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45話『麻衣のこと、俺はどれだけ知ってた?』
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最近の麻衣は、どこかキラキラして見える。
「今日、カフェでお客さんに“笑顔に癒されました”って言われちゃって」
「ひなのが“ひかりのリボン”って言い出して、朝から服探しの旅だったの」
いつもと変わらないような話を、笑いながら食卓で話してくれる。
でも――どこか違う。
それに気づいたのは、例の“スキルの告白”を聞いてからだった。
「……俺、うまく受け止めきれてないかもしれない」
出勤前、ネクタイを締めながらふとつぶやいた。
鏡の中の自分に対して、というより、心の整理のための独り言。
麻衣が「スマホで不思議なゲームをダウンロードしたら、スキルが見えるようになった」と言ったとき、
正直、最初は何かの冗談かと思った。
育児疲れ? カフェのストレス? そんなことも頭をよぎった。
でも彼女は、ふわっとした笑顔の奥で、本気だった。
「ひとの“ちょっとした気持ち”が、色で見えるようになったの」
そう言った時の麻衣の声は、不安ではなく――どこか誇らしげだった。
「スキルってさ……要するに、超能力ってことか?」
通勤途中の電車の中。スマホの画面をぼんやり眺めながら、雄一は改めて考えていた。
(いやでも、実際に俺も“助けられた”んだよな……)
会社の大ピンチで、偶然にも麻衣が出会った取引先の奥さんがキーパーソンだったという奇跡。
普通じゃありえないような偶然が、いくつも重なった。
まるで、運命が味方してくれていたみたいに。
だけど――それでも思う。
「俺……麻衣のこと、どれだけ知ってたんだろうな」
家事と育児とパート。慌ただしい日々の中で、
彼女が何を考え、どんな気持ちで過ごしていたか。
“ちゃんと見ていたつもり”で、見落としていたものがたくさんあった気がする。
その日の帰り道。
駅前のスーパーで晩酌用のビールを買い足し、ついでに麻衣の好きなプリンもひとつ手に取った。
(別に、何かしてやろうってわけじゃないんだけど……)
家のこと、子どものこと。
そして“スキル”なんて、普通じゃないものを抱えてなお、日常を穏やかにこなしていく麻衣に、
ちょっとだけ、感謝と尊敬の気持ちを伝えたくなった。
「ただいまー」
玄関を開けると、ひなのの「おかえりー!」が飛んできて、すぐ足に抱きついてくる。
その後ろで、エプロン姿の麻衣が顔を出した。
「おかえりなさい。今日はちょっと凝ったカレーだよー」
「おっ、珍しいな」
「うふふ、悠くんが“今日の給食カレーは微妙だった”って言ってたから、リベンジ!」
そんな会話を交わしながら、食卓に向かう。
テレビの音、食器の音、家族の笑い声。
ごく当たり前のはずの時間が、やけに愛おしく感じる。
食後、洗い物をしながら、ふと声をかけた。
「なあ麻衣」
「ん?」
「……あんまり無理すんなよ。スキルのこともあるしさ」
麻衣は少し驚いたようにこちらを見て、それから――ゆっくり笑った。
「うん。ありがとう。でも、無理してないよ。むしろ……楽しくなってきたところかも」
「楽しく?」
「うん。スキルって、私ひとりじゃ何もできないけど……誰かの気持ちが分かったとき、“よかったね”って思えるのが嬉しいの。変かな?」
「……いや。変じゃない。そういうとこ、麻衣らしいと思う」
そう言いながら、雄一は改めて思った。
スキルがあってもなくても、
麻衣は“麻衣”でいてくれる。
それが、きっといちばん大事なことなんだ。
そしてその夜。
洗濯物をたたんでいた麻衣の横に腰を下ろして、
何気なく言った。
「……今度さ、何か一緒にやってみる?」
「え? 何を?」
「いや、スキルのこと。俺にもできることあるなら、ちょっとだけ手伝いたいっていうか……」
「……ふふっ。じゃあ、“スキル使ったら夫がスイーツ買ってきてくれる”ってやつ、どう?」
「それ、もう実装されてるだろ。今日プリン買ってきたの、スキルのせいか?」
「えへへー♪」
おどけた麻衣に、苦笑いしてしまう。
――まあ、いいか。
たぶん俺は、これからもっと驚くことに巻き込まれていくのかもしれない。
