も、貴族の子も、同じ“お弁当”を食べて交流するんです! “みんな同じ釜の飯を食う”作戦ですっ!」

 ……いや、それ、理想は素晴らしいけど、王宮からの予算とか、貴族からの圧力とか、いろいろヤバいことが想像できるんですけど!?

 「も、もしかして、そのお弁当って……」

 「もちろん、ハルリエッタさんに全面プロデュースをお願いしたく!」

 ……はい、来ました。

 「う、うーん、なるほど~……って、えぇ!? 私!? 全部!? また異世界ママ、こき使われてない!?」

 すると後ろから、ちょこちょこと走ってくる足音。

 「ママーーー!! やっぱりこっち来てたー!」

 振り返ると、陽太と琴音が異世界側のゲートから走ってきた!

 「えっ!? 二人とも、どうやってここに!?」

 「お姉ちゃんが、ちょっとだけゲート操作してみたら行けちゃった! ね、琴音!」

 「うん、バッチリ! っていうか、ママまた無断で異世界出張してるし!」

 「おみやげは!? お菓子ある!? あとドラゴンのうろこ欲しい!」

 ……もう! あんたたち、そんな簡単に異世界来ないでー!

 「お、王女様! す、すみません、この子たち、うちの……」

 「まあ! ハルリエッタさんのお子様たちですか!? かわいい……!」

 セレスティア様が目を輝かせて駆け寄ってくる。

 「えっと、私は王女のセレスティアです。あなたたちは?」

 「琴音、中一! こっちは末っ子の陽太、小三!」

 「ドラゴンのうろこ、ある?」

 「こら陽太!」

 王女様はくすっと笑って、陽太の頭を撫でた。

 「また来てくださいね。お弁当、一緒に食べましょう!」

 「えっ、お弁当? ママの? やったー!!」

 まさかの家族ぐるみで王都イベントに巻き込まれそうな予感しかしない――。

 でも、悪くないかも。

 思い出の味をきっかけに、王女の心がほどけていく。
 そして、家族と共に作る新しい未来。

 異世界ママ、また一つ、大きなプロジェクトに巻き込まれました。

✳✳✳

 翌日――。

 私は王宮の厨房に、再び立っていた。

 「ふぅ……さて、今日も張り切ってお弁当作りますか!」

 子どもたちは地球に戻してきたけど、陽太が「お弁当楽しみ~! お菓子多めで!」と無茶ぶりしてたのが耳に残ってる。

 「……でも、まずは王女様のお弁当からよね」

 ノートに書き込んだレシピは、あの“曖昧な思い出”を元にした再現レシピ。

 甘めの卵焼き、しょっぱい肉団子、青菜の炒めもの。
 それに、小さなおにぎりと、デザートにりんごの蜜煮。

 「うん、愛情は詰めすぎってくらい入ってるはず!」

 ふんわり包んで仕上げたお弁当を持ち、王女様の私室へ。

 「お待たせしました、王女様。できあがりました!」

 差し出すと、セレスティア様の目がパッと輝く。

 「わあ……!」

 丁寧に開いた包みの中身を見て、手を胸に当てて小さく息をのむ。

 「この感じ……おぼえてます。この色、この香り……」

 そっと一口、卵焼きを口に運ぶ。

 ――しゃくっ。

 噛んだ瞬間、目に涙が浮かんでいた。

 「おいしい……懐かしい……」

 王女様はその場にぽつんと座り込み、まるであの頃の自分に戻ったように、静かに涙を流しながら食べ続けていた。

 「ハルリエッタさん、本当に……ありがとうございます」

 「いえ……私もね、子どもたちが小さいころ、こうやってお弁当作ってたから。気持ち、ちょっとだけわかるんです」

 「“家庭の味”って、本当にあるんですね……」

 王女様がポツリとつぶやいた。

 「私、ずっと“王女”としてふるまってきたけど……本当は、ただの女の子なんです。たまには、甘えたいし、泣きたい。こんなお弁当で、全部ふっとびますね……」

 私はそっと王女様の肩に手を置いた。

 「だったらこれからも、いっぱい作りますよ。おかわり、いつでも言ってください」

 「……はい!」

 まるで本当の娘のように、王女様は笑った。

 その笑顔に、私の胸もじんわりと温かくなる。

 お弁当が、誰かの心を救うなんて――やっぱり料理ってすごい。

 異世界ママ、今回もちゃんとお役目、果たせたみたいです。


---
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!

梅丸みかん
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。※書籍化に伴い「転生少女は異世界でお店を始めたい」から「転生少女は異世界で理想のお店を始めたい 猫すぎる神獣と一緒に、自由気ままにがんばります!」に改題いたしました。

SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう
ファンタジー
ブラック企業で倒れたSEが、 目を覚ますと――そこは異世界だった。 賑やかなギルド、個性豊かな仲間たち、 そして「魔法」という名のシステム。 元エンジニアの知識と根性で、男は再び“仕事”を始める。 一方、現実世界では、 兄の意識が戻らぬまま、妹が孤独と絶望の中で抗っていた。 それでも彼女は、心ある人々に支えられながら、 科学と祈りを武器に、兄を救う道を探し続ける。 二つの世界を隔てる“システム”の謎が、やがて兄妹を結びつける。 異世界と現実が交錯するとき、物語は再起動する――。 《「小説家になろう」にも投稿しています》

『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ
ファンタジー
毎日ドタバタ、でもちょっと幸せな日々。 家事を終えて、趣味のゲームをしていた主婦・麻衣のスマホに、ある日突然「スキル習得」の謎メッセージが届く!? 主婦のスキル習得ライフ、今日ものんびり始まります。

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います

Debby
ファンタジー
【全話投稿済み】  私、山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。  好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリストなのだけど、やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。転移先の条件として『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。  そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。  更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。  これにはちゃんとした理由があって、必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ないし、もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった私は、頼もしい仲間と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。  いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。  なんで私が転移することになったのか。謎はいっぱいあるし、理想通りだったり、思っていたのと違ったりもするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 2025.4.26 女性向けHOTランキングに入りました!ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧ 7時、13時、19時更新。 全48話、予約投稿しています。 ★このお話は旧『憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと』を大幅に加筆修正したものです(かなり内容も変わってます)。

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

処理中です...