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第十二話:幸運の果て、絆の未来へ
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“門”が、再び開こうとしていた。
王都の上空に浮かぶ巨大な魔法陣。その中心には、地球と異世界を繋ぐ裂け目がゆらゆらと揺れていた。だが、それは以前のような穏やかな光ではなく、激しい雷鳴と混ざり合った、危うい“境界の亀裂”だった。
「門の制御が……利かない!」
魔導師の澪が叫ぶ。魔力の暴走、世界の構造を歪めるほどのエネルギーに、王都の人々も騒然となっていた。
「このままじゃ、異世界と地球、両方が巻き込まれる……!」
カスミ――イチノセ・カスミは、塔の屋上に立ち、揺れる空を見上げた。
隣には、リオウ。彼もまた、門の継承者として、この戦いを避けられない立場にあった。
「“門の核”を破壊すれば、暴走は止まるかもしれない。ただし……」
「戻れなくなる。地球にも、異世界にも」
カスミは目を閉じ、深呼吸をした。
「でも、それでもいい。どちらの世界も、もう“私の居場所”だから」
リオウは驚いたようにカスミを見つめ、それから微笑んだ。
「君はやっぱり、強いな」
そのとき、レンとサラが駆けつけた。剣士と盗賊。数々の困難を共に乗り越えてきた、かけがえのない仲間たちだ。
「無茶するなよ、カスミ」レンが言う。「けど、行くなら、俺も一緒だ」
「私も! 最後まで、仲間だからね!」サラは小さくウィンクした。
*
“門の核”は、次元の裂け目の中心――空中に浮かぶ“浮遊遺跡”の奥に存在していた。
風と魔力の奔流の中、四人は突き進む。魔物たちの咆哮、次元の歪み。すべてが、彼らを押し戻そうとする。
「もう少し……!」
澪が用意した制御装置を、カスミは核の中央へ投げ込む。その瞬間、白い光が爆ぜ、世界が止まったかのような静寂が訪れた。
――カスミ。聞こえるか。
それは、“門”そのものの声だった。
――お前に問う。この力を、終わらせるか。あるいは、継ぐか。
「私は……」
ほんの一瞬、地球での孤独な日々がよぎる。就活に失敗し、誰からも必要とされないと思っていたあの頃。
でも今は、違う。
この世界には、私を必要としてくれる人がいる。
そして、地球にも……再び手を伸ばせば、きっとつながる縁があるはず。
「“門”の力は、終わらせない。だけど――私が、守る」
その瞬間、カスミの体が光に包まれた。
“門の継承”が完了し、暴走は止まった。
浮遊遺跡が静かに崩れ、空に裂け目が閉じていく。カスミたちは、ふたたび王都の地へと降り立った。
*
数日後。
王都は日常を取り戻していた。人々は笑い、商人たちが行き交い、ギルドには依頼が溢れている。
「門の安定も確認されたわ」澪が報告する。「地球と異世界を結ぶ“回廊”として、これからも活用できる」
「地球の物資も、ちゃんと届いたしな。あの“カップ麺”ってやつ、また欲しい」サラは笑う。
カスミは、広場の噴水に腰をかけながら、小さなスマホを見つめた。修理されたそれには、地球のニュースが流れている。
“異常気象の原因、謎のエネルギー波と関係か?”
