『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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3話「“ありがとう”が聞こえると、なんかうれしい」

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「うわ、めっちゃいい匂い……」

朝、キッチンに入ってきた悠翔(はると)が鼻をくんくんさせながら、カウンター越しにトーストをのぞき込んでくる。

「ママのコーヒー、なんか最近お店の匂いっぽいよね」

「え、そう? 前から同じやつだよ~」

――たぶん、これが“スキルの効果”ってやつなんだろうなぁ。

麻衣はカップを手に、にこにこしながらキッチンを見渡す。実際、最近の朝の空気がちょっと柔らかい。悠翔もひなのも、前よりケンカが少なくなった気がするし、夫・雄一も「眠気がましになったかも」とか言っていた。

ほんのり香るコーヒーの力って、案外侮れないのかも?


---

その日の午後、学校から帰った悠翔がちょっとむくれていた。

「ただいま~……」

ランドセルをぽいっと置いて、珍しくソファに直行。顔を伏せたままゲーム機をいじり始める。

「おや? ゲームはいつも15分おやつ後じゃなかったっけ?」

「……今日だけ、ちょっと……」

なにかあったな、これは。

すると、スキルがピリリと反応する。
(……“困ってる”反応? でも小さいな……)

麻衣はそっと隣に腰を下ろし、持っていたカップを悠翔の前に差し出す。

「ママのリラックスコーヒー、ひとくち飲んでみる?」

「いらないってば……」

そう言いながらも、ふとした瞬間に香りを吸い込んで、悠翔の肩が少しだけ緩んだように見えた。

「……今日、友達とちょっとケンカした」

ぽつりとつぶやく声に、麻衣は「うん」と相槌だけ打った。

「グループでやるプリントの係決めのとき、俺が勝手に“発表”やるって言っちゃって……。本当はみんなで話し合うべきだったんだってさ」

「あ~、あるある。言いたいことあると、つい先に言っちゃうやつ」

「でも、それで千尋に“自分ばっかやろうとする”って怒られて……ムカッとしたけど、あとで考えたら俺が悪かったかなって……」

スキルは何も言わない。ただ、麻衣は黙って横に座って、コーヒーの香りを漂わせ続けるだけ。

「……ママ、どう思う?」

「うーん。ママも昔、そういうことあったよ。でも、ちゃんと自分のこと反省できるって、はると偉いなぁって思うけどな」

悠翔が、ちょっと照れくさそうに笑った。


---

夕方、夕飯の準備をしながら、麻衣はキッチンからひそかに息子の様子を見守っていた。

(あれから千尋くんにLINEしたんだっけ。……お、返事きた?)

悠翔が「やっぱ俺が悪かった、ごめん」って送って、「俺も言いすぎた、ごめん」って返ってきたらしい。

「仲直りできた~!」と、リビングでガッツポーズしていた姿が微笑ましい。

麻衣は思わずほっこりして、思った。

(……“困りごと察知”スキルも、“香りでリラックス”スキルも、地味だけど、いいな)


---

夜。子どもたちが寝静まり、静かなリビングに通知音が響いた。

📱《スキルがレベルアップしました》

《「コーヒーの香りでリラックス効果(Lv2)」》
→ 香りの範囲が家の中全体に広がるようになりました。

📱《新しいスキル候補が解放されました》
①人の“ちょっとした不安”を感じ取れる(Lv1)
②会話中、相手の“本音に近い気持ち”がふんわり伝わる(Lv1)

「うわ……またなんか繊細なやつ来たなぁ」

麻衣は苦笑しつつ、スマホをテーブルに伏せた。

「でも、こういうのって、悪くないな……」

やんわりと人を助けるって、意外と悪くない。


---
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