内定ゼロ、でも異世界でスカウトされました!」

チャチャ

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第十一話:落ちてきた来訪者と、門の記憶

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空が割れたような音が、王都全体に響きわたった。

カスミ――イチノセ・カスミが塔の窓から見下ろすと、王都中央広場に何かが落下していた。白い閃光と、紫がかった霧のような魔力が地面を揺らし、騎士たちの間に動揺が広がる。

「まさか……」カスミは呟いた。「夢で見た“彼”?」

レンとサラがすでに外へと駆け出していた。カスミも遅れて階段を駆け降り、魔導院の玄関を飛び出す。

広場には、大きな魔法陣の痕跡が残り、その中心に一人の青年が倒れていた。

黒髪に、どこか日本人の面影を感じさせる顔立ち。カスミと同じような、異世界に馴染まない私服。そして、首元に微かに光る“門の印”。

「……ナツキ、リオウ?」

彼の名前を呼ぶと、そのまぶたがゆっくりと開かれた。

「……やっと……君に会えた」

夢と同じ声だった。確信した。彼も“門の適格者”だ。



リオウは、澪の診察を受けながら、自分の経緯を語った。

「俺も、大学を卒業して、就職活動に失敗した。ある日、研究所跡地の地下に潜って、偶然“門”のエネルギーに触れたんだ」

「まさか……“特異点の残響”に?」と澪が口を挟む。

「そう。君のプロジェクトの残骸かもしれない。で、そしたら、扉が開いた。気がついたら、この世界の砂漠地帯にいた」

リオウはこの世界で生き延びるために、最初は盗賊団に身を寄せたという。

「でも、力が暴走して、連中を吹き飛ばしてしまった。それからは一人でさまよってたんだ」

彼の魔力は、カスミのそれとは違っていた。黒と紫の混ざった、攻撃的な気配。
澪がこっそりカスミに告げた。

「彼の門は、きっと“不安定”なの。地球からの干渉が強すぎて、彼自身も制御しきれていない」

「じゃあ……このままだと?」

「暴走すれば、“門”が裂ける。あなたにも、世界にも危険よ」

だが、リオウは穏やかに微笑んだ。

「大丈夫。君がここにいるなら、俺もコントロールできると思うんだ。なぜか不思議と、心が落ち着くから」

その言葉に、カスミは少しだけ頬を赤らめた。



その夜。カスミは一人、塔の上から空を見上げていた。

「ねぇ、門って……運命を繋ぐためにあるのかな」

隣に立ったレンは、静かに答える。

「運命は、自分で繋ぐものだ。ただ、門はその“選択肢”を与える存在かもしれないな」

そこへ、サラがやってきた。手にはパンと果実酒。

「ねぇ、リオウって……あんたの恋人じゃないの?」

「えっ!? ち、違うよ!」

「ふーん。まあ、ちょっと顔は好みだけどね。強いし、放っておけないタイプ」
サラはふんと鼻を鳴らし、空を見た。

「でも気をつけなよ、カスミ。ああいう男は、簡単に人を“置いてく”顔してる」

その一言が妙に胸に残った。



翌日、王都近郊の丘に“歪み”が出現した。
それは、地表に広がる円形の黒い影であり、門の力が集まりすぎた結果生じる“境界漏れ”だった。

「これは……もう一つの門が、暴走を始めてる」澪が声を震わせる。

リオウが近づくと、その歪みは微かに揺れた。

「俺が……呼んでる?」

「違う、呼ばれてるのよ」カスミが言った。「私たち、試されてるの。“門の継承者”として」

歪みから、黒い獣のような影が這い出してきた。
その咆哮とともに、広がる瘴気――これはただの魔物ではない。

「門の魔力が“実体化”してる……世界そのものが敵になる前に、止めるしかない!」

レンが剣を構え、サラが飛び出す。

「行くよ、カスミ! 世界、守るんでしょ?」

「……うん!」

カスミは門の力を右手に集中させた。光が、空を裂き、闇を押し返す。

「リオウ! 一緒にやろう!」

「任せて。今度こそ、誰も傷つけないって決めたんだ」

二つの“門の継承者”が、その場で力を合わせた瞬間、黒い影は閃光に包まれて消えた。

だが、地面には新たな痕跡が残されていた。

それは、また別の“門”の気配だった。

「まだ……終わってない」

そう呟いたカスミの目に、新たな覚悟が灯る。

世界は今、変わろうとしていた。




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