“行方不明だった女子大生、一ノ瀬カスミさん、再び連絡か”
「帰れる……けど、私は、ここでもう一つの人生を生きてる」
そこへリオウがやってきた。
「なぁ、カスミ。俺、もう少しこの世界に残ってみようと思う」
「……どうして?」
「この世界も悪くないって思えたから。君と出会って、仲間ができて――それが、地球では得られなかった“居場所”だった」
カスミは静かに頷いた。
「私も、ここが好き。だから……これからも、門を通じて、世界をつないでいく」
リオウが微笑む。
「それってつまり、俺たちが“冒険の先を選んだ”ってことだな」
「うん。新しい道を、自分で選んだの」
空は晴れわたり、風が新しい季節を運んでくる。
門は今日も、静かに光っていた。
(完)
---
王都の上空に浮かぶ巨大な魔法陣。その中心には、地球と異世界を繋ぐ裂け目がゆらゆらと揺れていた。だが、それは以前のような穏やかな光ではなく、激しい雷鳴と混ざり合った、危うい“境界の亀裂”だった。
「門の制御が……利かない!」
魔導師の澪が叫ぶ。魔力の暴走、世界の構造を歪めるほどのエネルギーに、王都の人々も騒然となっていた。
「このままじゃ、異世界と地球、両方が巻き込まれる……!」
カスミ――イチノセ・カスミは、塔の屋上に立ち、揺れる空を見上げた。
隣には、リオウ。彼もまた、門の継承者として、この戦いを避けられない立場にあった。
「“門の核”を破壊すれば、暴走は止まるかもしれない。ただし……」
「戻れなくなる。地球にも、異世界にも」
カスミは目を閉じ、深呼吸をした。
「でも、それでもいい。どちらの世界も、もう“私の居場所”だから」
リオウは驚いたようにカスミを見つめ、それから微笑んだ。
「君はやっぱり、強いな」
そのとき、レンとサラが駆けつけた。剣士と盗賊。数々の困難を共に乗り越えてきた、かけがえのない仲間たちだ。
「無茶するなよ、カスミ」レンが言う。「けど、行くなら、俺も一緒だ」
「私も! 最後まで、仲間だからね!」サラは小さくウィンクした。
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“門の核”は、次元の裂け目の中心――空中に浮かぶ“浮遊遺跡”の奥に存在していた。
風と魔力の奔流の中、四人は突き進む。魔物たちの咆哮、次元の歪み。すべてが、彼らを押し戻そうとする。
「もう少し……!」
澪が用意した制御装置を、カスミは核の中央へ投げ込む。その瞬間、白い光が爆ぜ、世界が止まったかのような静寂が訪れた。
――カスミ。聞こえるか。
それは、“門”そのものの声だった。
――お前に問う。この力を、終わらせるか。あるいは、継ぐか。
「私は……」
ほんの一瞬、地球での孤独な日々がよぎる。就活に失敗し、誰からも必要とされないと思っていたあの頃。
でも今は、違う。
この世界には、私を必要としてくれる人がいる。
そして、地球にも……再び手を伸ばせば、きっとつながる縁があるはず。
「“門”の力は、終わらせない。だけど――私が、守る」
その瞬間、カスミの体が光に包まれた。
“門の継承”が完了し、暴走は止まった。
浮遊遺跡が静かに崩れ、空に裂け目が閉じていく。カスミたちは、ふたたび王都の地へと降り立った。
*
数日後。
王都は日常を取り戻していた。人々は笑い、商人たちが行き交い、ギルドには依頼が溢れている。
「門の安定も確認されたわ」澪が報告する。「地球と異世界を結ぶ“回廊”として、これからも活用できる」
「地球の物資も、ちゃんと届いたしな。あの“カップ麺”ってやつ、また欲しい」サラは笑う。
カスミは、広場の噴水に腰をかけながら、小さなスマホを見つめた。修理されたそれには、地球のニュースが流れている。
“異常気象の原因、謎のエネルギー波と関係か?”
“行方不明だった女子大生、一ノ瀬カスミさん、再び連絡か”
「帰れる……けど、私は、ここでもう一つの人生を生きてる」
そこへリオウがやってきた。
「なぁ、カスミ。俺、もう少しこの世界に残ってみようと思う」
「……どうして?」
「この世界も悪くないって思えたから。君と出会って、仲間ができて――それが、地球では得られなかった“居場所”だった」
カスミは静かに頷いた。
「私も、ここが好き。だから……これからも、門を通じて、世界をつないでいく」
リオウが微笑む。
「それってつまり、俺たちが“冒険の先を選んだ”ってことだな」
「うん。新しい道を、自分で選んだの」
空は晴れわたり、風が新しい季節を運んでくる。
門は今日も、静かに光っていた。
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