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第十一話:落ちてきた来訪者と、門の記憶
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空が割れたような音が、王都全体に響きわたった。
カスミ――イチノセ・カスミが塔の窓から見下ろすと、王都中央広場に何かが落下していた。白い閃光と、紫がかった霧のような魔力が地面を揺らし、騎士たちの間に動揺が広がる。
「まさか……」カスミは呟いた。「夢で見た“彼”?」
レンとサラがすでに外へと駆け出していた。カスミも遅れて階段を駆け降り、魔導院の玄関を飛び出す。
広場には、大きな魔法陣の痕跡が残り、その中心に一人の青年が倒れていた。
黒髪に、どこか日本人の面影を感じさせる顔立ち。カスミと同じような、異世界に馴染まない私服。そして、首元に微かに光る“門の印”。
「……ナツキ、リオウ?」
彼の名前を呼ぶと、そのまぶたがゆっくりと開かれた。
「……やっと……君に会えた」
夢と同じ声だった。確信した。彼も“門の適格者”だ。
*
リオウは、澪の診察を受けながら、自分の経緯を語った。
「俺も、大学を卒業して、就職活動に失敗した。ある日、研究所跡地の地下に潜って、偶然“門”のエネルギーに触れたんだ」
「まさか……“特異点の残響”に?」と澪が口を挟む。
「そう。君のプロジェクトの残骸かもしれない。で、そしたら、扉が開いた。気がついたら、この世界の砂漠地帯にいた」
リオウはこの世界で生き延びるために、最初は盗賊団に身を寄せたという。
「でも、力が暴走して、連中を吹き飛ばしてしまった。それからは一人でさまよってたんだ」
彼の魔力は、カスミのそれとは違っていた。黒と紫の混ざった、攻撃的な気配。
澪がこっそりカスミに告げた。
「彼の門は、きっと“不安定”なの。地球からの干渉が強すぎて、彼自身も制御しきれていない」
「じゃあ……このままだと?」
「暴走すれば、“門”が裂ける。あなたにも、世界にも危険よ」
だが、リオウは穏やかに微笑んだ。
「大丈夫。君がここにいるなら、俺もコントロールできると思うんだ。なぜか不思議と、心が落ち着くから」
その言葉に、カスミは少しだけ頬を赤らめた。
*
その夜。カスミは一人、塔の上から空を見上げていた。
「ねぇ、門って……運命を繋ぐためにあるのかな」
隣に立ったレンは、静かに答える。
「運命は、自分で繋ぐものだ。ただ、門はその“選択肢”を与える存在かもしれないな」
そこへ、サラがやってきた。手にはパンと果実酒。
「ねぇ、リオウって……あんたの恋人じゃないの?」
「えっ!? ち、違うよ!」
「ふーん。まあ、ちょっと顔は好みだけどね。強いし、放っておけないタイプ」
サラはふんと鼻を鳴らし、空を見た。
「でも気をつけなよ、カスミ。ああいう男は、簡単に人を“置いてく”顔してる」
その一言が妙に胸に残った。
*
翌日、王都近郊の丘に“歪み”が出現した。
それは、地表に広がる円形の黒い影であり、門の力が集まりすぎた結果生じる“境界漏れ”だった。
「これは……もう一つの門が、暴走を始めてる」澪が声を震わせる。
リオウが近づくと、その歪みは微かに揺れた。
「俺が……呼んでる?」
「違う、呼ばれてるのよ」カスミが言った。「私たち、試されてるの。“門の継承者”として」
歪みから、黒い獣のような影が這い出してきた。
その咆哮とともに、広がる瘴気――これはただの魔物ではない。
「門の魔力が“実体化”してる……世界そのものが敵になる前に、止めるしかない!」
レンが剣を構え、サラが飛び出す。
「行くよ、カスミ! 世界、守るんでしょ?」
「……うん!」
カスミは門の力を右手に集中させた。光が、空を裂き、闇を押し返す。
「リオウ! 一緒にやろう!」
「任せて。今度こそ、誰も傷つけないって決めたんだ」
二つの“門の継承者”が、その場で力を合わせた瞬間、黒い影は閃光に包まれて消えた。
だが、地面には新たな痕跡が残されていた。
それは、また別の“門”の気配だった。
「まだ……終わってない」
そう呟いたカスミの目に、新たな覚悟が灯る。
