『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

チャチャ

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77話『忘れられた再会と、色あせない想い』

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 その日、カフェのレジカウンターに、一人の若い男性客が立っていた。

 「ホットカフェオレと……レモンケーキをください。あと……」

 その声に、麻衣は小さく首を傾げた。

 (この人……どこかで……)

 黒縁眼鏡に、落ち着いたグレーのシャツ。大学生か、若い社会人といった雰囲気だが、どこか見覚えがある。

 「……あの、もしかして……」

 彼の方も、そっと視線を合わせてきた。

 「覚えてないかもしれませんけど……昔、子ども会で一緒でした。小学生のころ。夏祭りで“金魚すくい係”してたの、田仲さんですよね?」

 「えっ――!」

 思わず声が出た。

 「えーっと……もしかして……たけるくん?」

 「はい! やっぱり覚えてたんだ!」

 

 10年以上前の記憶が、一気によみがえる。  近所の子どもたちと一緒に、地域イベントでお手伝いした夏。麻衣が高校生で、たけるくんはまだ小学三年生くらいだったはずだ。

 「背、高くなったねぇ……!」

 「まあ、もう24ですからね」

 はにかみながら笑う彼を見て、麻衣の胸の奥がほんのり温かくなる。

 「実は……就職でこの町に戻ってきて。で、なんかこのカフェ、惹かれるものがあって」

 (それって……スキルの共鳴?)

 麻衣は、こっそりスマホを開いた。

 《共鳴反応:1名/懐かしさ・安心感/感情共鳴:安定》

 (やっぱり……懐かしい記憶が引き寄せてくれたのかな)

 

 「それにしても、田仲さん……変わらないですね」

 「いやいや、私も二児の母ですよ~。朝からひなのの髪留めが見つからなくて大騒ぎだったんだから」

 「でも、空気感っていうんですかね。高校生の頃と、変わらない優しさがあるというか……」

 思いがけない言葉に、麻衣は照れながらレモンケーキを並べた。

 

 そのとき――

 スミレさんがタイミング良く現れ、軽く会釈した。

 「こんにちは。……あら、今日はまた“面白い光”が混じってるわね」

 「スミレさん、それ私にも見えるようになる日、来ます?」

 「来るかもね。田仲さんはもう、だいぶ“深いところ”まで来てるもの」

 たけるくんがきょとんとした顔で二人を見ていたが、麻衣はふわりと笑ってごまかした。

 「……なんでもないの。スキルって言うか、特技みたいなもの」

 

 その日の夜。

 麻衣はリビングで、ひなのの髪をとかしながら、ふと思い出した。

 (そういえば、あのときの夏祭り……金魚すくいで、お母さんとはぐれた子の手をずっと握ってたっけ)

 それが、たけるくんだったのかもしれない。

 スマホには、そっと通知が表示される。

 《パッシブスキル“共鳴の軌跡”が発動しました》  《過去の縁が現在に影響を与えています》

 麻衣は静かに目を閉じて、笑った。

 (つながる気持ちって、本当にあるんだな……)

 レモンケーキの甘さと一緒に、心にも優しい余韻が残る一日だった。


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