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プロローグ:「わたしの世界が、始まる場所」
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土のにおいが、ふわりと鼻先をくすぐった。
陽だまりのような温もりに包まれて、わたしはゆっくりと目を開けた。
「……ん?」
そこに広がっていたのは、見たこともない景色だった。
優しく揺れる草原。澄んだ青空。どこか懐かしいような、けれど非現実的な光景。
まるで絵本の中に入り込んだような世界だった。
「ここ、どこ……?」
戸惑いながら身体を起こすと、草の感触が手のひらに伝わってきた。痛みも寒さもない。夢にしては、妙にリアルだった。
わたしの名前は、葛西ひまり。23歳、独身。趣味は料理と家庭菜園。そして、かわいい動物が好きだけど、重度のアレルギー持ちで今まで一度も触れたことがない。
物心ついた頃から孤児院で育ってきて、ずっと「家族」に憧れていた。誰かと食卓を囲むこと、眠る前に「おやすみ」と言うこと、朝「いってらっしゃい」と見送られること。そういう、当たり前のようでいて、わたしにはなかった日常をずっと夢見ていた。
だから、現実はけっこうしんどい。
大学を出てから就職した会社は、ブラック寸前。朝から晩まで働いても、心が満たされることなんてなかった。
そんな日々の中で、唯一の楽しみは、ファンタジー小説だった。
魔法があって、異世界があって、美味しいご飯があって、もふもふの動物たちが寄り添ってくれる。現実にはないけれど、そこには確かに“幸せ”が詰まっていた。
だから、あの日もそうだった。
帰り道、ふらりと立ち寄った古本屋で見つけた、一冊の分厚い本。タイトルも著者名も消えていて、表紙には金色の文字でこう書かれていた。
「“この世界に、心の安らぎを求める者よ——扉は、すぐそばに”」
不思議と手が伸びて、気づけばレジに持っていっていた。
その夜、ベッドに寝転びながら本を開いた瞬間——目の前が真っ白になって、気づけば、ここにいた。
「まさか……転生?」
そんな都合のいい話……と思いつつ、でもこの景色、あの金文字の本。ありえない体験を前にして、わたしの現実感はどんどん薄れていく。
「お嬢さん、大丈夫かね?」
優しい声に振り返ると、白い髭をたくわえた老紳士が立っていた。背中には薪を背負い、その横にはふわふわと毛の長い大きな犬のような魔物——いや、動物がいた。
それを見た瞬間、思わず叫びそうになった。けれど——
「あれ、くしゃみが……出ない?」
鼻もかゆくないし、目も平気。ずっと夢だった“もふもふとのふれあい”が、どうやらこの世界では可能らしい。
「なんだか、すごく……夢みたい」
老紳士はわたしの手を取り、にっこりと微笑んだ。
「なら、きっとこれは夢ではなく、君の“始まり”なんだろうね。さあ、うちにおいで。まずは温かいスープでも飲んで、落ち着こうじゃないか」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなった。
「家族のような存在」に、いつか出会えたら。
「帰る場所」が、どこかにあったなら。
そんな小さな願いが、今日、この場所から始まるのかもしれない。
わたし、葛西ひまり。
ここから、異世界でのスローライフを始めます。
---
陽だまりのような温もりに包まれて、わたしはゆっくりと目を開けた。
「……ん?」
そこに広がっていたのは、見たこともない景色だった。
優しく揺れる草原。澄んだ青空。どこか懐かしいような、けれど非現実的な光景。
まるで絵本の中に入り込んだような世界だった。
「ここ、どこ……?」
戸惑いながら身体を起こすと、草の感触が手のひらに伝わってきた。痛みも寒さもない。夢にしては、妙にリアルだった。
わたしの名前は、葛西ひまり。23歳、独身。趣味は料理と家庭菜園。そして、かわいい動物が好きだけど、重度のアレルギー持ちで今まで一度も触れたことがない。
物心ついた頃から孤児院で育ってきて、ずっと「家族」に憧れていた。誰かと食卓を囲むこと、眠る前に「おやすみ」と言うこと、朝「いってらっしゃい」と見送られること。そういう、当たり前のようでいて、わたしにはなかった日常をずっと夢見ていた。
だから、現実はけっこうしんどい。
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そんな日々の中で、唯一の楽しみは、ファンタジー小説だった。
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だから、あの日もそうだった。
帰り道、ふらりと立ち寄った古本屋で見つけた、一冊の分厚い本。タイトルも著者名も消えていて、表紙には金色の文字でこう書かれていた。
「“この世界に、心の安らぎを求める者よ——扉は、すぐそばに”」
不思議と手が伸びて、気づけばレジに持っていっていた。
その夜、ベッドに寝転びながら本を開いた瞬間——目の前が真っ白になって、気づけば、ここにいた。
「まさか……転生?」
そんな都合のいい話……と思いつつ、でもこの景色、あの金文字の本。ありえない体験を前にして、わたしの現実感はどんどん薄れていく。
「お嬢さん、大丈夫かね?」
優しい声に振り返ると、白い髭をたくわえた老紳士が立っていた。背中には薪を背負い、その横にはふわふわと毛の長い大きな犬のような魔物——いや、動物がいた。
それを見た瞬間、思わず叫びそうになった。けれど——
「あれ、くしゃみが……出ない?」
鼻もかゆくないし、目も平気。ずっと夢だった“もふもふとのふれあい”が、どうやらこの世界では可能らしい。
「なんだか、すごく……夢みたい」
老紳士はわたしの手を取り、にっこりと微笑んだ。
「なら、きっとこれは夢ではなく、君の“始まり”なんだろうね。さあ、うちにおいで。まずは温かいスープでも飲んで、落ち着こうじゃないか」
その言葉に、胸がじんわりと熱くなった。
「家族のような存在」に、いつか出会えたら。
「帰る場所」が、どこかにあったなら。
そんな小さな願いが、今日、この場所から始まるのかもしれない。
わたし、葛西ひまり。
ここから、異世界でのスローライフを始めます。
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