でも、麻衣が隣にいるなら、それも悪くないと思えた。
---
「今日、カフェでお客さんに“笑顔に癒されました”って言われちゃって」
「ひなのが“ひかりのリボン”って言い出して、朝から服探しの旅だったの」
いつもと変わらないような話を、笑いながら食卓で話してくれる。
でも――どこか違う。
それに気づいたのは、例の“スキルの告白”を聞いてからだった。
「……俺、うまく受け止めきれてないかもしれない」
出勤前、ネクタイを締めながらふとつぶやいた。
鏡の中の自分に対して、というより、心の整理のための独り言。
麻衣が「スマホで不思議なゲームをダウンロードしたら、スキルが見えるようになった」と言ったとき、
正直、最初は何かの冗談かと思った。
育児疲れ? カフェのストレス? そんなことも頭をよぎった。
でも彼女は、ふわっとした笑顔の奥で、本気だった。
「ひとの“ちょっとした気持ち”が、色で見えるようになったの」
そう言った時の麻衣の声は、不安ではなく――どこか誇らしげだった。
「スキルってさ……要するに、超能力ってことか?」
通勤途中の電車の中。スマホの画面をぼんやり眺めながら、雄一は改めて考えていた。
(いやでも、実際に俺も“助けられた”んだよな……)
会社の大ピンチで、偶然にも麻衣が出会った取引先の奥さんがキーパーソンだったという奇跡。
普通じゃありえないような偶然が、いくつも重なった。
まるで、運命が味方してくれていたみたいに。
だけど――それでも思う。
「俺……麻衣のこと、どれだけ知ってたんだろうな」
家事と育児とパート。慌ただしい日々の中で、
彼女が何を考え、どんな気持ちで過ごしていたか。
“ちゃんと見ていたつもり”で、見落としていたものがたくさんあった気がする。
その日の帰り道。
駅前のスーパーで晩酌用のビールを買い足し、ついでに麻衣の好きなプリンもひとつ手に取った。
(別に、何かしてやろうってわけじゃないんだけど……)
家のこと、子どものこと。
そして“スキル”なんて、普通じゃないものを抱えてなお、日常を穏やかにこなしていく麻衣に、
ちょっとだけ、感謝と尊敬の気持ちを伝えたくなった。
「ただいまー」
玄関を開けると、ひなのの「おかえりー!」が飛んできて、すぐ足に抱きついてくる。
その後ろで、エプロン姿の麻衣が顔を出した。
「おかえりなさい。今日はちょっと凝ったカレーだよー」
「おっ、珍しいな」
「うふふ、悠くんが“今日の給食カレーは微妙だった”って言ってたから、リベンジ!」
そんな会話を交わしながら、食卓に向かう。
テレビの音、食器の音、家族の笑い声。
ごく当たり前のはずの時間が、やけに愛おしく感じる。
食後、洗い物をしながら、ふと声をかけた。
「なあ麻衣」
「ん?」
「……あんまり無理すんなよ。スキルのこともあるしさ」
麻衣は少し驚いたようにこちらを見て、それから――ゆっくり笑った。
「うん。ありがとう。でも、無理してないよ。むしろ……楽しくなってきたところかも」
「楽しく?」
「うん。スキルって、私ひとりじゃ何もできないけど……誰かの気持ちが分かったとき、“よかったね”って思えるのが嬉しいの。変かな?」
「……いや。変じゃない。そういうとこ、麻衣らしいと思う」
そう言いながら、雄一は改めて思った。
スキルがあってもなくても、
麻衣は“麻衣”でいてくれる。
それが、きっといちばん大事なことなんだ。
そしてその夜。
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何気なく言った。
「……今度さ、何か一緒にやってみる?」
「え? 何を?」
「いや、スキルのこと。俺にもできることあるなら、ちょっとだけ手伝いたいっていうか……」
「……ふふっ。じゃあ、“スキル使ったら夫がスイーツ買ってきてくれる”ってやつ、どう?」
「それ、もう実装されてるだろ。今日プリン買ってきたの、スキルのせいか?」
「えへへー♪」
おどけた麻衣に、苦笑いしてしまう。
――まあ、いいか。
たぶん俺は、これからもっと驚くことに巻き込まれていくのかもしれない。
でも、麻衣が隣にいるなら、それも悪くないと思えた。
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