世界は今、変わろうとしていた。
---
カスミ――イチノセ・カスミが塔の窓から見下ろすと、王都中央広場に何かが落下していた。白い閃光と、紫がかった霧のような魔力が地面を揺らし、騎士たちの間に動揺が広がる。
「まさか……」カスミは呟いた。「夢で見た“彼”?」
レンとサラがすでに外へと駆け出していた。カスミも遅れて階段を駆け降り、魔導院の玄関を飛び出す。
広場には、大きな魔法陣の痕跡が残り、その中心に一人の青年が倒れていた。
黒髪に、どこか日本人の面影を感じさせる顔立ち。カスミと同じような、異世界に馴染まない私服。そして、首元に微かに光る“門の印”。
「……ナツキ、リオウ?」
彼の名前を呼ぶと、そのまぶたがゆっくりと開かれた。
「……やっと……君に会えた」
夢と同じ声だった。確信した。彼も“門の適格者”だ。
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「俺も、大学を卒業して、就職活動に失敗した。ある日、研究所跡地の地下に潜って、偶然“門”のエネルギーに触れたんだ」
「まさか……“特異点の残響”に?」と澪が口を挟む。
「そう。君のプロジェクトの残骸かもしれない。で、そしたら、扉が開いた。気がついたら、この世界の砂漠地帯にいた」
リオウはこの世界で生き延びるために、最初は盗賊団に身を寄せたという。
「でも、力が暴走して、連中を吹き飛ばしてしまった。それからは一人でさまよってたんだ」
彼の魔力は、カスミのそれとは違っていた。黒と紫の混ざった、攻撃的な気配。
澪がこっそりカスミに告げた。
「彼の門は、きっと“不安定”なの。地球からの干渉が強すぎて、彼自身も制御しきれていない」
「じゃあ……このままだと?」
「暴走すれば、“門”が裂ける。あなたにも、世界にも危険よ」
だが、リオウは穏やかに微笑んだ。
「大丈夫。君がここにいるなら、俺もコントロールできると思うんだ。なぜか不思議と、心が落ち着くから」
その言葉に、カスミは少しだけ頬を赤らめた。
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その夜。カスミは一人、塔の上から空を見上げていた。
「ねぇ、門って……運命を繋ぐためにあるのかな」
隣に立ったレンは、静かに答える。
「運命は、自分で繋ぐものだ。ただ、門はその“選択肢”を与える存在かもしれないな」
そこへ、サラがやってきた。手にはパンと果実酒。
「ねぇ、リオウって……あんたの恋人じゃないの?」
「えっ!? ち、違うよ!」
「ふーん。まあ、ちょっと顔は好みだけどね。強いし、放っておけないタイプ」
サラはふんと鼻を鳴らし、空を見た。
「でも気をつけなよ、カスミ。ああいう男は、簡単に人を“置いてく”顔してる」
その一言が妙に胸に残った。
*
翌日、王都近郊の丘に“歪み”が出現した。
それは、地表に広がる円形の黒い影であり、門の力が集まりすぎた結果生じる“境界漏れ”だった。
「これは……もう一つの門が、暴走を始めてる」澪が声を震わせる。
リオウが近づくと、その歪みは微かに揺れた。
「俺が……呼んでる?」
「違う、呼ばれてるのよ」カスミが言った。「私たち、試されてるの。“門の継承者”として」
歪みから、黒い獣のような影が這い出してきた。
その咆哮とともに、広がる瘴気――これはただの魔物ではない。
「門の魔力が“実体化”してる……世界そのものが敵になる前に、止めるしかない!」
レンが剣を構え、サラが飛び出す。
「行くよ、カスミ! 世界、守るんでしょ?」
「……うん!」
カスミは門の力を右手に集中させた。光が、空を裂き、闇を押し返す。
「リオウ! 一緒にやろう!」
「任せて。今度こそ、誰も傷つけないって決めたんだ」
二つの“門の継承者”が、その場で力を合わせた瞬間、黒い影は閃光に包まれて消えた。
だが、地面には新たな痕跡が残されていた。
それは、また別の“門”の気配だった。
「まだ……終わってない」
そう呟いたカスミの目に、新たな覚悟が灯る。
世界は今、変わろうとしていた。
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